日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PF] ポスター発表 PF(01-67)

Sun. Sep 15, 2019 4:00 PM - 6:00 PM 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号16:00~17:00
偶数番号17:00~18:00

[PF61] 高校生の可能自己と学習意図の関係(1)

ポジティブな可能自己の活性化が学習に及ぼす影響

浅山慧 (上越教育大学大学院)

Keywords:可能自己、Identity-based motivation、学習動機づけ

目  的
 学校での学習は,「将来のため」と意味づけられることが多い。そこで本研究では,高校生において,「ポジティブな可能自己の表象が活性化したときに学習意図が高まる」という命題が成り立つための条件を検討する。先行研究から,“可能自己をイメージしやすく,現在自己とつながったものとして感じていること”(以下,将来イメージ),“学校での学習を可能自己実現のための方略として認知していること”(以下,方略としての学習)の重要性が示されている(Nurra & Oyserman, 2018)。本研究では,これらに,“可能自己を実現することが自身によって価値づけられていること”(以下,実現の価値づけ)という条件を加え,3つ全ての条件が満たされた場合において,可能自己が活性化すると学習意図が高まるという仮説を検証する。
方  法
 私立高校1,2年生163人(定期試験期間2日前)を対象に質問紙実験を行った。全ての対象者は,「3年後にどうなっていたいですか」という質問に自由記述で回答するよう求められた。対象者は,この回答を学習意図の測定より前に行う活性化条件と,後に行う統制条件とに分けられた。学習意図(例:難しい問題であっても,がんばって解こうと思う),“将来イメージ” (例:「3年後の自分」を鮮明にイメージすることができる),“方略としての学習” (例:高校で良い成績をとることは,「3年後になりたい自分」の実現に役立つ),“実現の価値づけ”(例(逆転項目):私は,「3年後になりたい自分」をどうしても実現させたいというわけではない)の測定は,全て項目への評定(6件法)によって行われた。
結  果
 学習意図,“将来イメージ”は3項目,“方略としての学習”,“実現の価値づけ”は4項目への評定値の合計得点を指標とした。学習意図を従属変数とし,ダミー変数化した実験条件と標準化した3変数,及びその三次の交互作用項までを7ステップに分けて投入する階層的重回帰分析を実行した(N = 139)。ここでは,投入したス
テップでの決定係数の増分と標準偏回帰係数が5%水準で有意だった項の結果を示す(R²は自由度調整済み)。
独立変数の効果 交互作用項なしの重回帰式(R² = .17)において,“方略としての学習”(β = .32, SE = .08,
p <.001)と“実現の価値づけ”(β = .24, SE = .08,
p <.01)の係数が有意だった。
交互作用効果 実験条件を含む有意な交互作用は認められなかった。一方で,二次の交互作用項までの重回帰式(R² = .19)において,3変数の二次の交互作用が有意だった(β = .16, SE = .07, p <.05)。そこで,“方略としての学習”,“実現の価値づけ”を調整変数として,“将来イメージ”の単純傾斜分析を行った。ただし,実験条件はダミー変数であるため,ここでは活性化条件と統制条件を分けて検討した(Figure 1, 2)。その結果,活性化条件において,“方略としての学習”+1SD,“実現の価値づけ”+1SDの場合の“将来イメージ”の単純傾斜のみ有意であった(β = .36, SE = .36, p <.05)。
考  察
 本実験では可能自己の活性化の効果は認められず,仮説は支持されなかった。一方で,可能自己を実現させたいという気持ちが強く,そのための方略として学習を認知している場合において,将来像をイメージしやすいほど学習意図が高いという関係が示された。ただし,この関係は可能自己が活性化した場合においてのみ有意だった。このことから,ポジティブな可能自己表象が活性化した場合においては,将来をより鮮明にイメージできているという感覚があるほど学習意図が高いことが示唆される。
 また,独立変数の効果から,「勉強は将来の役に立つ」といった信念や,「どうしてもこうなりたい」という将来像を持っていることなど,可能自己表象の活性化とは独立な,非状況依存的要因の効果も示唆された。
引用文献
Nurra, C. & Oyserman, D.(2018). From future self to current action: An identity-based motivation perspective. Self and Identity, 17(3), 343-364.