日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-59)

2019年9月16日(月) 10:00 〜 12:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PG25] 読み手が考えるメールの好ましさ評価尺度の作成

社会人と大学生を対象として

菊池理紗 (法政大学大学院)

キーワード:読み手、メール、好ましさの評価

目  的
 メールは,相手との関係が継続することを前提として送り合う文章である。このやりとりにおいて,メールの読み手は,もらったメールの好ましさ評価している(菊池,2016)。しかし,好ましさを計測する尺度は今まで作成されていなかった。そこで,本研究では読み手がメールの好ましさを評価する際の尺度を作成することを目的とした。
方  法
参加者 現在働いており,かつ,仕事上でメールを使用していると答えた社会人111名と,四年制大学(A校・B校)と短期大学(C校)に所属する大学生計214名から回答を得た。これらの参加者は菊池(2019)と同一である。なお,本調査は,事前に法政大学文学部心理学科・心理学専攻倫理委員会の了承を得た(承認番号:18-0018,18-0038)。
質問項目 好ましさ評価尺度(29項目)と質問項目の構成概念妥当性を担保するための岸・辻・籾山(2014)の読み手意識尺度(16項目)に回答を求めた。好ましさ評価尺度の項目は菊池(2018)の調査結果と菊池(2016,2017)のインタビューデータをもとに作成し,「メールを好ましい,あるいは,そうではないと思う基準」として回答させた。また,社会人の参加者に対しては,年齢や性別の他に,勤務年数と一日に読み書きするメールの通数,メールを読み書きする際に使用する媒体(スマホのみ・PCのみ・併用の3択)も尋ねた。
手続き 社会人は株式会社クロス・マーケティングに調査代行を依頼し,web調査を実施した。大学生には,社会人と同じ質問項目を書面にして配布し,手書きで回答させた。参加者ペースで個別に回答させ,また,回答時には,上司や指導教員などの目上の人と公的なメールをやりとりする場面を想定するように教示した。好ましさ評価尺度は6件法(1:まったくあてはまらない~6:非常によくあてはまる)で,読み手意識尺度は4件法(1:当てはまらない~4:当てはまる)で回答させた。回答の偏りを排除するため,各尺度内の質問項目はランダムに呈示した。また,順序効果を相殺するため,尺度そのものの呈示順はカウンターバランスを取った。
結果・考察
 はじめに,すべての項目に同じ数字をつけた参加者のデータを削除した。加えて,質問項目の「絵文字がない」あるいは「顔文字がない」に「1:まったくあてはまらない」と付けた参加者を分析から除いた。これらの項目は,参加者の場面設定に対する理解を確認するための質問項目として設定されていた。この結果,社会人と大学生の計281名(男性:100名,女性:181名,19歳4ヶ月~69歳6ヶ月)が分析対象となった。
 また,質問項目のうち,ビジネスメールにおいて書くべき事項,あるいは,書いてはならない事項として,佐藤・小笠原・布川(2015)で指摘されている8項目を分析から除外した。さらに,逆転項目として設定した「口頭で伝えた方がいい内容が入っている(M=3.5,SD=1.53)」と「難しい言葉を使っている(M=3.3,SD=1.75)」は,平均値が3を超えていたため,逆転項目として不適当であると考え,分析から除外した。
 次に,社会人とA校のデータをまとめたサンプル1(N=138)と,B校とC校のデータをまとめたサンプル2(N=143)の2群にデータを分けた。サンプル1に対しては探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った。因子は,固有値1以上の因子から解釈のしやすさをふまえて抽出した。さらに,いずれの因子にも因子負荷量が.40未満の項目と複数の因子に.40以上の負荷を持つ項目を削除し,再度因子分析を行った。
 因子分析の結果として,「ふさわしい言語表現因子」と「配慮の実感因子」の2因子を抽出した。各因子のα係数は.917と.913であった。因子間には強い正の相関関係がみられた(r=.775)。Amos25.0を用いて因子間に相関関係を仮定したモデルを作成したところ,適合度は,x2(103)=229.85,GFI=.829,AGFI=.775,RMR=.060,RMSEA=.095であった。また,好ましさ評価尺度と読み手意識尺度(岸他,2014)の相関関係を検討した結果,すべての因子間で中程度の正の相関関係がみられた(r=.480~.608)。
 続いて,サンプル2を用いてAmos25.0で確認的因子分析を行った。上述と同様に因子間に相関関係を仮定したモデルの適合度は,x2(103)=298.43,GFI=.786,AGFI=.717,RMR=.090,RMSEA=.116であった。信頼性係数はα=.799とα=.806であり,読み手意識尺度(岸他,2014)とも弱い~中程度の正の相関関係がみられた(r=.187~.350)。
 以上の結果から,社会人と大学生は,言語表現が場面にふさわしく,配慮が感じられるメールを好ましいと評価することが明らかになった。