[PG27] 道徳ジレンマ課題における価値判断とMoral Disengagementとの関連
Keywords:道徳ジレンマ課題、価値判断、Moral Disengagement
問題と目的
人が欲望や衝動のままに振舞おうとするとき,それを抑制する働きとして社会的制裁と自己制裁がある。特に道徳的行動を調整する主要な機能を自己制裁における自己調整機能と呼ぶ(明田,1992)。こうした自己調整機能がうまく活性化しない場面,つまり自身の道徳的基準にのっとって行動するとは限らない状況に対して自己非難を回避する現象をBandura(1996,2002)はMoral Disengagement(以下,MD)と称した。「悪質な違法行為に比べたら,お金を払わずに物を取ることは大したことではない。」「友達をトラブルに巻き込まないようにするために,ウソをついても構わない。」というような自分自身にとって都合のよい解釈をするときにMDが生じている可能性が考えられる。そこで,本研究では道徳ジレンマ課題を与え,選択した価値とMDとの関係を明らかにすることを目的とする。
方 法
調査対象 A大学の大学生・大学院生72名(男性49名,女性23名)。
調査時期 2019年4月上旬に実施。
調査手続き (1)道徳ジレンマ課題:早坂・高橋(2018)の道徳ジレンマ課題の「公共の精神」「思いやり」に対するジレンマ場面において,妊娠している女性を登場人物とし新たに作成した。その場面において,どのような価値を選択するのか判断を求めた。(2)MD尺度:Bandura,Barbaranelli,Caprara,&Pastorelli(1996)及びその和訳(吉澤,2015)を参考に一部加筆し,「5とてもそう思う~1全くそう思わない」までの5件法で回答を求めた(32項目)。
結 果
(1)道徳ジレンマ課題:選択した価値(利己的価値,利他的価値,公利的価値)によって群を利己群(n = 14),利他群(n = 40),公利群(n = 18)に分類した。(2)MD尺度:Pelton et al.(2004)やPaciello et al.(2008)において一因子構造が確認されているため,Cronbachのα係数を求めたところ,α = .84であり先行研究と同程度の内部一貫性が得られたため,信頼性が得られたと判断した。各群を独立変数,MD尺度の合計得点を従属変数とした参加者間一要因分散分析を実施した。その結果,群によりMD得点の差が有意であった(F(2,69)= 7.37,p = .001)。Holm法を用いた多重比較によると,利己群の得点が利他群の得点よりも有意に大きかった(MSe = 129.01,p = .001)。しかし,利己群と公利群,利他群と公利群との間の得点に有意な差は見られなかった。
考 察
利己的価値を選択した利己群は,利他群よりMD得点が高いことが示された。すなわち,利己群はジレンマが生じるときに自己中心的に判断することが考えられる。これによって,選択した価値による群の分類方法は支持されたといえよう。ただし,利己群と公利群のMD得点において,有意差を得るまでに至らなかった。今後の課題として様々な場面や状況の道徳ジレンマ課題を作成し,条件を追加することで,どのような状況でMDは生じやすいのか比較する必要があるだろう。
人が欲望や衝動のままに振舞おうとするとき,それを抑制する働きとして社会的制裁と自己制裁がある。特に道徳的行動を調整する主要な機能を自己制裁における自己調整機能と呼ぶ(明田,1992)。こうした自己調整機能がうまく活性化しない場面,つまり自身の道徳的基準にのっとって行動するとは限らない状況に対して自己非難を回避する現象をBandura(1996,2002)はMoral Disengagement(以下,MD)と称した。「悪質な違法行為に比べたら,お金を払わずに物を取ることは大したことではない。」「友達をトラブルに巻き込まないようにするために,ウソをついても構わない。」というような自分自身にとって都合のよい解釈をするときにMDが生じている可能性が考えられる。そこで,本研究では道徳ジレンマ課題を与え,選択した価値とMDとの関係を明らかにすることを目的とする。
方 法
調査対象 A大学の大学生・大学院生72名(男性49名,女性23名)。
調査時期 2019年4月上旬に実施。
調査手続き (1)道徳ジレンマ課題:早坂・高橋(2018)の道徳ジレンマ課題の「公共の精神」「思いやり」に対するジレンマ場面において,妊娠している女性を登場人物とし新たに作成した。その場面において,どのような価値を選択するのか判断を求めた。(2)MD尺度:Bandura,Barbaranelli,Caprara,&Pastorelli(1996)及びその和訳(吉澤,2015)を参考に一部加筆し,「5とてもそう思う~1全くそう思わない」までの5件法で回答を求めた(32項目)。
結 果
(1)道徳ジレンマ課題:選択した価値(利己的価値,利他的価値,公利的価値)によって群を利己群(n = 14),利他群(n = 40),公利群(n = 18)に分類した。(2)MD尺度:Pelton et al.(2004)やPaciello et al.(2008)において一因子構造が確認されているため,Cronbachのα係数を求めたところ,α = .84であり先行研究と同程度の内部一貫性が得られたため,信頼性が得られたと判断した。各群を独立変数,MD尺度の合計得点を従属変数とした参加者間一要因分散分析を実施した。その結果,群によりMD得点の差が有意であった(F(2,69)= 7.37,p = .001)。Holm法を用いた多重比較によると,利己群の得点が利他群の得点よりも有意に大きかった(MSe = 129.01,p = .001)。しかし,利己群と公利群,利他群と公利群との間の得点に有意な差は見られなかった。
考 察
利己的価値を選択した利己群は,利他群よりMD得点が高いことが示された。すなわち,利己群はジレンマが生じるときに自己中心的に判断することが考えられる。これによって,選択した価値による群の分類方法は支持されたといえよう。ただし,利己群と公利群のMD得点において,有意差を得るまでに至らなかった。今後の課題として様々な場面や状況の道徳ジレンマ課題を作成し,条件を追加することで,どのような状況でMDは生じやすいのか比較する必要があるだろう。