日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-59)

2019年9月16日(月) 10:00 〜 12:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PG26] 授業後の子どもの振り返りの記述から「深い学び」を評価する

理解に対する教師の認識と評定の特徴

柴里実1, 植阪友理2, 太田絵梨子3, 福田麻莉4, Rittle-Johnson, Bethany#5 (1.東京大学大学院・日本学術振興会, 2.東京大学, 3.東京大学大学院・日本学術振興会, 4.東京大学大学院・日本学術振興会, 5.Vanderbilt University)

キーワード:教師、振り返り、評価

問題と目的
 新学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」を達成する必要性が明記された。さらに児童•生徒の学びの様子から,こうした教育目標が達成されているかを評価する必要性も示されている。評価を行うにあたり,授業の最後に児童•生徒に学んだことを振り返らせる活動が有効であろう。心理学では,知識同士の関連づけや概念的な理解を「深い理解」と捉えており,児童・生徒の記述を評定する基準が存在する。一方,実際に教師は心理学的視点と同じような観点で児童•生徒の振り返りを評価するのだろうか。児童・生徒の振り返りを分類・評価する先行研究は複数みられるが(飯塚, 2018; 野口•田中, 2018),振り返りを教師がどう評価しているのかという視点での研究は見当たらない。そこで本研究では,振り返りの評価と得点化,さらに評価基準の記述を求めることで,教師の評価の様子を探索的に検討する。
方  法
参加者 セミナーに参加した教師32名(小学校9名,中学校13名,高校5名,大学1名,複数種4名)。平均教職歴18.5年。
調査冊子の作成 小5算数「小数のわり算」の授業で実際に児童が記述した振り返りを素材とした。心理学的視点を踏まえ,記述を「概念的(わる数が整数になるまで何倍するか考える),「やや概念的(わる数を10倍,100倍したらわられる数も10倍,100倍する)」,「手続き的(わられる数とわる数の小数点を同じ桁数動かす)」,「表面的(位が足りなくなったら0を付け足すといい)」の4段階に分類し,各段階から2項目を選定した。
手続き 教科書を提示し,8つの振り返りの記述を「児童はこの授業をどの程度理解しているのか」という観点から,1点~4点で評定するように求めた。次に,各得点をどのような基準で評価したかを自由記述で回答させた。
結果と考察
教師の評定得点のクラスタ分析 評定値をもとに,k-means法によるクラスタ分析を行ない,3クラスタを抽出した。以下では,各クラスタに属する教師の特徴を明らかにする。
第1クラスタ(14名):概念的理解重視 「概念的理解」と「やや概念的理解」の評定得点が明確に異なり,かつ基準の記述においても「4点:わる数を整数にする」「2点:同じ桁数だけうつす」など概念的理解を重視していた。心理学的視点と最も高い類似性を持っていた(Kappa= .72)。
第2クラスタ(7名):基準の記述は概念的理解重視だが,評定得点は全体的に高い 基準の記述は第1クラスタと類似していたが,「手続き」や「表面的」な記述にも高得点を与えていた。心理学的視点と中程度の類似性を持っていた(Kappa= .47)。
第3クラスタ(9名):具体性や手続きを重視 基準に概念的理解に関する言葉がみられず,具体性や手続きを重視していた。心理学的視点による得点化とも最も異なっていた(Kappa= .30)。
 教師によって,「深い理解」をどう捉えているかが異なり,それによって振り返りの評価にばらつきが生じることが示された。評定が異なると,授業改善・指導法改善に結びつきにくいと考えられるため,今後は評価観点の統一が望まれる。