日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-59)

2019年9月16日(月) 10:00 〜 12:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PG41] 指導者によるスポーツ・ハラスメントを測定する尺度の開発(2)

中学生対象の回顧的調査

大橋恵1, 井梅由美子2, 藤後悦子3 (1.東京未来大学, 2.東京未来大学, 3.東京未来大学)

キーワード:体罰、コーチング、地域スポーツ

目  的
 スポーツは我々の生活に意義があるものであるが,競争や修練という厳しい面も含まれており,その導入となるべきジュニア時代においても指導者が行うハラスメントが時折問題となっている。本研究では,指導者ハラスメントの規定因を検討するために,まず尺度を作成する。
 ハラスメントは,加害者ではなく被害者がどのように感じるかが問題とされる。指導者ハラスメントを測定した研究はいくつか存在するが,自由記述を中心とするシンプルなものである(佐々木,2015)。そこで,筆者らは先行研究から項目を抽出し当事者の小学校6年生対象とした調査を行い,内的一貫性・再テスト信頼性を検討した(大橋他,2018)。しかし,渦中にいる者の評価には限界があるため,本研究では中学生に対して小学生時代を振り返っての調査を行った。
方  法
回答者と手続き 都内の公立中学校4校で1年生499名を対象に調査を行った。回答に不備のあった18名およびスポーツの習い事経験がない133名は分析から除外したため,分析対象者は348名(男子206名,女子142名)であった。2018年11~12月に教室で完全に匿名で一斉に実施した。
質問項目 小学生対象の調査(大橋他,2018)と同様に,スポーツ経験(種目名,経験年数,競技レベル),指導者ハラスメント経験,指導者の性格認知,指導者の勝利至上主義の程度認知などを尋ねた。さらに,そのスポーツを中学校進学時継続しているかどうかを尋ねた。
倫理的配慮 本研究は東京未来大学の倫理委員会の承認を得て実施された。実施にあたり,事前に中学校校長・保護者に調査実施について書面にて説明し了解を得た。生徒達にも成績に関係しないこと,自由意志であることを伝えた。
結果と考察
 習っていたスポーツには男女差があり,共通して水泳が多く,男子はサッカー・野球,女子はダンス・バレエが多めだった。個人スポーツ経験率は女子の方が(χ2 (1)= 9.574, V=.166, p<.01 ),集団スポーツ経験率は男子の方が有意に高かった(χ2 (1) =12.509, V=.190, p<.001)。
 指導者ハラスメント10項目について,選択肢を工夫したにもかかわらず分布が歪んでいた。そのため,正規分布を前提とした分析は不可能と判断し,各項目について経験ありの場合は「1」なしの場合は「0」とした合計値を得点とした。
 指導者ハラスメント得点の分布は,依然,歪みがないとは言えない状態であった。指導者ハラスメントが多い指導者の性格は,穏やかではなく(r=-.340, p <.01),攻撃的で(r=.373, p <.01),厳しく(r=.290, p <.01),思いやりに欠ける(r=-.296, p <.01)で,勝利至上主義的(r=.461, p <.01)と認知されていた。また,指導者ハラスメント得点は,スポーツ経験への満足度と負の相関が見られたが(r= -.193, p<.05),自尊感情との相関は認められなかった(r= -.045, n.s.)。ここまでは小学生調査と一致していた。
 つぎに,指導者ハラスメント得点と競技継続との関係を検討した。競技継続(有無)を独立変数とし,ハラスメント得点を従属変数とする順位の差の検定を行ったところ,女子では有意ではなかったが(z(1)= 0.864, n.s.),男子は有意であった(z(1)=2.165, p<.05)。すなわち,男子ではその競技を継続している群の方がしていない群よりもハラスメント得点が有意に高かった。
 以上より一定の妥当性はあると考えられるが,種目毎の検討や実際の経験との対応などさらなる検討の余地があろう。
引用文献
大橋他(2018)日心学会82, 1AM-132./佐々木万丈 (2015) スポーツとジェンダー研究, 13, 6-23.