[PH23] 素朴概念が修正された学習者はどのような説明活動を行っているか
提示事例の違いと比較して
Keywords:素朴概念、説明活動、慣性の法則
問題と目的
子どもたちは,日常経験から自分なりに概念を作り上げており,これを素朴概念という。一般に学習者の誤った素朴概念は,科学的概念(学校で体系的に教えられる正当な概念)の獲得を妨害し,単に科学的概念を教えても,素朴概念は修正されにくいとされる。修正されにくい学習者の特徴として,田島・茂呂(2003)は,教室文脈の中では概念を理解しているように見えるが,日常経験知などの社会文脈における知識との関連づけを求められると上手く応答できず,結果として彼らの理解が疑問視されてしまう点にあると述べている。
したがって,学習した概念の意味を字面で覚えるのではなく自らの解釈を交える機会が必要である。その1つが「説明すること」であり,説明活動について,市川(2000)は,学習者に学習内容を意識化・自覚化させることを通して,理解を深化させることに役立つと述べている。しかしながら,説明活動を行うといっても,教師役と生徒役が相互作用的に対話できているペアとそうでないペアが存在する。また,教師が提示する事例によって,説明活動の仕方に変化を及ぼすと考え,本研究は,素朴概念が修正された学習者はどのような説明活動を行っているのかを提示事例の違いと比較しながら検討するものである。
方 法
調査協力者:千葉県内の国立中学校3年生65名
本研究で扱う素朴概念:MIF素朴概念(運動方向に力が働いているという誤った考え方)
提示事例:【提示事例1】慣性の法則とは何かをドライアイスを用いて説明したもの。【提示事例2】慣性の法則に加え,力学の原理・原則(「力の3要素」「力と接触の関係」「力と加速度の関係」)について説明したもの。
手続き:本実践は調査者が行い,調査協力者には異なる提示事例が記された2種類の読み物教材が与えられ,「慣性の法則」教授・説明活動群(K群)【27名】・「慣性の法則及び力学の原理」教授・説明活動群(R群)【38名】が構成される。読み物教材を元に調査者が教授活動を行い,その後二人でペアを作り,作成した説明原稿を元に「運動方向に力が働いていないのはなぜか」をテーマとした説明活動が行われた。発話内容は担当教員に許可を頂き,ICレコーダーで録音した。また,調査前に事前テスト,調査後に事後テスト,調査から3週間後に遅延テストを行い,被験者の記述回答から得られる力学に関する意味理解得点の推移を調査した。なお,記述回答の得点化の評価基準に関しては,物理学を専攻する大学院生とともに作成したものを活用し,各協力者の数値を同定した。
結 果
事前テストより,素朴概念保持率はK群85.5%,R群89.3%となり,訓練前は両群とも同程度の保持率であった.群(K・R群)とテストの種類(事前・事後・遅延)を要因とする2要因分散分析を行ったところ,有意な交互作用が見られた(F〔2,126〕=7.49,p<.002)。多重比較の結果,K群の事後-遅延においてのみ,有意差が見られなかった。ICレコーダーで録音した発話プロセスを逐語化し,SCAT分析で構成概念を表出したところ,Table 1のような結果が得られた。
考 察
慣性の法則に加え,力学の原理に関する内容が教授されることで,教師役は「そもそも力とは何か?」といった核心をついた説明ができるようになった。また,意味理解得点の高いペアの説明活動の特徴として,「教師役は学習した定義を利用して現象を説明している」「生徒役は,教師役の説明に違和感があれば,躊躇なく指摘している」ことが挙げられた。このような特徴は,意味理解得点の低いペアでは,ほとんど見られなかった。Table1のような構成概念を獲得することで,本当に素朴概念が修正されるのかについては明らかになっていない。他者との対話が重視される今日の学校教育において,子どもたちの「説明する力」を高めていく必要があるだろう。
子どもたちは,日常経験から自分なりに概念を作り上げており,これを素朴概念という。一般に学習者の誤った素朴概念は,科学的概念(学校で体系的に教えられる正当な概念)の獲得を妨害し,単に科学的概念を教えても,素朴概念は修正されにくいとされる。修正されにくい学習者の特徴として,田島・茂呂(2003)は,教室文脈の中では概念を理解しているように見えるが,日常経験知などの社会文脈における知識との関連づけを求められると上手く応答できず,結果として彼らの理解が疑問視されてしまう点にあると述べている。
したがって,学習した概念の意味を字面で覚えるのではなく自らの解釈を交える機会が必要である。その1つが「説明すること」であり,説明活動について,市川(2000)は,学習者に学習内容を意識化・自覚化させることを通して,理解を深化させることに役立つと述べている。しかしながら,説明活動を行うといっても,教師役と生徒役が相互作用的に対話できているペアとそうでないペアが存在する。また,教師が提示する事例によって,説明活動の仕方に変化を及ぼすと考え,本研究は,素朴概念が修正された学習者はどのような説明活動を行っているのかを提示事例の違いと比較しながら検討するものである。
方 法
調査協力者:千葉県内の国立中学校3年生65名
本研究で扱う素朴概念:MIF素朴概念(運動方向に力が働いているという誤った考え方)
提示事例:【提示事例1】慣性の法則とは何かをドライアイスを用いて説明したもの。【提示事例2】慣性の法則に加え,力学の原理・原則(「力の3要素」「力と接触の関係」「力と加速度の関係」)について説明したもの。
手続き:本実践は調査者が行い,調査協力者には異なる提示事例が記された2種類の読み物教材が与えられ,「慣性の法則」教授・説明活動群(K群)【27名】・「慣性の法則及び力学の原理」教授・説明活動群(R群)【38名】が構成される。読み物教材を元に調査者が教授活動を行い,その後二人でペアを作り,作成した説明原稿を元に「運動方向に力が働いていないのはなぜか」をテーマとした説明活動が行われた。発話内容は担当教員に許可を頂き,ICレコーダーで録音した。また,調査前に事前テスト,調査後に事後テスト,調査から3週間後に遅延テストを行い,被験者の記述回答から得られる力学に関する意味理解得点の推移を調査した。なお,記述回答の得点化の評価基準に関しては,物理学を専攻する大学院生とともに作成したものを活用し,各協力者の数値を同定した。
結 果
事前テストより,素朴概念保持率はK群85.5%,R群89.3%となり,訓練前は両群とも同程度の保持率であった.群(K・R群)とテストの種類(事前・事後・遅延)を要因とする2要因分散分析を行ったところ,有意な交互作用が見られた(F〔2,126〕=7.49,p<.002)。多重比較の結果,K群の事後-遅延においてのみ,有意差が見られなかった。ICレコーダーで録音した発話プロセスを逐語化し,SCAT分析で構成概念を表出したところ,Table 1のような結果が得られた。
考 察
慣性の法則に加え,力学の原理に関する内容が教授されることで,教師役は「そもそも力とは何か?」といった核心をついた説明ができるようになった。また,意味理解得点の高いペアの説明活動の特徴として,「教師役は学習した定義を利用して現象を説明している」「生徒役は,教師役の説明に違和感があれば,躊躇なく指摘している」ことが挙げられた。このような特徴は,意味理解得点の低いペアでは,ほとんど見られなかった。Table1のような構成概念を獲得することで,本当に素朴概念が修正されるのかについては明らかになっていない。他者との対話が重視される今日の学校教育において,子どもたちの「説明する力」を高めていく必要があるだろう。