[PF49] フィンランド総合制学校における特別な支援を必要とする児童生徒とその学級への支援
教員の語りによる学級変容プロセスモデルの生成
キーワード:フィンランド、総合制学校、学級変容プロセス
問題と目的
インクルーシブ教育モデル国であるフィンランドの連続性を持つ支援を可能にする特徴として一般支援(General support),強化支援(Intensified support),特別支援(Special support)の3段階の教育的支援が挙げられる。中田(2018)は,フィンランド総合制学校において,一般支援ではクラス教員(Class teacher),強化支援では特別教育教員(Special educational teacher),特別支援では特別クラス教員(Special class teacher)が鍵となり,これら鍵となる教員による各支援の取入れが行われていることを考察した。本研究は,フィンランド総合制学校の教員を対象とした面接調査により,総合制学校に在籍する特別な配慮を要する(Special educational Needs)児童生徒(以下,SEN児とする)をどのように支援し,学級に受け入れ,インクルーシブ教育を実現しているのかについて明らかにすることを目的としている。
方 法
調査協力校:協力校はフィンランド西部行政区の小さな都市,サロ市にあるフィンランド総合制学校2校。協力校の通常学級に在籍する児童生徒は約20-30名,特別学級では約5-10名であった。
時期と調査方法:(Ⅰ期2016年8月~9月,Ⅱ期2017年9月)観察およびインフォーマルインタビュー,(Ⅲ期2019年3月)インタビュー。
調査協力者:Ⅰ・Ⅱ期は,クラス教員,特別クラス教員,教科教員,特別教育教員,支援員,校長合計14名。Ⅲ期は,クラス教員,クラス教員の経験がある特別クラス教員合計5名。
インタビュー内容:(Ⅰ・Ⅱ期)日常的な支援と特別な支援の在り方について。(Ⅲ期)教員がSEN児に行う支援,SEN児を含めた学級に行う日常的な支援,学級の変化,インクルーシブ教育の考えについて。
データ分析:グラウンデッド・セオリーを採用。
結果と考察
分析の結果,カテゴリーグループ「SEN児への支援」「学級に行う支援と学級の変化」「インクルーシブ教育への考え」が導き出された。以下,カテゴリーを【】,下位カテゴリーを<>とする。
(1)SEN児への支援
フィンランド教員は日常的に,【モチベーション維持向上】や【比較・強制の排除】,【個性の尊重】をしながら,SEN児を含めた全ての児童生徒に【個別対応】しており,こうした日常の支援が学級におけるインクルーシブ教育を支えていると考えられた。SEN児に対しては,SEN児と二人で話をする時間を設けることや,SEN児の集中力の困難から,休憩を取り入れながら教室での学習を進めるなどの【個別対応】が行われていた。クラス教員は【SEN児に対する支援工夫】【SEN児自身の理解】について<疑問>を持ち,<試行錯誤>しつつ理解を深めていた。
また,【学習理解の査定】に対して目が配られ,習熟度による3段階の教育的支援変更が行われた。さらに,将来的な問題回避のために留年が取り入れられていた。そして,学習上の困難や行われている支援の感想などを適宜SEN児本人に確認し,会議などで本人が意見を伝えられる場を設けるなど【児童生徒の意見の尊重】が重要視されていた。
(2)学級に行う支援と学級の変化
SEN児が在籍している学級では,問題行動が生じた際に,<違和感><驚き>など【違和感のある雰囲気】が存在した。教員はSEN児への【個別対応】,学級における【授業の構造化】【危険回避】とともに,【学級へのSEN児についての説明】を行っていた。このカテゴリーにはSEN児の保護者と本人の了承を得た上での<SEN児の持つ特性><特性による問題行動の理解>の説明や,学級全体で自分の不得意について話し合う授業での<全員が持っている不得意という考え方>の説明など,同級生の理解を促す内容が含まれていた。
こうした説明と支援により,同級生のSEN児理解が促され,状況を見たうえでのSEN児のフォローや援助の申し出,声掛けなど<SEN児の状況を見て理解し関わる支援>と,SEN児をめぐる学級の動きを見ながら,同級生が事態を予測し,時には距離をおいて何もしない<SEN児の状況を見て理解し関わらない支援>とが生まれた。そして,学級の中ではSEN児に対してサポーティブに見守る雰囲気が生じ,『その生徒(ADHD:SEN児)とどう接するかということも(同級生にとって)日常の一部になっていく』の発言例(教員Mt)のように,【SEN児との日常的雰囲気】へとつながった。
(3)インクルーシブ教育への考え
SEN児が在籍する学級担任の経験を通して,教員は【教員としての成長的変化】【SEN児にとって適切な環境の重視】という対極にある考え方を獲得していた。SEN児が在籍する学級担任という経験により,教員として成長したという語りの一方で,SEN児にとっての適切な環境への重視からインクルーシブ教育に対し疑問を呈するフィンランド教員の考えも浮かび上がった。インクルーシブ教育モデル国といわれるフィンランドの現場の実態から浮かび上がった課題といえるだろう。
今後の課題
日本と異なる社会,制度を持つフィンランドのインクルーシブ教育でも,日本と共通する工夫が見られる一方,柔軟な多様性を尊重するフィンランドならではの考え方や取組がインクルーシブ教育を支えていることも明らかとなった。本研究をインクルーシブ教育への過渡期にある日本での,通常学級における日常的な支援の一助としたい。
インクルーシブ教育モデル国であるフィンランドの連続性を持つ支援を可能にする特徴として一般支援(General support),強化支援(Intensified support),特別支援(Special support)の3段階の教育的支援が挙げられる。中田(2018)は,フィンランド総合制学校において,一般支援ではクラス教員(Class teacher),強化支援では特別教育教員(Special educational teacher),特別支援では特別クラス教員(Special class teacher)が鍵となり,これら鍵となる教員による各支援の取入れが行われていることを考察した。本研究は,フィンランド総合制学校の教員を対象とした面接調査により,総合制学校に在籍する特別な配慮を要する(Special educational Needs)児童生徒(以下,SEN児とする)をどのように支援し,学級に受け入れ,インクルーシブ教育を実現しているのかについて明らかにすることを目的としている。
方 法
調査協力校:協力校はフィンランド西部行政区の小さな都市,サロ市にあるフィンランド総合制学校2校。協力校の通常学級に在籍する児童生徒は約20-30名,特別学級では約5-10名であった。
時期と調査方法:(Ⅰ期2016年8月~9月,Ⅱ期2017年9月)観察およびインフォーマルインタビュー,(Ⅲ期2019年3月)インタビュー。
調査協力者:Ⅰ・Ⅱ期は,クラス教員,特別クラス教員,教科教員,特別教育教員,支援員,校長合計14名。Ⅲ期は,クラス教員,クラス教員の経験がある特別クラス教員合計5名。
インタビュー内容:(Ⅰ・Ⅱ期)日常的な支援と特別な支援の在り方について。(Ⅲ期)教員がSEN児に行う支援,SEN児を含めた学級に行う日常的な支援,学級の変化,インクルーシブ教育の考えについて。
データ分析:グラウンデッド・セオリーを採用。
結果と考察
分析の結果,カテゴリーグループ「SEN児への支援」「学級に行う支援と学級の変化」「インクルーシブ教育への考え」が導き出された。以下,カテゴリーを【】,下位カテゴリーを<>とする。
(1)SEN児への支援
フィンランド教員は日常的に,【モチベーション維持向上】や【比較・強制の排除】,【個性の尊重】をしながら,SEN児を含めた全ての児童生徒に【個別対応】しており,こうした日常の支援が学級におけるインクルーシブ教育を支えていると考えられた。SEN児に対しては,SEN児と二人で話をする時間を設けることや,SEN児の集中力の困難から,休憩を取り入れながら教室での学習を進めるなどの【個別対応】が行われていた。クラス教員は【SEN児に対する支援工夫】【SEN児自身の理解】について<疑問>を持ち,<試行錯誤>しつつ理解を深めていた。
また,【学習理解の査定】に対して目が配られ,習熟度による3段階の教育的支援変更が行われた。さらに,将来的な問題回避のために留年が取り入れられていた。そして,学習上の困難や行われている支援の感想などを適宜SEN児本人に確認し,会議などで本人が意見を伝えられる場を設けるなど【児童生徒の意見の尊重】が重要視されていた。
(2)学級に行う支援と学級の変化
SEN児が在籍している学級では,問題行動が生じた際に,<違和感><驚き>など【違和感のある雰囲気】が存在した。教員はSEN児への【個別対応】,学級における【授業の構造化】【危険回避】とともに,【学級へのSEN児についての説明】を行っていた。このカテゴリーにはSEN児の保護者と本人の了承を得た上での<SEN児の持つ特性><特性による問題行動の理解>の説明や,学級全体で自分の不得意について話し合う授業での<全員が持っている不得意という考え方>の説明など,同級生の理解を促す内容が含まれていた。
こうした説明と支援により,同級生のSEN児理解が促され,状況を見たうえでのSEN児のフォローや援助の申し出,声掛けなど<SEN児の状況を見て理解し関わる支援>と,SEN児をめぐる学級の動きを見ながら,同級生が事態を予測し,時には距離をおいて何もしない<SEN児の状況を見て理解し関わらない支援>とが生まれた。そして,学級の中ではSEN児に対してサポーティブに見守る雰囲気が生じ,『その生徒(ADHD:SEN児)とどう接するかということも(同級生にとって)日常の一部になっていく』の発言例(教員Mt)のように,【SEN児との日常的雰囲気】へとつながった。
(3)インクルーシブ教育への考え
SEN児が在籍する学級担任の経験を通して,教員は【教員としての成長的変化】【SEN児にとって適切な環境の重視】という対極にある考え方を獲得していた。SEN児が在籍する学級担任という経験により,教員として成長したという語りの一方で,SEN児にとっての適切な環境への重視からインクルーシブ教育に対し疑問を呈するフィンランド教員の考えも浮かび上がった。インクルーシブ教育モデル国といわれるフィンランドの現場の実態から浮かび上がった課題といえるだろう。
今後の課題
日本と異なる社会,制度を持つフィンランドのインクルーシブ教育でも,日本と共通する工夫が見られる一方,柔軟な多様性を尊重するフィンランドならではの考え方や取組がインクルーシブ教育を支えていることも明らかとなった。本研究をインクルーシブ教育への過渡期にある日本での,通常学級における日常的な支援の一助としたい。