[PH56] 他者を思いやる心が身体能力の限界に及ぼす影響
キーワード:思いやり行動、身体能力の限界、動機付け
研究の背景と目的
「思いやり」は「向社会的行動」と同義として, 「他者への援助行動であること」「報酬を得ることを目的としないこと」「コストが伴うこと」「自発的な行動であること」と定義されている認知・行動である(菊池, 1988)。本研究では, これらの定義に基づき, 思いやりの測定に「体力の限界」という客観的な評定基準を適用し, 他者を思いやる認知が身体能力の限界に及ぼす影響について検討することを目的とした。
方 法
1. 実験対象者
東海圏に在籍する大学生を対象に実験参加者の募集を行い, 実験参加の同意が得られた67名(男性5名・女性62名)を対象に実験を行なった。実験参加者の募集に際しては, 「ぶら下がり健康器にぶら下がる実験であること」と「実験後に謝礼(500円分Quoカード)が得られること」が事前に提示された。実験参加者はランダムに統制条件群(35名)と実験条件群(32名)の2つの条件群に振り分けられた。
2. 実験手続き
両条件群ともぶら下がり健康器に3回ぶら下がることを共通条件とし, 統制条件群は3回とも「できる限り長くぶら下がること」を条件とした。各回の休憩時間は5分とした。実験群は,2回目のぶら下がりまでは統制条件群と同じ条件(できる限り長くぶら下がること)で実施し,2回目終了後(3回目開始前)に「この実験は, 実はあなた(実験参加者)が知らない実験参加者2人とチームになっており, 3名の合計時間を基準に謝礼の有無を決めていること」「あなた(実験参加者)は既に謝礼をもらえることが確定していること」「他の実験参加者2名が謝礼をもらうためには,あなたがX秒(X:2回目の記録+7秒)ぶら下がることが条件になっていること」を伝えた後にぶら下がる条件とした。
3. 倫理的配慮
ぶら下がり健康器の使用における危険防止に配慮を行いながら実験を実施した。また, 実験は実験参加者の痛みに配慮しながら実施し, 実験終了後には活動沈静化動作を欠かさず行った。実験後にはディブリーフィングを行い, 実験参加者全員に500円分のQuoカードが謝礼として渡された。なお, 本研究は名古屋学芸大学研究倫理委員会の審査と承認を受けて行われた(倫理番号:306)。
結 果
条件群(統制条件群・実験条件群)と回数(Time1・Time2・Time3)を独立変数とし, ぶら下がり時間を従属変数とした二要因分散分析を実施した。その結果,条件群と回数の交互作用が示された(F [2,130]=16.76, p<.001)。次に単純主効果の検定を実施した結果, 両群内の単純主効果および, 1回目と3回目における条件群の単純主効果が有意であった。これらの結果をうけて多重比較を実施した結果, 実験条件群内および統制条件群内におけるTime2とTime3において有意差が認められ, また, Time3において群間差が認められた(F [1,65]=8.54, p=.005)。
考 察
本研究の結果を概観すると,両条件群において自己利益のためにぶら下がった2回目の時間において群間差は示されなかった。しかしながら, 3回目の測定においては, 「他者利益のためにぶら下がる群(実験条件群)」と「自己利益のためにぶら下がる群(統制条件群)」という条件の違いによってぶら下がり時間に差が生じた。また群内比較においては, 統制条件群は2回目から3回目において, ぶら下がり時間が短くなったのに対して, 実験条件群においは, 2回目から3回目において, ぶら下がり時間が長くなった。これらの結果は, 他者を思いやる認知・行動には, 自己身体能力の限界を超えさせるような影響力を有していることを示唆している。「思いやり」などを適応の軸においている教育場面においては,多くの集団活動が行われている。本研究の知見をふまえると, これらの集団活動における動機付けの対象は, 自己のためだけではなく, 他者のためにも努力する姿勢を有することで, 大きな「成長」につながることが考えられる。今後は, これらの研究結果を教育場面で生かすことが期待される。
「思いやり」は「向社会的行動」と同義として, 「他者への援助行動であること」「報酬を得ることを目的としないこと」「コストが伴うこと」「自発的な行動であること」と定義されている認知・行動である(菊池, 1988)。本研究では, これらの定義に基づき, 思いやりの測定に「体力の限界」という客観的な評定基準を適用し, 他者を思いやる認知が身体能力の限界に及ぼす影響について検討することを目的とした。
方 法
1. 実験対象者
東海圏に在籍する大学生を対象に実験参加者の募集を行い, 実験参加の同意が得られた67名(男性5名・女性62名)を対象に実験を行なった。実験参加者の募集に際しては, 「ぶら下がり健康器にぶら下がる実験であること」と「実験後に謝礼(500円分Quoカード)が得られること」が事前に提示された。実験参加者はランダムに統制条件群(35名)と実験条件群(32名)の2つの条件群に振り分けられた。
2. 実験手続き
両条件群ともぶら下がり健康器に3回ぶら下がることを共通条件とし, 統制条件群は3回とも「できる限り長くぶら下がること」を条件とした。各回の休憩時間は5分とした。実験群は,2回目のぶら下がりまでは統制条件群と同じ条件(できる限り長くぶら下がること)で実施し,2回目終了後(3回目開始前)に「この実験は, 実はあなた(実験参加者)が知らない実験参加者2人とチームになっており, 3名の合計時間を基準に謝礼の有無を決めていること」「あなた(実験参加者)は既に謝礼をもらえることが確定していること」「他の実験参加者2名が謝礼をもらうためには,あなたがX秒(X:2回目の記録+7秒)ぶら下がることが条件になっていること」を伝えた後にぶら下がる条件とした。
3. 倫理的配慮
ぶら下がり健康器の使用における危険防止に配慮を行いながら実験を実施した。また, 実験は実験参加者の痛みに配慮しながら実施し, 実験終了後には活動沈静化動作を欠かさず行った。実験後にはディブリーフィングを行い, 実験参加者全員に500円分のQuoカードが謝礼として渡された。なお, 本研究は名古屋学芸大学研究倫理委員会の審査と承認を受けて行われた(倫理番号:306)。
結 果
条件群(統制条件群・実験条件群)と回数(Time1・Time2・Time3)を独立変数とし, ぶら下がり時間を従属変数とした二要因分散分析を実施した。その結果,条件群と回数の交互作用が示された(F [2,130]=16.76, p<.001)。次に単純主効果の検定を実施した結果, 両群内の単純主効果および, 1回目と3回目における条件群の単純主効果が有意であった。これらの結果をうけて多重比較を実施した結果, 実験条件群内および統制条件群内におけるTime2とTime3において有意差が認められ, また, Time3において群間差が認められた(F [1,65]=8.54, p=.005)。
考 察
本研究の結果を概観すると,両条件群において自己利益のためにぶら下がった2回目の時間において群間差は示されなかった。しかしながら, 3回目の測定においては, 「他者利益のためにぶら下がる群(実験条件群)」と「自己利益のためにぶら下がる群(統制条件群)」という条件の違いによってぶら下がり時間に差が生じた。また群内比較においては, 統制条件群は2回目から3回目において, ぶら下がり時間が短くなったのに対して, 実験条件群においは, 2回目から3回目において, ぶら下がり時間が長くなった。これらの結果は, 他者を思いやる認知・行動には, 自己身体能力の限界を超えさせるような影響力を有していることを示唆している。「思いやり」などを適応の軸においている教育場面においては,多くの集団活動が行われている。本研究の知見をふまえると, これらの集団活動における動機付けの対象は, 自己のためだけではなく, 他者のためにも努力する姿勢を有することで, 大きな「成長」につながることが考えられる。今後は, これらの研究結果を教育場面で生かすことが期待される。