日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PF] ポスター発表 PF(01-67)

2019年9月15日(日) 16:00 〜 18:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号16:00~17:00
偶数番号17:00~18:00

[PF67] フィンランドの中学校英語教科書に関する一考察

伴浩美1, 皆川順2 (1.長岡技術科学大学大学院, 2.浦和大学)

キーワード:英語教科書、テキストマイニング、データマイニング

はじめに
 経済協力開発機構(OECD)による学習到達度調査(PISA)で,読解力,数学,科学的リテラシーについて世界1位のフィンランドは英語の運用能力も優秀であり,TOEFL iBTで世界6位となっている[1]。フィンランドの英語教育は正式には小学校3年生から始まり,中学校,高校と一貫して行われており,授業は教科書とワークブックが主体となっている[1]。
 本研究では,フィンランドの英語教科書の文体にはどのような特徴がみられるのか,中学校1~3年生用教科書について計量言語学的解析を行った。
解析方法
 本研究において解析した試料は以下の通りである。
 試料1:KEY 7(WSOY,2002)[1年生用](F1)
 試料2:KEY 8(WSOY,2003)[2年生用](F2)
 試料3:KEY 9(WSOY,2004)[3年生用](F3)
なお,比較のため,日本と韓国の中学校教科書NEW HORIZON English Course 1,2,3(東京書籍,2010),MIDDLE SCHOOL ENGLISH 1,2,3(天才教育出版,2008,2009,2010)(以下,J1,J2,J3,K1,K2,K3と記す)の本文の解析も行った。解析プログラムはC++で構成されている[2]。
結果と考察
 まず,各試料の文字頻度特性を求めた。上位50位までの使用頻度の高い文字順に50位まで片対数でプロットし,その特性を [ y = c * exp(-bx) ] で指数近似を行った。結果として,全ての試料の係数cとbにほぼリニアな関係が見られ,いずれの国の試料も学年が高くなるにつれて値が高くなっている。フィンランドはcが10.712~10.985,bが0.1096~0.1143と,日本(c:8.754~10.194,b:0.0894~0.1052)や韓国(c:9.755~11.242,b:0.0988~0.1132)に比べて全体的に高い。前報において著者らは様々なジャンルの英文を解析し,上位50位までの文字について,英文試料の係数cとbには正の相関が見られ,ジャーナリズムや技術英文に近いほどcとbの値が小さく,文学作品に近いほど,それらの値が大きい傾向にあることを示した[2]。従って,フィンランドの教科書は,文学作品に近い傾向があると言える。
 単語についても同様の解析を行ったところ,9試料の係数cとbに弱い正の相関が見られる。係数cについてはF3が9試料中最も低く,bについてはF2が最も高くなっている。なお,F1,F3,J3,K3の4試料は比較的近い値を取っており,1つのクラスタと見なすことが可能であると思われる。
 各試料がどの程度の難易度であるかを示すために,日本の中学校必修単語508語と,The American Heritage Picture Dictionary(2003)に掲載されている798語(以下,「基礎単語」と記す)を基準とし,難易度を求めた。難易度を表すパラメータには,単語種数からの難易度(Dws)と単語数からの難易度(Dwn)を考慮した。これらは,全単語数(nt),全単語種数(ns),必修[基礎]単語数(nrs),各必修[基礎]単語数(n(i))とすると,[ Dws = ( 1 - nrs / ns ) ],[ Dwn = { 1 - ( 1/nt * Σn(i) ) } ] より求められる[2]。さらに適切な指数を与えるため,DwsとDwnを変量として主成分分析を行い,それぞれの主成分得点を求めた。結果として,必修単語と基礎単語による難易度には,弱い正の相関が見られ,いずれの場合もフィンランドの教科書が日本と韓国の6試料よりも難しく,また,学年が上がるにつれて難易度が高くなっていることが明らかとなった。
 また,フィンランドの教科書は平均単語長が5.220~5.420字(日本:4.994~5.161,韓国:4.969~5.143),一文当たりの単語数は11.240~13.375語(日本:5.335~8.183,韓国:7.197~10.790)となっており,これらの点からもフィンランドの教科書の英文が難しいことが窺われる。
まとめ
 フィンランドの中学校英語教科書について,文字や単語の頻度特性を調べた。今後も海外の英語教科書の特徴抽出に関し,さらに研究を重ねていくとともに,解析結果の英語教育への応用について検討を行う予定である。
参考文献
[1]教育家庭新聞 kks Web News:「フィンランドの英語教科書」<https://www.kknews.co.jp/developer/finland/ index.html>(2019/04/14 最終アクセス)
[2]Ban, H., Kimura, H. and Oyabu, T.: Text Mining of English Materials for Business Management, International Journal of Engineering & Technical Research (IJETR), Vol. 3, Issue 8, pp. 238-243, 2015.