日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-59)

2019年9月16日(月) 10:00 〜 12:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PG17] 高校生におけるコンピテンシーと達成目標の関連

批判的思考力と伝える力に着目して

扇原貴志1, 押尾恵吾2, 岸学3 (1.東京学芸大学, 2.東京学芸大学, 3.東京学芸大学)

キーワード:コンピテンシー(資質・能力)、達成目標、好奇心・探究心

問  題
 関口(2017)は,コンピテンシー(資質・能力)の構成要素を検討し,学習への「汎用的スキル」と「態度・価値」という2つの下位概念が存在するとした。さらに,「汎用的スキル」は7つの下位概念,「態度・価値」は8つの下位概念から構成されるとした。そして,中学生を対象とするコンピテンシーの程度を測定する尺度を作成した。
 先行研究の対象は中学生であったが,コンピテンシーの重要性は義務教育段階のみならず,高校生でも同様といえよう。そこで本研究では,関口(2017)の尺度を用い,高校生においてもコンピテンシーの下位概念は中学生と同様であると仮定した上で,コンピテンシーの下位概念間の関連を検討する。併せて,コンピテンシーと達成目標(e.g. Elliot,1999; Elliot & McGregor,2001)の関連を検討する。これにより,コンピテンシーと学習遂行時の目標や動機づけとの関連を明らかにする。
方  法
対象 東京都と広島県の高校生1533名(計3校)を対象とした。そのうち,回答内容に不備が見られた者を除いた1409名(1年生577名,2年生572名,3年生260名;性別不問)を分析対象とした。
質問紙 関口(2017)のコンピテンシー尺度37項目および,山口(2015)の達成目標尺度(邦訳版)12項目から構成された(両者とも6件法)。
結果と考察
 達成目標の各下位概念を説明変数,汎用的スキルと態度・価値の各下位概念を目的変数とし,同時に,態度・価値の各下位概念を説明変数,汎用的スキルの各下位概念を目的変数としたパス解析を行った。その結果,達成目標および態度・価値が批判的思考力と伝える力に及ぼす影響において明瞭な結果が得られた。そこで,本報告ではその結果に絞って報告する(Figure 1)。
 「できるようになりたい」という学習への動機づけである習得接近は態度・価値の多くの下位尺度に正の影響を与えていた。また「他者に勝ちたい」という動機づけの遂行接近も向上心と正しくあろうとする心に正の影響を与え,「できないのがいや」という動機づけの習得回避は協力しあう心に正の影響を与えていた。
 批判的思考力は,好奇心・探究心から正の影響が見られた。しかし,達成目標からの顕著な影響は見られなかった。よって,批判的思考力を高めるためには,生徒の学習に対する好奇心や探究心を高めることが重要であることが示唆された。伝える力は,好奇心・探究心および協力しあう心から正の影響が見られたが,達成目標からの顕著な影響は見られなかった。したがって,学習の中で他者に自分の考えを分かりやすく,正しく伝える力を育むためには,学習への好奇心や他者と協力して学習を進めようとする姿勢が重要といえる。
 以上のように本研究では,達成目標がコンピテンシーの態度・価値に影響し,さらに汎用的スキルに影響するという関連性を示すことができた。
付  記
 本研究は,東京学芸大学「次世代型コンピテンシー育成のための教育方法開発とその国内外への発信」(文部科学省機能強化経費「機能強化促進分」対象事業)の研究成果の一部である。