[PH50] 子どもの願いを授業につなぐ「個別の指導計画」の検討
児童の育ちをつなぐ個別の指導計画の書式づくり
キーワード:知的障害、特別支援学校、個別の指導計画
目 的
特別支援学校では,児童生徒一人一人に対して個別の教育支援計画および個別の指導計画が作成されている(文部科学省, 2009)。しかしながら,個別の指導計画の書式は自治体や学校によって異なっており,目標や手立ての設定も各教員にゆだねられている部分が大きい。実態から目標,手立てへの記述やつながりが適切ではないことが指摘されたり,評価の視点が定まりにくく次年度の担任へ継続されにくかったり,また,家庭との共有の困難さなどの課題も生じている。
本研究では,知的障害特別支援学校小学部において,児童の育ちについて段階的に目標を設定し,PDCAサイクルを繰り返すことのできる個別の指導計画の書式作りに取り組んだ。
方 法
対象: A知的障害特別支援学校小学部(1~6学年)の個別の指導計画
方法:
(1)目標の縦断的な分析および見直し
小学部6年児童の事例について,これまでの個別の指導計画計画の目標とその変化を縦断的に分析し整理した。従来の書式では,個別の指導計画で「目標」と「手だて」の欄,通知表で「目標」と「評価」の欄を設け,それぞれ並列して記述していた。その際,目標欄に長期的な目標を設け,手だて欄に細分化した目標と段階的な方略を挙げており,目標欄における目標の達成や変化が短期間では見え辛いという課題が挙げられた。また,包括的な目標に対しエピソードを交えた文章表記の評価を行っており,評価の視点が定まりにくく,教師と家庭で認識を共有することに困難が生じる場合もあった。このことから,個別教育計画の目標と手だての設定および記載方法を再検討した。
(2)目標設定の方法及び評価の在り方の再検討
上記課題を踏まえ,目標設定および評価の方法や基準を検討した。個別の指導計画の書式については,「目標」「手だて」「授業」「評価(4期)」「備考」の欄を設け,目標から評価までが一枚で見えるようにした。通知表の書式は別途作成し,授業内容と活動の様子を記述するようにした。また,記述方法等の改善を行った(Table 1)。
(3)新書式運用後の目標の変化の検討
新書式運用後の評価として,児童の目標量の変化について検討した。
対象: X-1年度(前書式)およびX年度(新書式)の1~6学年在籍児童,各23名の個別の指導計画。
方法: 各児童の前期評価時の目標欄から,「達成した目標」「新しく設定された目標」「修正した目標」の数を算出し,合算した。達成した目標については,「達成した」「できるようになった」という評価が記述されているものを対象とした。
(4)保護者アンケートに基づく妥当性の検討
改善した個別の指導計画について,X年度末に保護者アンケートを実施し妥当性を検討した。
結 果
児童の目標の変化を,Figure 1に示した。達成したと明確に示された目標が20件から175件と大幅に増加し,新規に設定された目標についても増加した。さらに,修正された目標が31件あった。
保護者アンケートでは,新書式について96%が「満足」,目標の授業内容への反映について89%が「あてはまる」と回答があった。さらに,自由記述や連絡帳,面談において,「新しい書式は今できることや課題がわかりやすい。家庭でもがんばりたい」などのポジティブなコメントが寄せられた。
考 察
個別の指導計画において,段階的な目標と手だて,短期間での評価機会を設定することで,児童一人一人の目標の達成と新規目標の設定が活性化された。また,児童に関する評価だけでなく目標や手だてに対する評価を行うことにより,実態に合わなかった目標や手だてについての振り返りが行われ,より実態に合った教育活動を提供できるようになった。達成した目標に加えて,修正した目標や手だては,児童の学びの過程の詳細な記録となると考えられる。
付 記
本研究は筑波大学附属大塚特別支援学校小学部研究の成果であり,初村多津子氏,田中翔大氏,北村洋次郎氏,杉田葉子氏,菅野佳江氏,當眞正太氏,飯島徹氏,小家千津子氏,仲野みこ氏,新城理奈氏,との共同研究である。また,JSPS科研費18H1037による研究の一部である。
特別支援学校では,児童生徒一人一人に対して個別の教育支援計画および個別の指導計画が作成されている(文部科学省, 2009)。しかしながら,個別の指導計画の書式は自治体や学校によって異なっており,目標や手立ての設定も各教員にゆだねられている部分が大きい。実態から目標,手立てへの記述やつながりが適切ではないことが指摘されたり,評価の視点が定まりにくく次年度の担任へ継続されにくかったり,また,家庭との共有の困難さなどの課題も生じている。
本研究では,知的障害特別支援学校小学部において,児童の育ちについて段階的に目標を設定し,PDCAサイクルを繰り返すことのできる個別の指導計画の書式作りに取り組んだ。
方 法
対象: A知的障害特別支援学校小学部(1~6学年)の個別の指導計画
方法:
(1)目標の縦断的な分析および見直し
小学部6年児童の事例について,これまでの個別の指導計画計画の目標とその変化を縦断的に分析し整理した。従来の書式では,個別の指導計画で「目標」と「手だて」の欄,通知表で「目標」と「評価」の欄を設け,それぞれ並列して記述していた。その際,目標欄に長期的な目標を設け,手だて欄に細分化した目標と段階的な方略を挙げており,目標欄における目標の達成や変化が短期間では見え辛いという課題が挙げられた。また,包括的な目標に対しエピソードを交えた文章表記の評価を行っており,評価の視点が定まりにくく,教師と家庭で認識を共有することに困難が生じる場合もあった。このことから,個別教育計画の目標と手だての設定および記載方法を再検討した。
(2)目標設定の方法及び評価の在り方の再検討
上記課題を踏まえ,目標設定および評価の方法や基準を検討した。個別の指導計画の書式については,「目標」「手だて」「授業」「評価(4期)」「備考」の欄を設け,目標から評価までが一枚で見えるようにした。通知表の書式は別途作成し,授業内容と活動の様子を記述するようにした。また,記述方法等の改善を行った(Table 1)。
(3)新書式運用後の目標の変化の検討
新書式運用後の評価として,児童の目標量の変化について検討した。
対象: X-1年度(前書式)およびX年度(新書式)の1~6学年在籍児童,各23名の個別の指導計画。
方法: 各児童の前期評価時の目標欄から,「達成した目標」「新しく設定された目標」「修正した目標」の数を算出し,合算した。達成した目標については,「達成した」「できるようになった」という評価が記述されているものを対象とした。
(4)保護者アンケートに基づく妥当性の検討
改善した個別の指導計画について,X年度末に保護者アンケートを実施し妥当性を検討した。
結 果
児童の目標の変化を,Figure 1に示した。達成したと明確に示された目標が20件から175件と大幅に増加し,新規に設定された目標についても増加した。さらに,修正された目標が31件あった。
保護者アンケートでは,新書式について96%が「満足」,目標の授業内容への反映について89%が「あてはまる」と回答があった。さらに,自由記述や連絡帳,面談において,「新しい書式は今できることや課題がわかりやすい。家庭でもがんばりたい」などのポジティブなコメントが寄せられた。
考 察
個別の指導計画において,段階的な目標と手だて,短期間での評価機会を設定することで,児童一人一人の目標の達成と新規目標の設定が活性化された。また,児童に関する評価だけでなく目標や手だてに対する評価を行うことにより,実態に合わなかった目標や手だてについての振り返りが行われ,より実態に合った教育活動を提供できるようになった。達成した目標に加えて,修正した目標や手だては,児童の学びの過程の詳細な記録となると考えられる。
付 記
本研究は筑波大学附属大塚特別支援学校小学部研究の成果であり,初村多津子氏,田中翔大氏,北村洋次郎氏,杉田葉子氏,菅野佳江氏,當眞正太氏,飯島徹氏,小家千津子氏,仲野みこ氏,新城理奈氏,との共同研究である。また,JSPS科研費18H1037による研究の一部である。