日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-65)

2019年9月16日(月) 13:00 〜 15:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:00~14:00
偶数番号14:00~15:00

[PH32] 発達に伴う学習観の変化とその要因

小幡基 (北海道大学大学院)

キーワード:学習観

目  的
 現在の日本の学校教育は,「生きる力を育むこと」(文部科学省,2018)を目的の1つとしている。しかし,実際に生徒が学習の目的として,生きる力に相当する事を考えているとは言い難く,多くの生徒がテストや受験のために学習しているように思われる。生徒が様々なことを学習として捉え,学習に多様な意味付けをできるような支援を考えるため,生徒が学習をどう捉えているのか,その考え方は何をきっかけに変わっていくのかを明らかにする必要がある。
 同時に,学習に対する価値観は幼少期から現在に至るまでに多くの要素から影響を受けて形作られるものであると考えられるため,長期的な視点で捉える必要がある。
 そこで,発達に伴い,「何を学習であると捉え,また学習がどのような意味を持つと考えるか」という学習観を,個人がどのように変化させていくか,またその変化の要因について検討する。
方  法
調査協力者
 北海道内の国立及び私立大学に在籍する大学生4名,Cさん(国立・22歳・男性),Dさん(国立・21歳・女性),他2名。
調査手続き
 120分前後の半構造化のインタビュー調査を行った。インタビューは,幼児期,小学校,中学校,高校,大学の5つ,またはそこに浪人期を加えた6つの時期に分け,各時期における,学びに関する記憶や,当時の学習環境について語ってもらった。また,調査協力者の語りを引き出すため,2つの手法を取った。1つは,学習のおもしろさが年齢によりどう変化していったかを折れ線グラフで表してもらうものであり,変化した点でのエピソードを語ってもらった。もう1つは,人生の各時期で,学習に影響を与えたものを書き出してもらい,それらと学習との関係性の強さを線の太さで表してもらうというものであった。この図を参考に,学習に関係のあったことが,具体的に学習にどのような影響を与えたのかについて質問した。
結果と考察
発達と学習観の変化
①Cさんの高校時代
 高2とか,勉強の楽しさをだんだん理解してきたくらいですね。高3くらいになると勉強が高度になってきて,ようやくこれ(現実世界で用いられている技術)ってここの原理が使われているみたいなのがでてきて,おもしれーかもって。
②Cさんの大学受験期/現役と浪人
 受験の時に(勉強が)形だけになっちゃったみたいなのがあって,浪人したらゆっくり勉強するかって気になって,そこでようやく量とかそういうのにとらわれずに,本質的な勉強をしようと思うように。(中略)参考書とかもこの技術がこれに使われているとか,いろんなことを調べました。
 Cさんは高校時代に,現実との関わりという部分で学習におもしろさを見出すようになったが,受験という切迫した環境下で学習がやらなければならない義務的なものとなった。しかし浪人して余裕ができたことで,再びおもしろさを見出せるようになっている。このように,個人の学習観は発達を通して獲得された,学習に対しての様々な価値観や意味付けを保持しており,その時の環境に応じて特定の価値や意味が強まると考えられる。
学習観の変化の要因
③Dさんの大学受験期
 受験勉強して,今まで結構適用にやってたけど,面白かったんだなみたいなのがあったりとか,できるようになった科目があったので,それが嬉しくて。
 学習観を変化させる要因については,親や教師,友人,学校行事,部活,塾,受験,効力感などが見られたが,特に受験と効力感が学習観と深く関わっていた。受験に関しては,ほとんどの場合において学習を義務的なものとする学習観に作用した一方で,Dさんのように学習のおもしろさに気付くきっかけとなる側面があることが分かった。
 効力感に関しては,やればできるという感覚が学習をおもしろく感じさせる一方,やってもできない場合は,学習を嫌になる要素として作用しており,また努力なしにできる場合,学習に価値を見いだせず,おもしろさを感じられていなかった。
 また,何を学習と捉えるかという点においては,調査協力者全員が,部活や人間関係などでの苦労や問題に直面した際,何かしらの能力や姿勢の必要性を感じることで,対人スキルや社会的技能といったことも学習と捉えるようになっていた。