[PG10] 高校生の進路選択プロセスに関する研究
中国鄭州市を例として
Keywords:大学進学、情報収集、中国調査
問題と目的
中国の高校生は主体的に進路選択を行っていない,さらに,高校での進路に関する指導も十分ではないと言われている(胡.村上2009)。
日本では,大学の進学説明会,オープンキャンパスなど大学の情報を得る機会が豊富にあるのに対して,中国ではこのような機会は限られている。大学から発信された情報を有効に利用することで,高校生は大学や入試制度の情報を明確に理解した上で,自分に適した大学や専門を選択することができる。明確な進学動機があるなら,高校生が勉強する時にモチベーションを高く保つことができる。中国で主体的な進路選択が行われていない一つの原因として,大学に関する情報が高校生に十分把握されていないことが考えられる。本研究ではその様相を明らかにすることを目的とする。
本研究ではまず,中国における高校生の進路決定因子と情報把握程度を明らかにする。次に,進路決定因子と情報把握程度について,異なる学年の生徒のデータを比較することで,学年差があるかどうかを確認する。
最後に高校生がより明確な動機で自分の進路を考えるために,どのような支援が必要なのかを検討する材料を示すことを試みる。
方 法
平成30年8月~9月に中国河南省鄭州市の高校生173名,高一65名,高二52名,高三38名,卒業生(大学受験が終わって,入学前の段階)18名を対象とし,アンケート調査を行った。
結果と考察
1.「進路決定要因」と「情報把握程度」の尺度
「進路決定要因」に関する12項目について因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行い,結果を3因子にまとめた。
第1因子は,進学先として決定した大学の教育内容,就職状況,学生生活といった大学自体の魅力を示唆する内容であることから,「大学の魅力」と命名した。第2因子は,生活や住まいといった暮らしを示唆する内容であることから,「入学後の暮らし」と命名した。第3因子は,奨学金,学費といった大学の費用に関わる内容であることから,「大学の費用」と命名した。因子間相関は.32〜.44であった。
「情報把握程度」に関する18項目について因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行い,結果を2因子にまとめた。
第1因子は,大学の位置,授業内容,卒業生の就職率を示唆する内容であることから,「大学情報」と命名した。第2因子は,大学入試制度,合格倍率,合格ラインなどを示唆する内容であるから,「入試情報」と命名した。因子間相関は.71であった。
2.「進路決定要因」と「情報把握程度」の学年差
「進路決定要因」と「情報把握程度」に関する五つの下位尺度について,各尺度を構成する項目得点の平均値を下位尺度得点とした。そして,各得点について,調査対象者の学年を説明変数とする1要因配置の分散分析によって検討した。
「進路決定要因」では「大学費用」尺度の分散分析結果が有意であった(F(3,169)=7.15,P<.01)。 TukeyのHSD法による多重比較を行ったところ,卒業生が他の学年の生徒よりも有意に平均点が高く(5%水準),卒業生の方が他の学年の生徒より,費用を重視して進路を選択したことが示された。「情報把握程度」では「大学情報」「入試情報」尺度の分散分析結果は二つとも有意であった(大学情報:F(3,169)=7.39,入試情報:F(3,169)=8.99,いずれもP<.01)。多重比較の結果,卒業生が他の学年の生徒よりも高得点であった(5%水準)。
以上の結果より,中国の高校生は大学受験が終わってから,情報を収集し始めることが示された。
付 記
本研究はJSPS科研費(基盤研究[A]JP16H02051)の助成に基づく研究成果の一部である。
中国の高校生は主体的に進路選択を行っていない,さらに,高校での進路に関する指導も十分ではないと言われている(胡.村上2009)。
日本では,大学の進学説明会,オープンキャンパスなど大学の情報を得る機会が豊富にあるのに対して,中国ではこのような機会は限られている。大学から発信された情報を有効に利用することで,高校生は大学や入試制度の情報を明確に理解した上で,自分に適した大学や専門を選択することができる。明確な進学動機があるなら,高校生が勉強する時にモチベーションを高く保つことができる。中国で主体的な進路選択が行われていない一つの原因として,大学に関する情報が高校生に十分把握されていないことが考えられる。本研究ではその様相を明らかにすることを目的とする。
本研究ではまず,中国における高校生の進路決定因子と情報把握程度を明らかにする。次に,進路決定因子と情報把握程度について,異なる学年の生徒のデータを比較することで,学年差があるかどうかを確認する。
最後に高校生がより明確な動機で自分の進路を考えるために,どのような支援が必要なのかを検討する材料を示すことを試みる。
方 法
平成30年8月~9月に中国河南省鄭州市の高校生173名,高一65名,高二52名,高三38名,卒業生(大学受験が終わって,入学前の段階)18名を対象とし,アンケート調査を行った。
結果と考察
1.「進路決定要因」と「情報把握程度」の尺度
「進路決定要因」に関する12項目について因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行い,結果を3因子にまとめた。
第1因子は,進学先として決定した大学の教育内容,就職状況,学生生活といった大学自体の魅力を示唆する内容であることから,「大学の魅力」と命名した。第2因子は,生活や住まいといった暮らしを示唆する内容であることから,「入学後の暮らし」と命名した。第3因子は,奨学金,学費といった大学の費用に関わる内容であることから,「大学の費用」と命名した。因子間相関は.32〜.44であった。
「情報把握程度」に関する18項目について因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行い,結果を2因子にまとめた。
第1因子は,大学の位置,授業内容,卒業生の就職率を示唆する内容であることから,「大学情報」と命名した。第2因子は,大学入試制度,合格倍率,合格ラインなどを示唆する内容であるから,「入試情報」と命名した。因子間相関は.71であった。
2.「進路決定要因」と「情報把握程度」の学年差
「進路決定要因」と「情報把握程度」に関する五つの下位尺度について,各尺度を構成する項目得点の平均値を下位尺度得点とした。そして,各得点について,調査対象者の学年を説明変数とする1要因配置の分散分析によって検討した。
「進路決定要因」では「大学費用」尺度の分散分析結果が有意であった(F(3,169)=7.15,P<.01)。 TukeyのHSD法による多重比較を行ったところ,卒業生が他の学年の生徒よりも有意に平均点が高く(5%水準),卒業生の方が他の学年の生徒より,費用を重視して進路を選択したことが示された。「情報把握程度」では「大学情報」「入試情報」尺度の分散分析結果は二つとも有意であった(大学情報:F(3,169)=7.39,入試情報:F(3,169)=8.99,いずれもP<.01)。多重比較の結果,卒業生が他の学年の生徒よりも高得点であった(5%水準)。
以上の結果より,中国の高校生は大学受験が終わってから,情報を収集し始めることが示された。
付 記
本研究はJSPS科研費(基盤研究[A]JP16H02051)の助成に基づく研究成果の一部である。