日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-65)

2019年9月16日(月) 13:00 〜 15:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:00~14:00
偶数番号14:00~15:00

[PH36] 宮崎県と佐賀県のいじめ防止に対する認識の比較

佐藤敦望1, 高橋知己2 (1.上越教育大学大学院, 2.上越教育大学)

キーワード:いじめ、いじめ防止基本方針、認知件数

問題と目的
 いじめ防止対策推進法の施行により,各自治体において「いじめ防止等のための基本的な方針」(以下,基本方針とする)の策定が責務化された。基本方針には,各自治体がいじめを防止するために,共有しておくべきだと判断した内容が書かれている。
 2018年度のいじめ認知件数が最も多かったのは宮崎県,最も少なかったのは佐賀県であった。本研究では,両県の基本方針を比較し,いじめ防止に対する認識の違いを明らかにすることを目的とする。
方  法
対象:宮崎県(2018)と佐賀県(2018)それぞれのホームページに公開されていた基本方針を分析対象とした。
分析:KH Coderを用いて,基本方針で使用されていた抽出語の出現数を確認した。記述パターンを概観するために,共起ネットワークを作成した。
結  果
両県の基本方針から抽出された語数は,宮崎県が17,442語,佐賀県が8,120語で宮崎県の方が相対的に多かった。 抽出された単語は違うものが多く記述内容は異なっていた。
考  察
 抽出語が多い宮崎県は,基本方針において,それだけ多くの内容について触れており,より多角的にいじめ防止について認識していると考えられる。また,「早期」「発見」「未然」という記述が多く抽出されたことから,いじめを早い段階で認知しようという意識が高いと考えられる。「アンケート」が多く抽出され,基本方針の中で,防止の具体的な案を提示していた。このようないじめ防止に対する認識の高さが,認知件数の多さにつながっていることが明らかとなった。いじめを認知することは重大事案防止のために不可欠であることから,防止について多角的に,具体的に考えることの重要性が示唆された。
 佐賀県は,「学校」「委員」,「警察」「連携」,「家庭」「地域」は記述パターンが異なり,学校内と学校外の機関は別の組織と捉えていることが示唆された。宮崎県の方が全体として語の出現数が多い中,「警察」は佐賀県の方が多かった。この抽出語は,重大事態発生後の対応が記述されるときに使用される。ここから,佐賀県は重大事態の対応を重要視していると考えられる。
 宮崎県は,「調査」などのいじめを発見する方法についての記述が抽出されており,早期発見に重きを置いていることが分かる。一方佐賀県は,「委員」「設置」「連携」「機関」のように対策する機関を設置することについての記述が多い。したがって,事案が発生した際の受け入れ態勢を整えておくことに重きを置いているようであった。
 「保護」は両県に共通して多く出現していた。「保護する」ではなく,「保護者」の一部が抽出されていた。いじめ問題においては,児童生徒だけではなく保護者も関係性が深いと捉えているようであった。着目すべきは,その出現の特徴である。宮崎県は保護者も防止する側の一員であるという位置づけ,児童生徒と同様に指導及び支援していくべき存在として位置づけていた。一方で佐賀県は,いじめが発生した後,説明責任を果たすべき存在として位置づけていた。
 「連携」「機関」は両県とも出現数が多いことから,いじめ防止において学校と専門機関,家庭が連携することの重要性は広く認識されているようであった。
 両県の基本方針の比較により,いじめ防止に対する認識は異なることが明らかとなった。宮崎県は,佐賀県よりいじめ防止において,早期発見が重要であるという認識を持っていると考えられる。早い段階で認知しようという意識の高さがいじめ認知件数の多さにつながっていることが示唆された。いじめ防止の認識について,妥当性を得るために,他の自治体の基本方針を追加して,分析していくことが必要であろう。