[PG37] 大学でのキャリア教育は卒業時の就業に影響を与えるのか
制度的位置づけと就職先の企業規模の観点から
キーワード:教学IR、対応分析、キャリア教育
問題と目的
大学において学生の就業状況は,その社会的評価の観点から重要な指標である。このことから,各大学は,キャリア教育を充実させるために,カリキュラムにキャリア形成科目を導入している。しかし,キャリア教育の効果を学生の就業状況から検討している研究は少ない。例えば,小杉(2007)は,キャリア科目が雇用の定着に効果をあげていないと指摘している。
そこで,本研究では,キャリア教育のカリキュラム改定前後で学生の就業状況が変化したかどうかについて検討することとした。
方 法
関西の中堅私立文系大学であるA大学では,2014年度にキャリア教育の内容を全学的に統一し,1年次に全員履修することにした。合わせて,就職支援方針も変更し,量(就職率)から質(企業規模の向上)に転換した。そこで,2014年度入学生の就業状況と2012年度および2013年度入学生の就業状況を就職先の企業規模で比較した。2012年度の履修方法で学部を2群に分け,2012年度から全員履修であった学部をA群,2012年度と2013年度は選択履修であった学部をB群とした。
就職先の分類は,正規雇用の学生については,小杉(2007)を参考に,従業員規模で「巨大企業(5000人以上)」「大企業(300~4999人)」「中小企業(299人以下)」のいずれかとし,非正規雇用や就職しなかった学生は「非正規・非就職」とした。
以上の手順で,各年度各群における就職先分類の度数を調べ,対応分析を用いて分析した。
結 果
分析対象者は,2012年度入学(2015年度卒業)から2014年度入学(2017年度卒業)までの留年者を除いた卒業生合計3,676名であった。
Figure 1は,対応分析の結果を図示したものである。各次元の寄与率は,次元1が93.6%,次元2が4.8%であった。
考 察
Figure 1をみると,両群とも年度を経るごとに,より従業員数の多い企業への就職が増えている。これは,経済状況が上向きになったことによる就職状況の好転もあるが,大学の支援方針の転換に依るところが大きいと思われる。また, B群は,A群と比較すると,2013年度から2014年度の就職状況の改善の幅が大きいことがわかる。これは,全員履修にしたカリキュラム改定の効果を示唆しているのではないかと思われる。しかし,2014年度の両群でまだ差があることについては,今後の検討課題である。
このようなことから,大学生の就業には,大学の方針や初年次におけるキャリア教育が影響を与えていることが示唆された。ただし,明確な因果関係が見いだされたわけではない。今後,IRの観点からより分析を進めることで,科目の有効性を明らかにしていく必要があるだろう
参考文献
小杉礼子編(2007),大学生の就職とキャリア,勁草書房,第五章.
大学において学生の就業状況は,その社会的評価の観点から重要な指標である。このことから,各大学は,キャリア教育を充実させるために,カリキュラムにキャリア形成科目を導入している。しかし,キャリア教育の効果を学生の就業状況から検討している研究は少ない。例えば,小杉(2007)は,キャリア科目が雇用の定着に効果をあげていないと指摘している。
そこで,本研究では,キャリア教育のカリキュラム改定前後で学生の就業状況が変化したかどうかについて検討することとした。
方 法
関西の中堅私立文系大学であるA大学では,2014年度にキャリア教育の内容を全学的に統一し,1年次に全員履修することにした。合わせて,就職支援方針も変更し,量(就職率)から質(企業規模の向上)に転換した。そこで,2014年度入学生の就業状況と2012年度および2013年度入学生の就業状況を就職先の企業規模で比較した。2012年度の履修方法で学部を2群に分け,2012年度から全員履修であった学部をA群,2012年度と2013年度は選択履修であった学部をB群とした。
就職先の分類は,正規雇用の学生については,小杉(2007)を参考に,従業員規模で「巨大企業(5000人以上)」「大企業(300~4999人)」「中小企業(299人以下)」のいずれかとし,非正規雇用や就職しなかった学生は「非正規・非就職」とした。
以上の手順で,各年度各群における就職先分類の度数を調べ,対応分析を用いて分析した。
結 果
分析対象者は,2012年度入学(2015年度卒業)から2014年度入学(2017年度卒業)までの留年者を除いた卒業生合計3,676名であった。
Figure 1は,対応分析の結果を図示したものである。各次元の寄与率は,次元1が93.6%,次元2が4.8%であった。
考 察
Figure 1をみると,両群とも年度を経るごとに,より従業員数の多い企業への就職が増えている。これは,経済状況が上向きになったことによる就職状況の好転もあるが,大学の支援方針の転換に依るところが大きいと思われる。また, B群は,A群と比較すると,2013年度から2014年度の就職状況の改善の幅が大きいことがわかる。これは,全員履修にしたカリキュラム改定の効果を示唆しているのではないかと思われる。しかし,2014年度の両群でまだ差があることについては,今後の検討課題である。
このようなことから,大学生の就業には,大学の方針や初年次におけるキャリア教育が影響を与えていることが示唆された。ただし,明確な因果関係が見いだされたわけではない。今後,IRの観点からより分析を進めることで,科目の有効性を明らかにしていく必要があるだろう
参考文献
小杉礼子編(2007),大学生の就職とキャリア,勁草書房,第五章.