日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PF] ポスター発表 PF(01-67)

2019年9月15日(日) 16:00 〜 18:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号16:00~17:00
偶数番号17:00~18:00

[PF51] 就職を希望する普通科高校生のキャリア選択に対する納得感(1)

キャリア選択の熟考を測定する試み

大谷哲弘1, 山本奬2 (1.立命館大学, 2.岩手大学大学院)

キーワード:キャリア選択、高校生、就職

問題と目的
 これまで,職業選択を考える場合には,ある時点での人の特性と職業の特徴との適合度が重要であると考えられてきた(Holland, 1985)。また,Savickas(2005)は,人と環境との適合の意味付けに着目した。さらに,大谷・竹下・山本(2018)は,質的なデータに基づき,内的基準(価値観や適性など)による外的基準(仕事内容,労働や環境の条件など)の吟味と,外的基準が内的基準に与える刺激の繰り返しという動的なものであることを報告した。本研究では,大谷ら(2018)で示唆された内的基準と外的基準の刺激と吟味の動きであるキャリア選択に対する熟考について,その構造を量的に明らかにすることを目的とした。
方  法
手続:予備的検討および本調査ともに,協力校の担任教師等が質問紙を生徒に配布しその場で記入を求め回収した。その際回答は任意である旨等を口頭で説明するとともにフェイスシートに記す等倫理上の配慮を行った。実施に際しては関係大学の倫理委員会の承認を得た。
予備的検討
目的:キャリア選択に対する熟考を測定する項目を選定する。
時期:2018年4月~5月
対象:就職を希望する高校生149人(商業科男子39人,女子110人)であった。
材料:大谷ら(2018)で得られたキャリア選択に対する熟考を表現するものについて,学校臨床心理学を専門とする大学教員2人およびキャリア心理学を専門とする大学教員1人で検討し,内的基準に基づいて外的基準を考えている項目7項目(例「やりたいことを踏まえて勤務条件を考えた」),外的基準に基づいて内的基準を考えている項目7項目(例「勤務条件を知って,自分が望む条件に近いか考えた」),合計14項目を作成した。その後,研究協力の同意が得られた高校生1人に対して,作成した項目についてインタビューを行い,正しく測定できる表現になっているかの確認を行った。その結果,作成した項目において修正する点はなかった。各項目について,5段階評定(全く考えていない~とても考えている)で回答を求めた。
結果:探索的因子分析を行った結果,1因子構造であった。
本調査
時期:2018年6月
対象:就職を希望する高校生1836人(内,普通科387人,他に農業科,工業科,商業科,家庭科,総合学科,その他の学科を対象とした。協力校は35校(内,普通科18校)であった。)
材料:予備的検討を経た14項目
結  果
 不備のあったものを削除した結果,1830人(内,普通科385人)の回答が分析された。
 まず,キャリア選択に対する熟考の構造を捉えるために,これを表す14項目について探索的因子分析を行ったところ,予備的検討と同様に1因子構造であった(寄与率:59.79%)。内的整合性はα=.943であった。内的整合性が高かったため,項目を減らすことを検討した。意味が重複しているもの,表現が曖昧なもの6項目を削除し,再度,内的整合性を分析したところ,α=.907と十分であり,足し上げによる尺度が作成された。安定性と妥当性については今後の課題とされた。
考  察
 大谷ら(2018)の質的検討では,キャリア選択を熟考する取り組みとしては,外的基準により内的基準を刺激することと,内的基準に照らして外的基準を吟味することの2種類あることが明らかとなった。しかし,量的検討を行った本研究においては,内的基準と外的基準間の刺激と吟味には区別がないことが示唆された。それは,刺激と吟味が相補的に繰り返されるためだと考えられた。各項目は内的基準と外的基準の両方を含む複文により構成されたが,この点からもそれは適切であったと考えられた。
 高校生が自らのキャリア選択に対して熟考するという作業は,これまでマッチング理論(e.g. Holland, 1985)で指摘されていたように,人と環境に分けて考えているわけではなく,外的基準⇒内的基準,内的基準⇒外的基準の往復を繰り返しながら,この「⇒」(矢印)の距離を縮め,自らを外との関係につなぐ取り組みを行っていると考えられる。
付  記
 本研究はJSPS科研費JP17K04838 の助成を受けたものです。