[PH62] 中学生の自己意識,同調傾向ならびに被異質視不安がいじめ加害傾向に与える影響
キーワード:いじめ、同調傾向、被異質視不安
問 題
平松 (2004) によると,いじめの多くは単独ではなく,複数人 (いじめ加害経験あり群の90%) で行われていることが明らかになっている。いじめ場面に遭遇した周囲の他者が,加害者に合わせた行動をとることにより,いじめへと発展する可能性があるのではないかと考えた。
そこで本研究では,個人的要因として自己意識,対人的要因として同調傾向,被異質視不安・異質拒否傾向を用いて,いじめ加害傾向にどのような影響があるのかについて検討した。
方 法
1. 調査対象者
公立中学校1年生の生徒204名 (男子90名,女子113名,不明1名) に質問紙調査を行った。最終的な分析対象者は,168名 (男子75名,女子93名) であった。
2. 調査用紙
(1) 自意識尺度 菅原 (1984) の自意識尺度の計21項目を使用した。この尺度は,「公的自己意識」,「私的自己意識」の2因子構造で,7件法で回答を求めた。
(2) 同調行動尺度 葛西・松本 (2010) の同調行動尺度の計22項目を使用した。この尺度は,「仲間への同調」,「自己犠牲・追従」の2因子構造で,5件法で回答を求めた。
(3) 被異質視不安・異質拒否傾向尺度 高坂 (2010) の被異質視不安・異質拒否傾向尺度の計24項目を使用した。この尺度は,「被異質視不安」,「異質拒否傾向」の2因子構造で,5件法で回答を求めた。
(4) いじめ加害傾向尺度 大西・吉田 (2010) のいじめ加害傾向尺度の計5項目を使用した。この尺度は,「直接的いじめ加害傾向」,「関係性いじめ加害傾向」の2因子構造で,4件法で回答を求めた。
結果および考察
(1) 分析モデルの検討:自己意識,同調傾向,異質拒否傾向・被異質視不安がいじめ加害傾向に影響を与えるプロセスを検討するため,最尤推定法によるパス解析を実施した。仮説モデルでは,モデル適合度が低かったため,モデルを修正し,再度分析を行った結果,Figure 1 (GFI=.946,AGFI=.870,CFI=.937,RMSEA=.099, AIC=81.441)のモデルを採用した。
(2) 全体での検討:「公的自己意識」から「被異質視不安」へのパス,「異質拒否傾向」から「被異質視不安」へのパス,「被異質視不安」から「仲間への同調」へのパス,「被異質視不安」から「自己犠牲・追従」へのパス,「仲間への同調」から「関係性いじめ加害傾向」へのパスについて,それぞれ有意な正のパスが認められた。
「公的自己意識」から「被異質視不安」への影響について,自分が他者からどうみられているのかについて考えやすい者は他者から異質に見られる不安が高いということが明らかになった。「異質拒否傾向」から「被異質視不安」へのパスについては先行研究と同様の結果が得られた。「被異質視不安」は「仲間への同調」および「自己犠牲・追従」の2つの同調因子に正の影響を与えていた。他者から異質に見られることに不安を感じやすい者は,他者の言動が自分の意思と同じであっても違ったとしても,友人と同じことをするという結果が得られた。また,「仲間への同調」は「関係性いじめ加害傾向」に正の影響を与えていた。このことから,中学1年生は,「からかい」や「ひやかし」などの直接的ないじめよりも,「無視」などの関係性いじめで,同調しやすい可能性が推測された。
(3) 性別での検討:性別によって変数に与える影響を検討するため,男女別でパス解析を実施した。その結果,男女共に「公的自己意識」から「被異質視不安」,「異質拒否傾向」から「被異質視不安」,「被異質視不安」から「仲間への同調」,および「自己犠牲・追従」への正の有意なパスがみられた。また,男子では「仲間への同調」から「関係性いじめ加害傾向」への正の有意なパスがみられ,女子では「公的自己意識」から「仲間への同調」,「自己犠牲・追従」から「直接的いじめ加害傾向」にそれぞれ負の有意なパスがみられた。
男子において無視などの関係性いじめは,友人と同じことをしたいという心理で生じるが,女子においてからかいやひやかしなどの直接的ないじめについては,自分の意思に反してまで友人に合わせた行動はしないということが明らかになった。
平松 (2004) によると,いじめの多くは単独ではなく,複数人 (いじめ加害経験あり群の90%) で行われていることが明らかになっている。いじめ場面に遭遇した周囲の他者が,加害者に合わせた行動をとることにより,いじめへと発展する可能性があるのではないかと考えた。
そこで本研究では,個人的要因として自己意識,対人的要因として同調傾向,被異質視不安・異質拒否傾向を用いて,いじめ加害傾向にどのような影響があるのかについて検討した。
方 法
1. 調査対象者
公立中学校1年生の生徒204名 (男子90名,女子113名,不明1名) に質問紙調査を行った。最終的な分析対象者は,168名 (男子75名,女子93名) であった。
2. 調査用紙
(1) 自意識尺度 菅原 (1984) の自意識尺度の計21項目を使用した。この尺度は,「公的自己意識」,「私的自己意識」の2因子構造で,7件法で回答を求めた。
(2) 同調行動尺度 葛西・松本 (2010) の同調行動尺度の計22項目を使用した。この尺度は,「仲間への同調」,「自己犠牲・追従」の2因子構造で,5件法で回答を求めた。
(3) 被異質視不安・異質拒否傾向尺度 高坂 (2010) の被異質視不安・異質拒否傾向尺度の計24項目を使用した。この尺度は,「被異質視不安」,「異質拒否傾向」の2因子構造で,5件法で回答を求めた。
(4) いじめ加害傾向尺度 大西・吉田 (2010) のいじめ加害傾向尺度の計5項目を使用した。この尺度は,「直接的いじめ加害傾向」,「関係性いじめ加害傾向」の2因子構造で,4件法で回答を求めた。
結果および考察
(1) 分析モデルの検討:自己意識,同調傾向,異質拒否傾向・被異質視不安がいじめ加害傾向に影響を与えるプロセスを検討するため,最尤推定法によるパス解析を実施した。仮説モデルでは,モデル適合度が低かったため,モデルを修正し,再度分析を行った結果,Figure 1 (GFI=.946,AGFI=.870,CFI=.937,RMSEA=.099, AIC=81.441)のモデルを採用した。
(2) 全体での検討:「公的自己意識」から「被異質視不安」へのパス,「異質拒否傾向」から「被異質視不安」へのパス,「被異質視不安」から「仲間への同調」へのパス,「被異質視不安」から「自己犠牲・追従」へのパス,「仲間への同調」から「関係性いじめ加害傾向」へのパスについて,それぞれ有意な正のパスが認められた。
「公的自己意識」から「被異質視不安」への影響について,自分が他者からどうみられているのかについて考えやすい者は他者から異質に見られる不安が高いということが明らかになった。「異質拒否傾向」から「被異質視不安」へのパスについては先行研究と同様の結果が得られた。「被異質視不安」は「仲間への同調」および「自己犠牲・追従」の2つの同調因子に正の影響を与えていた。他者から異質に見られることに不安を感じやすい者は,他者の言動が自分の意思と同じであっても違ったとしても,友人と同じことをするという結果が得られた。また,「仲間への同調」は「関係性いじめ加害傾向」に正の影響を与えていた。このことから,中学1年生は,「からかい」や「ひやかし」などの直接的ないじめよりも,「無視」などの関係性いじめで,同調しやすい可能性が推測された。
(3) 性別での検討:性別によって変数に与える影響を検討するため,男女別でパス解析を実施した。その結果,男女共に「公的自己意識」から「被異質視不安」,「異質拒否傾向」から「被異質視不安」,「被異質視不安」から「仲間への同調」,および「自己犠牲・追従」への正の有意なパスがみられた。また,男子では「仲間への同調」から「関係性いじめ加害傾向」への正の有意なパスがみられ,女子では「公的自己意識」から「仲間への同調」,「自己犠牲・追従」から「直接的いじめ加害傾向」にそれぞれ負の有意なパスがみられた。
男子において無視などの関係性いじめは,友人と同じことをしたいという心理で生じるが,女子においてからかいやひやかしなどの直接的ないじめについては,自分の意思に反してまで友人に合わせた行動はしないということが明らかになった。