[PG59] 感謝喚起手法の比較検討
想起と筆記に焦点を当てて
キーワード:感謝、感情喚起、自伝的記憶
目 的
感謝とは,他者の行為によって利益が得られた際に感じる情動的反応と定義され(McCullough et al.,2001),私たちは他者からの手助けや親切等によって感謝を感じることがある。
感謝に関する先行研究は多いが,感謝を実験的に操作する手法として,例えば,自伝的記憶の想起や筆記といった感情喚起手法が用いられている(Algoe & Haidt,2009; DeSteno et al.,2014)。他者の利他的な意図によって利益を得た経験を想起した人は,利己的な意図によって利益を得た経験を想起した人よりも感謝が喚起すること(Tsang,2006)や,感謝経験について筆記した人は,主観幸福感を高め,抑うつ感を低下させること(Toepfer et al.,2011)等が示されている。
しかしながら,感謝経験の想起や筆記は簡易な手法であるものの,どちらの手法がより強く感謝を喚起するのかといった検討は行われていない。感謝と心身の健康との関連に関する知見を,子どもや高齢者といった様々な対象者に活用していくことを考えると,より簡便な手法であることに加えて,より適切に感謝を喚起させる手法を明らかにした上で用いることが必要だと考えられる。
そこで,本研究では,感謝経験の想起と筆記のどちらがより強く感謝を喚起するのかを検討した。また,これらの手法の違いが向社会的行動や他者に対する信頼性に及ぼす影響についても検討した。
方 法
参加者 大学生81名(男性16名,女性65名)が実験に参加した(平均年齢20.56歳,SD = 1.31)。
倫理的配慮 本研究は,所属機関の研究倫理委員会による承認を受けて実施した。
実験デザイン 1要因2水準(想起条件,筆記条件)の参加者間計画で実験を行った。
刺激 顔刺激として外国人顔(男性顔20名,女性顔20名)を用いた(Burton et al.,2010)。Kobayashi & Kawaguchi(2016)を参考に,信頼性が高い顔と低い顔を男女それぞれ半数ずつ用いた。
評定項目 (1)感情状態:現在の感謝状態を,Visual Analog Scale(VAS)(0; 全く感じていない—100; 非常に感じている)で測定した。なお,他の感情状態(負債感や喜び等)もフィラー項目として測定した。(2)信頼性:外国人顔に対する信頼性を, VAS(0; 全く信用できない—100; 非常に信頼できる)で測定した。(3)寄付行動:実験参加の謝金として1,000円を受け取った場合の寄付額(0円—1000円)を回答するように求めた。
手続き 本実験は1—3名で実施した。まず,参加者には感情状態と信頼性に関する質問に回答するように求めた。次に感情操作(想起条件もしくは筆記条件)を行った。想起条件では,過去に感謝した経験を詳細に想起するように求めた。筆記条件では,上記の内容を筆記するように求めた。なお,参加者には5分間,感謝経験の想起もしくは筆記を行うように求めた。感情操作後,感情状態と信頼性,寄付行動に関する質問に回答するように求めた。最後に,参加者には実験実施中に問題があったと判断した場合には,その内容を報告するように求めた。
結 果
はじめに,感謝得点を従属変数,条件(想起,筆記)と時期(Pre,Post)を独立変数とした2要因分散分析を行った結果,時期の主効果が有意であり(F(1,79)= 128.38,p < .001,ηp2 = 0.62),Postの感謝得点はPreの感謝得点よりも有意に高かった。一方,条件の主効果と交互作用は有意ではなかった(ps > .61)。次に,信頼性得点を従属変数,条件と時期を独立変数とした2要因分散分析を行った結果,時期の主効果が有意であり(F(1,79)= 286.51,p < .001,ηp2 = 0.78),Postの信頼性得点はPreの信頼性得点よりも有意に高かった。一方,条件の主効果と交互作用は有意ではなかった(ps > .88)。最後に,想起条件と筆記条件の間で寄付行動得点を比較した結果,それらの間で感謝得点に有意な差はなかった(t(79)= 0.55,p = .58,d = 0.21)。補足的な分析として, 負債感(被援助時に感じるネガティブ感情)得点を従属変数,条件と時期を独立変数とした2要因分散分析を行った結果,時期の主効果が有意であり(F(1,79)= 4.39,p = .04,ηp2 = 0.05),Postの負債感得点はPreの負債感得点よりも有意に高かった。一方,条件の主効果と交互作用は有意ではなかった(ps > .22)。
考 察
本研究の結果から,感謝経験の想起と筆記という手法は,どちらも同程度,感謝を喚起することが示された。今後,介入等を含む応用研究を展開する際には,対象者の個人差や発達段階に合わせた手法を状況に応じて使い分けることが有用であると考える。
感謝とは,他者の行為によって利益が得られた際に感じる情動的反応と定義され(McCullough et al.,2001),私たちは他者からの手助けや親切等によって感謝を感じることがある。
感謝に関する先行研究は多いが,感謝を実験的に操作する手法として,例えば,自伝的記憶の想起や筆記といった感情喚起手法が用いられている(Algoe & Haidt,2009; DeSteno et al.,2014)。他者の利他的な意図によって利益を得た経験を想起した人は,利己的な意図によって利益を得た経験を想起した人よりも感謝が喚起すること(Tsang,2006)や,感謝経験について筆記した人は,主観幸福感を高め,抑うつ感を低下させること(Toepfer et al.,2011)等が示されている。
しかしながら,感謝経験の想起や筆記は簡易な手法であるものの,どちらの手法がより強く感謝を喚起するのかといった検討は行われていない。感謝と心身の健康との関連に関する知見を,子どもや高齢者といった様々な対象者に活用していくことを考えると,より簡便な手法であることに加えて,より適切に感謝を喚起させる手法を明らかにした上で用いることが必要だと考えられる。
そこで,本研究では,感謝経験の想起と筆記のどちらがより強く感謝を喚起するのかを検討した。また,これらの手法の違いが向社会的行動や他者に対する信頼性に及ぼす影響についても検討した。
方 法
参加者 大学生81名(男性16名,女性65名)が実験に参加した(平均年齢20.56歳,SD = 1.31)。
倫理的配慮 本研究は,所属機関の研究倫理委員会による承認を受けて実施した。
実験デザイン 1要因2水準(想起条件,筆記条件)の参加者間計画で実験を行った。
刺激 顔刺激として外国人顔(男性顔20名,女性顔20名)を用いた(Burton et al.,2010)。Kobayashi & Kawaguchi(2016)を参考に,信頼性が高い顔と低い顔を男女それぞれ半数ずつ用いた。
評定項目 (1)感情状態:現在の感謝状態を,Visual Analog Scale(VAS)(0; 全く感じていない—100; 非常に感じている)で測定した。なお,他の感情状態(負債感や喜び等)もフィラー項目として測定した。(2)信頼性:外国人顔に対する信頼性を, VAS(0; 全く信用できない—100; 非常に信頼できる)で測定した。(3)寄付行動:実験参加の謝金として1,000円を受け取った場合の寄付額(0円—1000円)を回答するように求めた。
手続き 本実験は1—3名で実施した。まず,参加者には感情状態と信頼性に関する質問に回答するように求めた。次に感情操作(想起条件もしくは筆記条件)を行った。想起条件では,過去に感謝した経験を詳細に想起するように求めた。筆記条件では,上記の内容を筆記するように求めた。なお,参加者には5分間,感謝経験の想起もしくは筆記を行うように求めた。感情操作後,感情状態と信頼性,寄付行動に関する質問に回答するように求めた。最後に,参加者には実験実施中に問題があったと判断した場合には,その内容を報告するように求めた。
結 果
はじめに,感謝得点を従属変数,条件(想起,筆記)と時期(Pre,Post)を独立変数とした2要因分散分析を行った結果,時期の主効果が有意であり(F(1,79)= 128.38,p < .001,ηp2 = 0.62),Postの感謝得点はPreの感謝得点よりも有意に高かった。一方,条件の主効果と交互作用は有意ではなかった(ps > .61)。次に,信頼性得点を従属変数,条件と時期を独立変数とした2要因分散分析を行った結果,時期の主効果が有意であり(F(1,79)= 286.51,p < .001,ηp2 = 0.78),Postの信頼性得点はPreの信頼性得点よりも有意に高かった。一方,条件の主効果と交互作用は有意ではなかった(ps > .88)。最後に,想起条件と筆記条件の間で寄付行動得点を比較した結果,それらの間で感謝得点に有意な差はなかった(t(79)= 0.55,p = .58,d = 0.21)。補足的な分析として, 負債感(被援助時に感じるネガティブ感情)得点を従属変数,条件と時期を独立変数とした2要因分散分析を行った結果,時期の主効果が有意であり(F(1,79)= 4.39,p = .04,ηp2 = 0.05),Postの負債感得点はPreの負債感得点よりも有意に高かった。一方,条件の主効果と交互作用は有意ではなかった(ps > .22)。
考 察
本研究の結果から,感謝経験の想起と筆記という手法は,どちらも同程度,感謝を喚起することが示された。今後,介入等を含む応用研究を展開する際には,対象者の個人差や発達段階に合わせた手法を状況に応じて使い分けることが有用であると考える。