日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-65)

2019年9月16日(月) 13:00 〜 15:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:00~14:00
偶数番号14:00~15:00

[PH12] 自閉スペクトラム症の症状形成モデルの考察

ASDの適切な理解と支援のために

吉田直人 (こども発達支援センター)

キーワード:複雑性PTSD、主観的トラウマ体験、発達環境ギャップ

はじめに
 自閉スペクトラム症(ASD)は「対人関係の問題」と「こだわり」が特徴の発達障害の一つである。一般的に,ASDは生まれつきの脳のタイプであり,個性であり,治すものではないと言われることが多い。しかし,先行研究での指摘や筆者の臨床実践とは異なる部分もある。そこで本稿では杉山登志郎(2011,2018)をベースにして,そこから考えられるASDの症状形成モデルと支援を確認する。
考  察
1 先行研究等からの考察
1)脳のタイプ(認知特性や感覚特性)が定型発達の人とは異なるタイプである
➡先天的要因が関係している
➡環境(他者を含む)と相互性をもちにくい
2)複雑性PTSDとASDの症状が類似している
➡ASDとトラウマとでは症状形成メカニズムが類似している
➡客観的には適切な環境でのトラウマ体験
(主観的トラウマ体験)
➡トラウマ自体が症状に影響している
3)同じ診断名でも個人間差と個人内差(年齢による変化),つまり症状の表れ方が多様である
➡後天的要因による影響を示唆する
4)社会性(特に対人面)の発達には安定した愛着形成が必要である
➡ASDの社会性の症状にも愛着が関係している
➡そもそも社会性の発達は後天的要因が大きい
5)人間は環境に適応する(自己の欲求や安全・安心を得るための行動をとる)
➡問題行動や特性と捉えられている行動は環境への適応の結果と考えることもできる
6)環境との不適合状態が生じている
➡先天的要因により環境との不適合状態(ギャップ)が生じる(発達環境ギャップ:GDE:Gap between the Development and Environment)。
2 モデルの提案
 以上から,脳のタイプという先天的要因だけではない後天的要因を考慮したモデルを提示する。
ASDの症状=脳のタイプ(認知特性・感覚特性)+主観的トラウマ体験+愛着のゆがみ+適応努力
・認知特性(記憶の固着など)⇒トラウマになりやすい,思考の修正が難しい,臨機応変な考えや行動が困難(パターン的理解),一つ一つが別物として記憶されて慣れ形成や概念化が困難
・感覚特性⇒偏食や常同行動など一般的でない刺激への反応や捉え方,共感的体験の少なさ
・主観的トラウマ体験 ⇒回避行動,フラッシュバックによるパニック行動
・愛着のゆがみ ⇒対人関係の基礎のゆがみ,環境への適応性の低下,不安
・適応努力 ⇒安心を得るためのこだわり行動,回避行動,見通しがもてるパターン的行動
3 支援の提案
1)主観的な安全・安心の確保
2)安定した愛着形成のサポート
3)発達環境ギャップへの対処
GDE(=個人と環境)を評価した上で,個人の発達に合わせた物理的環境と関わり方の適合化。
・「ASDは個性である」という社会的理解にとどまらずに,ASD症状の憎悪を予防・軽減する支援がのぞまれる。
・子どもへの早期療育よりも,養育者や環境への早期アプローチが優先的に行われるべきである。 
 (Naoto Yoshida)