[PH05] 高校生の親準備性の発達
キーワード:親準備性、高校生、保育体験
問題と目的
「親準備性」とは,いまだ乳幼児を育てた経験のない思春期・青年期(12~25歳)の,子育てに関する知識や技能,子どもへの関心,親になろうとする態度などを指す。
親準備性は,中学生から高校生の時期にかけて発達し,女子の方が男子より高いとされる(伊藤,2003)。また,家庭科での保育学習を通して,幼児への関心や共感的応答性が高まるとされる(岡野他,2012)。しかし,どのような要因が,高校生の親準備性の発達に関連するかについての実証的な検討はほとんど行われていない。
本研究では,高校生を対象とし,親準備性の発達を学年および生物学的性差との関連で検討することを目的とする。また,保育体験の有無が,親準備性の発達にどのように反映されるかについても検証を行う。
方 法
調査対象者:京都府内の公立高校普通科に在籍する2,3年生計267名(男性79名,女性188名,平均年齢17.13歳,SD=0.48)。
調査時期:2019年2月~3月
調査内容:当該高等学校長から同意を得られたクラスで保護者向け説明書と共に質問紙を配布した。担当教員から説明をしてもらった後,調査に同意した生徒のみ,無記名で回答した。調査内容は,①フェイスシート(学年,年齢,年下の家族・親族との同居経験,中学校での乳幼児との触れ合い学習経験,高校3年時の保育体験を含む授業選択),および②親準備性の尺度として,「養護性尺度(楜澤,2009)」から23項目(6件法),「親準備性尺度(服部,2008)」から40項目(4件法)を用いて実施した。
分析方法:統計ソフトIBM SPSS Statistics19を使用した。
結 果
1. 親準備性の発達(学年・性別要因の検討)
先行研究を参考に「養護性尺度」の4下位尺度,「親準備性尺度」の5下位尺度の各合計得点を算出し,これらの各下位尺度得点を従属変数,学年と性別を独立変数として,二要因の分散分析を行った。その結果,学年については,親になる意思を示す下位尺度「親への準備性」で3年生の方が2年生より高く(F(1,258)= 4.44,p= .04,Figure1),性別については下位尺度「乳幼児に対する共感性」について女子の方が男子より高かった(F(1,257)= 9.98,p= .00,Figure2)。また,学年×性別の有意な交互作用はいずれもみられなかった。
2. 保育体験の有無との関連
対象校では,3年次に家庭科の専門科目である「子どもの発達と保育」を選択した生徒のみ,保育所・幼稚園・子育て支援施設等において1年間に5回(計10時間)の乳幼児の保育を体験している。各下位尺度得点について,保育体験群(女性のみ),保育体験無し群(女性のみ),保育体験無し群(男性のみ)の3群を設定し,一元配置の分散分析を行った(保育体験群(男性)は1名のみであったため今回の分析からは除外)。その結果,下位尺度「親になることへの負担感・不安感」で有意な群間差が見られた(F(2,48)= 4.01,p= .03)。多重比較の結果,保育体験群(女子)が保育体験無し群(女子)よりも有意に高かった(p= .02,Figure3)。
考 察
高校生の親準備性について,学年差を調べたところ,「親への準備性」については3年生の方が2年生よりも高かった。3年生は卒業を間近に控えており,卒業後の生活設計を具体化する意識が高まることにより,親となることへの意識も高まった可能性がある。性別に着目すると,男女で有意な差がみられたのは,「乳幼児に対する共感性」のみであった。これは,1994年から実施されている高等学校家庭科の男女共学必修化の定着と,高等学校学習指導要領家庭科の目標の中にある「男女が協力して主体的に家庭や地域の生活を創造する能力と実践的な態度を育てる」ための教育実践が反映されているのかもしれない。
一方,高校3年生で保育の体験をした女子では,体験をしていない女子よりも「親になることへの負担感・不安感」が高かった。この結果は,実際に乳幼児と触れ合う経験により,子育てに対する現実感が高まり,その難しさをより深く理解したことが影響した可能性がある。ただし,現時点では,この差異が保育の体験によるものなのか,彼らがもつ個人特性によるものなのかは判断できない。親になることへの負担感・不安感については,対人不安や,自己効力感,将来の生活設計に関する不安などの個人差も深く関連すると思われる。今後,生徒一人一人の個人特性をふまえたうえで,保育経験が親準備性の発達にどのように影響するかを実証的に検討することが必要である。
「親準備性」とは,いまだ乳幼児を育てた経験のない思春期・青年期(12~25歳)の,子育てに関する知識や技能,子どもへの関心,親になろうとする態度などを指す。
親準備性は,中学生から高校生の時期にかけて発達し,女子の方が男子より高いとされる(伊藤,2003)。また,家庭科での保育学習を通して,幼児への関心や共感的応答性が高まるとされる(岡野他,2012)。しかし,どのような要因が,高校生の親準備性の発達に関連するかについての実証的な検討はほとんど行われていない。
本研究では,高校生を対象とし,親準備性の発達を学年および生物学的性差との関連で検討することを目的とする。また,保育体験の有無が,親準備性の発達にどのように反映されるかについても検証を行う。
方 法
調査対象者:京都府内の公立高校普通科に在籍する2,3年生計267名(男性79名,女性188名,平均年齢17.13歳,SD=0.48)。
調査時期:2019年2月~3月
調査内容:当該高等学校長から同意を得られたクラスで保護者向け説明書と共に質問紙を配布した。担当教員から説明をしてもらった後,調査に同意した生徒のみ,無記名で回答した。調査内容は,①フェイスシート(学年,年齢,年下の家族・親族との同居経験,中学校での乳幼児との触れ合い学習経験,高校3年時の保育体験を含む授業選択),および②親準備性の尺度として,「養護性尺度(楜澤,2009)」から23項目(6件法),「親準備性尺度(服部,2008)」から40項目(4件法)を用いて実施した。
分析方法:統計ソフトIBM SPSS Statistics19を使用した。
結 果
1. 親準備性の発達(学年・性別要因の検討)
先行研究を参考に「養護性尺度」の4下位尺度,「親準備性尺度」の5下位尺度の各合計得点を算出し,これらの各下位尺度得点を従属変数,学年と性別を独立変数として,二要因の分散分析を行った。その結果,学年については,親になる意思を示す下位尺度「親への準備性」で3年生の方が2年生より高く(F(1,258)= 4.44,p= .04,Figure1),性別については下位尺度「乳幼児に対する共感性」について女子の方が男子より高かった(F(1,257)= 9.98,p= .00,Figure2)。また,学年×性別の有意な交互作用はいずれもみられなかった。
2. 保育体験の有無との関連
対象校では,3年次に家庭科の専門科目である「子どもの発達と保育」を選択した生徒のみ,保育所・幼稚園・子育て支援施設等において1年間に5回(計10時間)の乳幼児の保育を体験している。各下位尺度得点について,保育体験群(女性のみ),保育体験無し群(女性のみ),保育体験無し群(男性のみ)の3群を設定し,一元配置の分散分析を行った(保育体験群(男性)は1名のみであったため今回の分析からは除外)。その結果,下位尺度「親になることへの負担感・不安感」で有意な群間差が見られた(F(2,48)= 4.01,p= .03)。多重比較の結果,保育体験群(女子)が保育体験無し群(女子)よりも有意に高かった(p= .02,Figure3)。
考 察
高校生の親準備性について,学年差を調べたところ,「親への準備性」については3年生の方が2年生よりも高かった。3年生は卒業を間近に控えており,卒業後の生活設計を具体化する意識が高まることにより,親となることへの意識も高まった可能性がある。性別に着目すると,男女で有意な差がみられたのは,「乳幼児に対する共感性」のみであった。これは,1994年から実施されている高等学校家庭科の男女共学必修化の定着と,高等学校学習指導要領家庭科の目標の中にある「男女が協力して主体的に家庭や地域の生活を創造する能力と実践的な態度を育てる」ための教育実践が反映されているのかもしれない。
一方,高校3年生で保育の体験をした女子では,体験をしていない女子よりも「親になることへの負担感・不安感」が高かった。この結果は,実際に乳幼児と触れ合う経験により,子育てに対する現実感が高まり,その難しさをより深く理解したことが影響した可能性がある。ただし,現時点では,この差異が保育の体験によるものなのか,彼らがもつ個人特性によるものなのかは判断できない。親になることへの負担感・不安感については,対人不安や,自己効力感,将来の生活設計に関する不安などの個人差も深く関連すると思われる。今後,生徒一人一人の個人特性をふまえたうえで,保育経験が親準備性の発達にどのように影響するかを実証的に検討することが必要である。