[PH07] 放課後児童支援員が考える「よい子」についての研究
PAC分析を用いた個人別態度構造の検討を通して
Keywords:よい子、学童保育、放課後児童支援員
問題と目的
日本政府は2007年の「放課後児童クラブガイドライン」を始めとし,「放課後子ども総合プラン」,「放課後児童育成事業要綱」,「放課後児童クラブ運営指針」,2018年の「新・放課後子ども総合プラン」で制度や方針を徐々に整備してきたが,子どもの心理的側面への支援は十分ではない。支援員がどのような視点で子どもの心理的側面をとらえているかは重要である。
支援者の視点やとらえ方の一つとして,「周囲の意見や雰囲気を敏感に感じ取り協調し,自己抑制して自らを出さずに生きている子どもたち」(三池, 1999)などと定義されるいわゆる「よい子」に本研究では着目する。大河原(2010)は「よい子」は期待される子ども像を敏感に察知し自分の否定的な感情を乖離してふるまうとし,その感情を受け入れられ自分で言語化できるようになる重要性を指摘している。そこで本研究では,臨床心理的な観点から支援員の「よい子」に対するとらえ方,保育実践における視点を探ることを目的とする。
方 法
学童保育の支援員11名を調査協力者(以下Info.とする)とし,PAC分析(内藤,2002)を用いてInfo.自身の「よい子」イメージを手掛かりにインタビュー形式でInfo.一人ひとりの「よい子」概念を探った。最初に「あなたにとって『よい子』とは,どのようなイメージですか。また『よい子』らしいふるまいとは,どのようなものだと考えますか。」という教示を与え,自由連想による連想項目をきいた。次に,その連想項目をInfo.自身による類似度評定によりクラスター分析し,クラスター分析の結果をInfo.と実験者によるインタビュー形式の共同作業を通して解釈し概念を抽出した。最後に,各連想項目についての直観的イメージを尋ねた。
結果と考察
11事例について,それぞれ連想項目表とその分析,クラスター分析結果の図,各Info.の特徴的な語りの部分とそれについての考察を提示した。
総合考察
語られたことからわかったこと
最初の連想項目がInfo.にとってアクセスしやすい意識的概念であるのに対し,インタビューでは,意識的概念以外の要素を含むイメージや概念も語られた。これらはいわば前意識的概念といえ,同時に各Info.のオリジナルの概念と考えられる。中には近代日本の「よい子」概念の影響を受けたものと解される概念もあった。すなわち我々の概念は個人の実際の経験や意識的な考えだけでなく文化や教育など外的な要素の影響をも受けて形成されており,子どもへの接し方の決定も様々な要素の影響をまぬがれないと考えられた。また,語る中でInfo.が自身の概念を明確にした結果,新しい「よい子」のとらえ方や気づきを得た事例もあった。
「よい子」概念を構成していること
語りの過程では沈黙や言い淀みもあった。また,「最初の考えと違ってきた」という発言や語りの主語が変わったことで,Info.の視座の変化が感じられる事例もあった。これらは表面的な意識より深いところにある前意識的概念の存在を感じさせるものである。また,Info.の語りを構造的に精査した結果,過去の傷つきや現在のInfo.の内面への適応機制の表れと解される事例もあった。これらから我々の概念は生まれた時代や場所などの影響も受けて形づくられて発展・変化する不確かなものと考えられる。その影響を相互に与え変化・成長する存在には子どもも含まれるといえよう。
実践への提言と今後の課題
以上を踏まえ,学童保育の支援員の保育の質の向上のために対話形式による研鑽を提案したい。子どもと支援員の関係の文脈も含めたその「場」,その瞬間に合った解を実践家である支援員自身が探索する意味,語ることで支援員はそれぞれの価値を得ること,学童保育の構造上・制度上の曖昧さが水平方向の対話をより有効にさせることが理由である。
今後の課題としては,「よい子」概念における子どもの性別による違い,日本以外の文化圏における「よい子」概念との比較,そして「困った子」概念と「よい子」概念の比較が挙げられる。
付 記
本研究は,平成30年度鳴門教育大学大学院学校教育研究に提出した修士論文を加筆修正したものである。
日本政府は2007年の「放課後児童クラブガイドライン」を始めとし,「放課後子ども総合プラン」,「放課後児童育成事業要綱」,「放課後児童クラブ運営指針」,2018年の「新・放課後子ども総合プラン」で制度や方針を徐々に整備してきたが,子どもの心理的側面への支援は十分ではない。支援員がどのような視点で子どもの心理的側面をとらえているかは重要である。
支援者の視点やとらえ方の一つとして,「周囲の意見や雰囲気を敏感に感じ取り協調し,自己抑制して自らを出さずに生きている子どもたち」(三池, 1999)などと定義されるいわゆる「よい子」に本研究では着目する。大河原(2010)は「よい子」は期待される子ども像を敏感に察知し自分の否定的な感情を乖離してふるまうとし,その感情を受け入れられ自分で言語化できるようになる重要性を指摘している。そこで本研究では,臨床心理的な観点から支援員の「よい子」に対するとらえ方,保育実践における視点を探ることを目的とする。
方 法
学童保育の支援員11名を調査協力者(以下Info.とする)とし,PAC分析(内藤,2002)を用いてInfo.自身の「よい子」イメージを手掛かりにインタビュー形式でInfo.一人ひとりの「よい子」概念を探った。最初に「あなたにとって『よい子』とは,どのようなイメージですか。また『よい子』らしいふるまいとは,どのようなものだと考えますか。」という教示を与え,自由連想による連想項目をきいた。次に,その連想項目をInfo.自身による類似度評定によりクラスター分析し,クラスター分析の結果をInfo.と実験者によるインタビュー形式の共同作業を通して解釈し概念を抽出した。最後に,各連想項目についての直観的イメージを尋ねた。
結果と考察
11事例について,それぞれ連想項目表とその分析,クラスター分析結果の図,各Info.の特徴的な語りの部分とそれについての考察を提示した。
総合考察
語られたことからわかったこと
最初の連想項目がInfo.にとってアクセスしやすい意識的概念であるのに対し,インタビューでは,意識的概念以外の要素を含むイメージや概念も語られた。これらはいわば前意識的概念といえ,同時に各Info.のオリジナルの概念と考えられる。中には近代日本の「よい子」概念の影響を受けたものと解される概念もあった。すなわち我々の概念は個人の実際の経験や意識的な考えだけでなく文化や教育など外的な要素の影響をも受けて形成されており,子どもへの接し方の決定も様々な要素の影響をまぬがれないと考えられた。また,語る中でInfo.が自身の概念を明確にした結果,新しい「よい子」のとらえ方や気づきを得た事例もあった。
「よい子」概念を構成していること
語りの過程では沈黙や言い淀みもあった。また,「最初の考えと違ってきた」という発言や語りの主語が変わったことで,Info.の視座の変化が感じられる事例もあった。これらは表面的な意識より深いところにある前意識的概念の存在を感じさせるものである。また,Info.の語りを構造的に精査した結果,過去の傷つきや現在のInfo.の内面への適応機制の表れと解される事例もあった。これらから我々の概念は生まれた時代や場所などの影響も受けて形づくられて発展・変化する不確かなものと考えられる。その影響を相互に与え変化・成長する存在には子どもも含まれるといえよう。
実践への提言と今後の課題
以上を踏まえ,学童保育の支援員の保育の質の向上のために対話形式による研鑽を提案したい。子どもと支援員の関係の文脈も含めたその「場」,その瞬間に合った解を実践家である支援員自身が探索する意味,語ることで支援員はそれぞれの価値を得ること,学童保育の構造上・制度上の曖昧さが水平方向の対話をより有効にさせることが理由である。
今後の課題としては,「よい子」概念における子どもの性別による違い,日本以外の文化圏における「よい子」概念との比較,そして「困った子」概念と「よい子」概念の比較が挙げられる。
付 記
本研究は,平成30年度鳴門教育大学大学院学校教育研究に提出した修士論文を加筆修正したものである。