[PH15] 暗黙の知能観と自尊感情が目標設定に及ぼす影響
他者共存場面での検討
キーワード:暗黙の知能観、自尊感情、目標設定
問題と目的
暗黙の知能観とは,知能とは何かという問いに対する個人の回答を指し,「知能とは柔軟なもので努力によって成長させることが可能」という増大理論と,「知能は固定的で努力しても変えられない」という実体理論に分かれ,増大理論を持つ者は挑戦を通して能力を成長させようとする熟達目標を設定するのに対して,実体理論を持つ者は能力そのものよりもむしろ他者から良い評価を得られることを重視し,悪い評価を避けようとする遂行目標を設定するという(Dweck & Leggett,1988)。つまり,増大理論を持つ者は失敗を恐れないため,強気の目標設定を行うことが予想されるが,実体理論を持つ者は,失敗を恐れ,弱気な目標設定をすることが予想される。
本研究では,課題として連続して行う計算問題を取り上げ,直近の成績を踏まえて他者に次回の目標設定を宣言するという他者共存場面における目標設定について,暗黙の知能観と,同じように目標設定に影響を与えることが指摘されている自尊感情の要因(磯崎ら,1988)の影響を検討する。
方 法
事前調査で尺度得点の分布状況を把握し,暗黙の知能観の種類と自尊感情の高低をそれぞれ中央値によって分割して4群を構成し,各群から実験参加者を抽出した。
事前調査の実施期日と調査対象
2017年12月,質問紙調査を実施し,大学生177名中,回答に不備のあるものを除いた172名(男子88名,女子84名)を分析の対象とした。
使用した尺度
Dweck(2000)を翻訳して作成した知能観尺度 6項目(5件法)と,Rosenberg(1965)を山本・松井・山成(1982)が翻訳した自尊感情尺度 10項目(5件法)。
事前調査の結果
知能観尺度のα係数は.814平均25.21,標準偏差4.88,中央値25.00であった。自尊感情尺度のα係数は.844平均30.30,標準偏差7.43,中央値30.00であった。
実験対象者の人数
各群の人数は以下の通り。()内は事前調査の人数。
増大理論・自尊感情高 N=12(47)
増大理論・自尊感情低 N= 7(31)
実体理論・自尊感情高 N=11(32)
実体理論・自尊感情低 N=12(45)
実験材料
内田クレペリン検査を参考に作成した加算問題。
実験の手続き
3~6名の参加者を同時に実験室に呼び,30秒の練習の後,1分間の加算作業を10回実施した。
各回,作業量を口頭で報告させるともに,次の試行の目標を記入させた。目標と実際の作業量との差を達成差,作業量と次回の目標の差を目標差として分析した。
結果と考察
独立変数を知能観と自尊感情,従属変数を目標差と達成差とした分散分析を実施したところ,目標差・達成差のいずれも知能観の主効果がみられた(目標差 F(1,38)=4.60,p<.05 達成差 F(1,38)=5.03,p<.05)。自尊感情の主効果と交互作用とはいずれも有意ではなかった。Figure 1に平均値を示す。目標差の結果から,増大理論群は実体理論群よりも強気の目標を設定していたといえる。一方,達成差の結果からは実体理論群は目標以上の達成を成し遂げたのに対して,増大理論群の達成は目標を下回る傾向がみられた。
暗黙の知能観とは,知能とは何かという問いに対する個人の回答を指し,「知能とは柔軟なもので努力によって成長させることが可能」という増大理論と,「知能は固定的で努力しても変えられない」という実体理論に分かれ,増大理論を持つ者は挑戦を通して能力を成長させようとする熟達目標を設定するのに対して,実体理論を持つ者は能力そのものよりもむしろ他者から良い評価を得られることを重視し,悪い評価を避けようとする遂行目標を設定するという(Dweck & Leggett,1988)。つまり,増大理論を持つ者は失敗を恐れないため,強気の目標設定を行うことが予想されるが,実体理論を持つ者は,失敗を恐れ,弱気な目標設定をすることが予想される。
本研究では,課題として連続して行う計算問題を取り上げ,直近の成績を踏まえて他者に次回の目標設定を宣言するという他者共存場面における目標設定について,暗黙の知能観と,同じように目標設定に影響を与えることが指摘されている自尊感情の要因(磯崎ら,1988)の影響を検討する。
方 法
事前調査で尺度得点の分布状況を把握し,暗黙の知能観の種類と自尊感情の高低をそれぞれ中央値によって分割して4群を構成し,各群から実験参加者を抽出した。
事前調査の実施期日と調査対象
2017年12月,質問紙調査を実施し,大学生177名中,回答に不備のあるものを除いた172名(男子88名,女子84名)を分析の対象とした。
使用した尺度
Dweck(2000)を翻訳して作成した知能観尺度 6項目(5件法)と,Rosenberg(1965)を山本・松井・山成(1982)が翻訳した自尊感情尺度 10項目(5件法)。
事前調査の結果
知能観尺度のα係数は.814平均25.21,標準偏差4.88,中央値25.00であった。自尊感情尺度のα係数は.844平均30.30,標準偏差7.43,中央値30.00であった。
実験対象者の人数
各群の人数は以下の通り。()内は事前調査の人数。
増大理論・自尊感情高 N=12(47)
増大理論・自尊感情低 N= 7(31)
実体理論・自尊感情高 N=11(32)
実体理論・自尊感情低 N=12(45)
実験材料
内田クレペリン検査を参考に作成した加算問題。
実験の手続き
3~6名の参加者を同時に実験室に呼び,30秒の練習の後,1分間の加算作業を10回実施した。
各回,作業量を口頭で報告させるともに,次の試行の目標を記入させた。目標と実際の作業量との差を達成差,作業量と次回の目標の差を目標差として分析した。
結果と考察
独立変数を知能観と自尊感情,従属変数を目標差と達成差とした分散分析を実施したところ,目標差・達成差のいずれも知能観の主効果がみられた(目標差 F(1,38)=4.60,p<.05 達成差 F(1,38)=5.03,p<.05)。自尊感情の主効果と交互作用とはいずれも有意ではなかった。Figure 1に平均値を示す。目標差の結果から,増大理論群は実体理論群よりも強気の目標を設定していたといえる。一方,達成差の結果からは実体理論群は目標以上の達成を成し遂げたのに対して,増大理論群の達成は目標を下回る傾向がみられた。