日本教育心理学会第61回総会

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ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-65)

2019年9月16日(月) 13:00 〜 15:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:00~14:00
偶数番号14:00~15:00

[PH26] 中学校国語科の漢字指導を通じた生徒の意味理解の実践的変容

佐伯亜紗美 (株式会社リクルート)

キーワード:教授・学習、協同的探究学習、漢字

問題と目的
 倉澤(1988)は,漢字の力を「漢字を生活に適応できる力」だと論じている。国語教育の中でも,漢字は「使う」ための重要な事項として位置づけられている(学習指導要領,2008)が,学校教育の漢字指導においては,読み書きなど知識重視になる傾向がある。本研究では,中学校国語科の漢字指導において,協同的探究学習(藤村ほか,2018)の理論に依拠して,漢字の持つ意味を関連づける学習方略を促す授業のデザインとその効果を検討する。その際,授業で用いたワークシートへの記述内容と質問紙をもとに,生徒の漢字の意味理解の深化と漢字学習への動機づけの変容を考察する。
方  法
参加者 A県内の公立中学校1校の1年生3学級105名。国語科は,1,2組は教諭A,3組は教諭Bが指導しており,教諭Bのみ毎時漢字の書き取り小テストを実施している。教諭Aは日常的に協同学習の手法を取り入れていることから,1組を対照群,2,3組を協同的探究学習群①②とした。
手続き 2018年12月12日~14日に質問紙調査と45分×2コマの授業を,群を被験者間要因,事前・事後の同一の質問紙を被験者内要因とする2要因混合計画で実施した。質問紙は,学習方略尺度,学習観尺度,学習動機づけ尺度の3つの尺度から構成され,それぞれ5件法で回答を求めた。授業は,①自己決定理論にもとづき,自律的な動機づけを高めること,②漢字の意味を関連づけて意味理解を深めること,③協同的探究学習によって,各生徒が考えた漢字の意味とその判断理由をクラス全体で共有し関連づけて本質に迫ること,の3つの観点から考案された。「漢字の意味を関連づけて四字熟語の意味を推し測ろう」,というテーマで協同的探究学習を構想した。授業は筆者が実施し,Table 1に授業の流れを示した。
結  果
 個別探究学習(二時間目)において各生徒がワークシートに記述した四字熟語の意味推測の結果を,以下の基準(意味理解の水準)を設けて分析した。
 水準0:「関連づけ以前」関連づけを行わずに表面的な意味のみの記述。
 水準1:「漢字の意味の関連づけ」4つの漢字の意味を関連づけた文脈の通る記述。
 水準2:「漢字の意味の本質的理解」その漢字の表す本質に踏み込んだ内容で意味を推測した記述。
 普段の国語科の指導教員が同一の1組(対照群)と2組(協同的探究学習群)における結果を示す。 各生徒の意味理解の水準を意味理解の得点とし,群間の分散の等質性を検討するF検定を行った後,群間で得点の平均値に差がみられるかどうかについて,対応のないt検定を行ったところ,1%水準で有意差が認められた(平均値(SD)は,協同的探究学習群:1.40(0.48),対照群:0.69(0.34);t(68)=4.66, p<.01)。協同的探究学習によって,漢字の意味理解が深まることが示された。また協同的探究学習群(2組)では,質問紙における意味理解型の学習観,学習動機づけの同一化,内発の各項目で,事前より事後で得点が有意に上昇した(意味理解学習観: t(29)=2.23, p<.05; 同一化: t(29)=2.19, p<.05; 内発: t(29)=3.41, p<.05)。
考  察
 本研究では,国語教育の中で漢字が「使う」ための重要な事項として位置づけられている一方で,学校教育の漢字指導においては,読み書きなど,知識重視型になりがちであるという課題に対して,協同的探究学習の理論に依拠して,漢字の持つ意味を関連づける学習方略を促す授業によって,生徒の漢字に対する意味理解の深化,自律的な動機づけと,意味理解志向学習観への変容を検討することを目的とした。その結果,漢字の意味の本質的理解,漢字に対する自律的な動機づけと意味理解志向学習観を促す効果が明らかになった。
 本研究は,国語教育における漢字指導の在り方について,より実践的な指導方法を検証した。協同的探究学習を,スキル教育として指導されがちであった言語事項において実施し,一定の効果が得られたことは,国語教育,また,協同や探究による学習の研究においても大きな成果であろう。