[PG45] 小学校の通常の学級に在籍するASD児に対する周囲児の行動に関する研究
キーワード:インクルーシブ教育、周囲児の行動、KJ法
問題と目的
特別支援教育の推進に向けて,発達障害児と周囲の児童(以下,周囲児)の関係構築に向けた支援の検討は喫緊の課題となっている。しかし,通常の学級における両者の仲間関係に関する研究はきわめて少ないことが指摘されており(金・細川,2005),支援についても十分に検討されているとは言い難い。支援にあたっては,学校現場の実施時間確保の難しさ等から,日常的に取り組みやすい働きかけの必要性が指摘されている(曽山・堅田,2012)。そこで本研究では,小学校の通常の学級に在籍する自閉スペクトラム症が疑われる児童(以下,ASD児)に対する「周囲児の行動」に着目し,ASD児につらい思いをさせてしまうかもしれない周囲児の行動(以下,対象行動)と対象行動が起きていない時の周囲児の行動(以下,望ましい行動)及びその状況を明らかにすることで,日常的に実施できる,周囲児の望ましい行動を増やす支援を提案することを目的とする。
方 法
調査協力者 特別支援教育支援員28名
質問紙調査 1.ASSQ短縮版(伊藤他,2014),2.ASD児の性別・学年等,3.ASD児に対する周囲児の対象行動・望ましい行動及びその状況(応用行動分析の枠組みに沿って自由記述にて回答を求めた)。実施に際しては著者の所属機関の倫理審査専門委員会の承認を得た。
分析方法 周囲児の対象行動が「ある」と回答した11名を分析対象とし,周囲児の行動及び状況についての自由記述をKJ法(川喜田,1986)に準じた方法を用いて分析した。
結果と考察
本研究では,回答のあったASD児の約半数(47.8%)が,周囲児の行動によってつらい思いをしている可能性があることが示された。
周囲児の対象行動としては,「積極的な攻撃」(14.3%),「過剰な指摘・注意・反論」(28.6%),「除外」(35.7%),「すれ違い」(14.3%),「身代わり」(7.1%)が挙げられた。そのきっかけとしては,ASD児のルールや話題などの「枠組みの逸脱」(45.5%),「教師の目が届かない時」(9.1%),「常時」(18.2%)が見出された。一方,周囲児の望ましい行動としては「友好的な関わり」,「ASD児に合わせた対応」,「各々の時間を過ごす」が挙げられ,各行動のきっかけとして「ASD児の趣味や得意なことが生かされる場面」や「リーダー的児童の気付き」などが見出された(Table 1)。その中で「リーダー的児童の気付き」,「異性の児童の存在」,「各々が自分のことをやっている時」といったきっかけは,周囲児に焦点を当てて,学級の中の動きを捉えたきっかけであり,周囲児の行動に着目した本研究の成果であると考えられる。また本研究では,周囲児の望ましい行動の8割が「休み時間」にみられており,児童の中で望ましい関わりが生起し拡がっていることも示唆された。周囲児とASD児との日常的な関わりの中で,本研究で示唆された望ましい行動のきっかけを見出し,拡げていくことが支援において重要であると考えられる。
今後は調査協力者を増やして,より多くの事例に適用できる支援を検討することが必要である。
特別支援教育の推進に向けて,発達障害児と周囲の児童(以下,周囲児)の関係構築に向けた支援の検討は喫緊の課題となっている。しかし,通常の学級における両者の仲間関係に関する研究はきわめて少ないことが指摘されており(金・細川,2005),支援についても十分に検討されているとは言い難い。支援にあたっては,学校現場の実施時間確保の難しさ等から,日常的に取り組みやすい働きかけの必要性が指摘されている(曽山・堅田,2012)。そこで本研究では,小学校の通常の学級に在籍する自閉スペクトラム症が疑われる児童(以下,ASD児)に対する「周囲児の行動」に着目し,ASD児につらい思いをさせてしまうかもしれない周囲児の行動(以下,対象行動)と対象行動が起きていない時の周囲児の行動(以下,望ましい行動)及びその状況を明らかにすることで,日常的に実施できる,周囲児の望ましい行動を増やす支援を提案することを目的とする。
方 法
調査協力者 特別支援教育支援員28名
質問紙調査 1.ASSQ短縮版(伊藤他,2014),2.ASD児の性別・学年等,3.ASD児に対する周囲児の対象行動・望ましい行動及びその状況(応用行動分析の枠組みに沿って自由記述にて回答を求めた)。実施に際しては著者の所属機関の倫理審査専門委員会の承認を得た。
分析方法 周囲児の対象行動が「ある」と回答した11名を分析対象とし,周囲児の行動及び状況についての自由記述をKJ法(川喜田,1986)に準じた方法を用いて分析した。
結果と考察
本研究では,回答のあったASD児の約半数(47.8%)が,周囲児の行動によってつらい思いをしている可能性があることが示された。
周囲児の対象行動としては,「積極的な攻撃」(14.3%),「過剰な指摘・注意・反論」(28.6%),「除外」(35.7%),「すれ違い」(14.3%),「身代わり」(7.1%)が挙げられた。そのきっかけとしては,ASD児のルールや話題などの「枠組みの逸脱」(45.5%),「教師の目が届かない時」(9.1%),「常時」(18.2%)が見出された。一方,周囲児の望ましい行動としては「友好的な関わり」,「ASD児に合わせた対応」,「各々の時間を過ごす」が挙げられ,各行動のきっかけとして「ASD児の趣味や得意なことが生かされる場面」や「リーダー的児童の気付き」などが見出された(Table 1)。その中で「リーダー的児童の気付き」,「異性の児童の存在」,「各々が自分のことをやっている時」といったきっかけは,周囲児に焦点を当てて,学級の中の動きを捉えたきっかけであり,周囲児の行動に着目した本研究の成果であると考えられる。また本研究では,周囲児の望ましい行動の8割が「休み時間」にみられており,児童の中で望ましい関わりが生起し拡がっていることも示唆された。周囲児とASD児との日常的な関わりの中で,本研究で示唆された望ましい行動のきっかけを見出し,拡げていくことが支援において重要であると考えられる。
今後は調査協力者を増やして,より多くの事例に適用できる支援を検討することが必要である。