10:15 〜 10:45
[R10-O-1] (招待講演/ハイライト)初期太古代の炭酸塩岩:その起源と炭酸塩岩から読む地球環境
キーワード:炭酸塩岩、地球生命進化、玄武岩地殻の炭酸塩岩化、原太古代、表層環境、初期地球
世話人からのハイライト紹介:本講演は,R10セッションの招待講演である.西グリーンランドやラブラドル北東部などの原太古代の地質体から産する炭酸塩岩の産状や化学組成をもとに明らかになった,初期地球の表層環境について紹介いただく.さらに,現在進行中である,表成岩帯中の炭酸塩岩からの炭質物の全岩や局所微量元素,同位体分析を基にした初期生命の進化,炭酸塩岩の化学組成を用いた地球史を通じた古海洋組成など最新の研究も講演いただく予定である.参考:ハイライトについて
炭酸塩岩は主に炭酸塩鉱物から構成される堆積岩で、顕生代においては炭酸塩骨格を形成する生物化石のホストや地球表層環境を記録する地球生命進化のアーカイブとして広く活用されている。一方で、初期地球では、大気の高CO2濃度ゆえに、海洋のpHも現在に比べ低いとされ、堆積成炭酸塩岩は形成されなかったとする考えも根強い。実際、西グリーンランド・イスア表成岩帯に産する炭酸塩岩は堆積成とする解釈もある一方で、玄武岩や超塩基性岩の炭酸塩岩化作用で生じた二次的なものであるという解釈が支配的であった。本発表では原太古代の三つの地質体に産する炭酸塩岩の産状や化学組成についてまとめ、初期地球の表層環境について言及するとともに今後の研究について触れたい。
イスア表成岩帯は超塩基性岩、塩基性岩、チャート、炭酸塩岩、縞状鉄鉱層および砕屑性堆積岩から構成され、37〜38億年前に形成された付加体である。そこには、礫岩と互層するタイプや玄武岩質海洋地殻の最上部に見られるタイプなどの炭酸塩岩が存在することは知られていたが、堆積成であることを示す明白な指標がなかったために、その起源は不明確であった。しかし、2000年代末頃から、希土類元素パターンからイスア表成岩帯に化学沈殿岩由来の炭酸塩岩が存在することが示され、さらに、2016にはストロマトライト構造を持つ炭酸塩岩が存在することが報告され、炭酸塩岩研究が再び動き出した。私たちは炭酸塩岩に伴われる岩相をもとに、チャートと互層するタイプと礫岩と互層するタイプに分類し、付加体地質学に従い、前者を遠洋域、後者を大陸縁で堆積したと考えた。両者は化学沈殿岩由来の指標であるY異常をもつ。また、前者の方がより大きなEu正異常を持ち、熱水の特徴をより強く持つ一方で、後者の方がRb, Ba, Kなどの陸源の特徴が強くみられた。その化学的特徴は付加体地質学から推定される造構場と調和的である。
ラブラドル北東部サグレック岩体の39億年前の表成岩帯にも炭酸塩岩が存在する。それらは、縞状鉄鉱層と玄武岩の間または泥質岩と互層して産し、それぞれ中央海嶺近辺と大陸縁で生じたと考えられる。それらはともにEu、YやUの正異常を持つが、前者の方がEu異常が大きく、Y異常が小さい。一般にUは酸化還元鋭敏元素の一つとされ、酸化的な陸上・海洋条件の時にThに比べて海洋中のU濃度が高くなるとされる。そのため、この結果は初期太古代においても完全な無酸素ではなく、UとThがデカップリングする程度には酸化的であったことを示す。そこで、当時の海洋のpHを5.8~6.3であったと仮定して、FeとUのpH-Eh図から当時の酸化還元状態を推定した結果、Ehは-0.1~0.0Vとなった。また、イスア表成岩帯とサグレック岩体に産する炭酸塩岩は現世の遠洋炭酸塩堆積物に比べて、Ni, V, Co, Znに富むことから、原太古代の海洋はこれらの元素に富んでいたと考えられる。加えて、これらの炭酸塩岩の化学組成のばらつきを、独立成分分析を用いて統計解析し、calcite、dolomite、珪化(SiO2)、砕屑性物質、鉄酸化物の構成成分に分離した。
中太古代の玄武岩質海洋地殻では炭酸塩岩化や珪化が顕著に見られ、中央海嶺でのアルカリ性の熱水変成作用によると考えられている。一方で、緑色片岩相上部から角閃岩相以上の変成作用を受けた原太古代の地質体では、当時の方が大気CO2濃度がより高かったと推測されるのに、顕著な炭酸塩岩化の証拠は得られていないと言った矛盾があった。ところで、ヌブアギツック表成岩帯の苦鉄質岩はCaOに乏しく普通角閃石ではなく、カミングトン閃石に富むといった特徴を持ちその起源は明らかにされていなかった。ルチルや球状石英が多いといった鉱物学的特徴や主成分元素組成は中原生代で見られる炭酸塩岩化された玄武岩と類似することからこの苦鉄質岩は炭酸塩岩化された玄武岩が、その後より高度な変成作用を受けて脱炭酸したものであると考えられる。このことは、原太古代においても、アルカリ熱水変成作用は起きていたことを示す。
最後に、私たちが現在行なっている研究を紹介する。一つは、炭酸塩岩の化学組成を用いた地球史を通じた古海洋組成の推定である。もう一つは、サグレックとヌブアギツック表成岩帯に産するチャート、炭酸塩岩、砕屑性堆積岩中の炭質物の全岩や局所微量元素および同位体分析である。後者の結果から、当時すでに生物が多様であったことが見えてきている。
イスア表成岩帯は超塩基性岩、塩基性岩、チャート、炭酸塩岩、縞状鉄鉱層および砕屑性堆積岩から構成され、37〜38億年前に形成された付加体である。そこには、礫岩と互層するタイプや玄武岩質海洋地殻の最上部に見られるタイプなどの炭酸塩岩が存在することは知られていたが、堆積成であることを示す明白な指標がなかったために、その起源は不明確であった。しかし、2000年代末頃から、希土類元素パターンからイスア表成岩帯に化学沈殿岩由来の炭酸塩岩が存在することが示され、さらに、2016にはストロマトライト構造を持つ炭酸塩岩が存在することが報告され、炭酸塩岩研究が再び動き出した。私たちは炭酸塩岩に伴われる岩相をもとに、チャートと互層するタイプと礫岩と互層するタイプに分類し、付加体地質学に従い、前者を遠洋域、後者を大陸縁で堆積したと考えた。両者は化学沈殿岩由来の指標であるY異常をもつ。また、前者の方がより大きなEu正異常を持ち、熱水の特徴をより強く持つ一方で、後者の方がRb, Ba, Kなどの陸源の特徴が強くみられた。その化学的特徴は付加体地質学から推定される造構場と調和的である。
ラブラドル北東部サグレック岩体の39億年前の表成岩帯にも炭酸塩岩が存在する。それらは、縞状鉄鉱層と玄武岩の間または泥質岩と互層して産し、それぞれ中央海嶺近辺と大陸縁で生じたと考えられる。それらはともにEu、YやUの正異常を持つが、前者の方がEu異常が大きく、Y異常が小さい。一般にUは酸化還元鋭敏元素の一つとされ、酸化的な陸上・海洋条件の時にThに比べて海洋中のU濃度が高くなるとされる。そのため、この結果は初期太古代においても完全な無酸素ではなく、UとThがデカップリングする程度には酸化的であったことを示す。そこで、当時の海洋のpHを5.8~6.3であったと仮定して、FeとUのpH-Eh図から当時の酸化還元状態を推定した結果、Ehは-0.1~0.0Vとなった。また、イスア表成岩帯とサグレック岩体に産する炭酸塩岩は現世の遠洋炭酸塩堆積物に比べて、Ni, V, Co, Znに富むことから、原太古代の海洋はこれらの元素に富んでいたと考えられる。加えて、これらの炭酸塩岩の化学組成のばらつきを、独立成分分析を用いて統計解析し、calcite、dolomite、珪化(SiO2)、砕屑性物質、鉄酸化物の構成成分に分離した。
中太古代の玄武岩質海洋地殻では炭酸塩岩化や珪化が顕著に見られ、中央海嶺でのアルカリ性の熱水変成作用によると考えられている。一方で、緑色片岩相上部から角閃岩相以上の変成作用を受けた原太古代の地質体では、当時の方が大気CO2濃度がより高かったと推測されるのに、顕著な炭酸塩岩化の証拠は得られていないと言った矛盾があった。ところで、ヌブアギツック表成岩帯の苦鉄質岩はCaOに乏しく普通角閃石ではなく、カミングトン閃石に富むといった特徴を持ちその起源は明らかにされていなかった。ルチルや球状石英が多いといった鉱物学的特徴や主成分元素組成は中原生代で見られる炭酸塩岩化された玄武岩と類似することからこの苦鉄質岩は炭酸塩岩化された玄武岩が、その後より高度な変成作用を受けて脱炭酸したものであると考えられる。このことは、原太古代においても、アルカリ熱水変成作用は起きていたことを示す。
最後に、私たちが現在行なっている研究を紹介する。一つは、炭酸塩岩の化学組成を用いた地球史を通じた古海洋組成の推定である。もう一つは、サグレックとヌブアギツック表成岩帯に産するチャート、炭酸塩岩、砕屑性堆積岩中の炭質物の全岩や局所微量元素および同位体分析である。後者の結果から、当時すでに生物が多様であったことが見えてきている。