128th JGS: 2021

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R4 [Regular Session]Metamorphic rocks and tectonics

[1poster21-29] R4 [Regular Session]Metamorphic rocks and tectonics

Sat. Sep 4, 2021 4:30 PM - 7:00 PM poster (poster)

4:30 PM - 7:00 PM

[R4-P-5] (entry) Evaluation of the thermal effect of intrusion of the Kaikomagatake granitic body by metamorphic temperature estimates and thermal modeling for basement rocks of the Outer Zone of Southwest Japan in the northern part of the Akaishi Mountains area

*Yuki Nobe1, Hiroshi Mori1, Hiroki Mizumura1,2, Ken Yamaoka3, Yui Kouketsu4, Tetsuya Tokiwa1 (1. Shinshu University, 2. Kyowa Sekkei Co., Ltd., 3. The University of Tokyo, 4. Nagoya University)

Keywords:Akaishi Mountains, Outer Zone of Southwest Japan, Kaikomagatake granitic body, Raman carbonaceous material geothermometry, thermal modeling

世話人からのハイライト紹介:変成岩に含まれる有機物の石墨化度を用いて,高温のマグマの貫入により生じた接触変成作用の実態を明らかにした研究.被熱温度の分布から熱モデリングにより推定したマグマの初期温度と,火成岩の熱力学的な計算から推定した温度の比較を行い,研究地域の温度構造がマグマ貫入の影響で説明できることを明らかにした.参考:ハイライトについて
はじめに】中期中新世以降の日本海拡大と伊豆–小笠原弧の本州弧への衝突(Hyodo & Niitsuma, 1986)に関連して,中部地方・赤石山地における西南日本外帯の基盤地質構造は大きく改変され,三波川帯,秩父帯および四万十帯の帯状配列が南北走向に屈曲するとともに,大規模な“ねじ曲がり構造”の存在も推定されている(e.g. 松島, 1997).このことは,赤石山地の西南日本外帯基盤岩が一体となって深部から上昇してきたことを示しており,同地域の基盤岩研究は,中期中新世以降のテクトニクスに関する深部活動履歴の究明に重要であるといえる.ねじ曲がり構造の軸部にあたる小渋川地域では,炭質物ラマン温度計を用いた変成温度解析が行われ,秩父帯から四万十帯にかけてねじ曲がりに起因した温度上昇も検出されている(森ほか, 2021).一方,小渋川地域より北の赤石山地北部では,ねじ曲がり構造の影響が顕著であると考えられるものの,甲斐駒ヶ岳花崗岩体が大規模に貫入しており,温度構造解析に基づく基盤岩評価には,この貫入熱影響を考慮する必要がある.そこで本研究では,赤石山地北部・黒川地域の西南日本外帯基盤岩を対象に,変成温度解析と熱モデリングを併用した貫入熱影響評価を行った.

地質概要】黒川地域では,西から三波川帯,戸台層,秩父帯,および四万十帯が分布し,三波川帯,秩父帯,および四万十帯は主に付加体構成岩類もしくは付加体起源の変成岩類,戸台層は浅海性堆積岩類からなる.また,四万十帯東部では,中期中新世の定置年代をもつ甲斐駒ヶ岳花崗岩が貫入する(e.g. Watanabe et al., 2020).

アプローチの概要】変成温度解析では,炭質物ラマン温度計(Aoya et al., 2010; Kouketsu et al., 2014)を用いて,甲斐駒ヶ岳花崗岩周辺の最高到達温度を推定し,温度分布の詳細を把握する.また,熱モデリングでは,瞬間的なマグマ貫入を仮定した1次元の熱伝導方程式に基づく熱計算を用いて,炭質物ラマン温度計により見積もられた温度分布に対するフィッティングを行い,貫入時のマグマの初期温度(マグマ温度)を制約する.そして,制約されたパラメータの妥当性を評価することで,天然に記録された温度分布を貫入熱影響で説明可能か否かを検証する.

結果・考察】変成温度解析のために,三波川帯の4地点,戸台層の2地点,秩父帯の5地点,および四万十帯の4地点において岩石試料を採取した.炭質物ラマン温度計により見積もられた最高到達温度は,三波川帯で332〜417 ºC,戸台層で275〜284 ºC,秩父帯で276〜316 ºC,四万十帯で317〜492 ºCを示す.また,大局的な温度構造としては,貫入境界に近づくにつれて,三波川帯では温度低下を示す一方,戸台層から四万十帯にかけては地質帯をまたいで連続的な温度上昇が認められ,後者の温度上昇は,貫入熱影響により形成された可能性を示唆する.そこで,戸台層〜四万十帯の温度データを対象とし,マグマおよび母岩の初期温度を未決定パラメータに設定して貫入熱モデリングによるフィッティングを行ったところ,マグマ温度は約1000 ºC,母岩温度は約180 ºCと制約された.
 また今回,フィッティングにより制約されたマグマ温度の妥当性を評価するため,甲斐駒ヶ岳花崗岩の全岩化学組成(佐藤・柴田, 2017)を入力値としたrhyolite-MELTS(Gualda & Ghiorso, 2015)による熱力学計算との比較を行った.熱力学計算結果は,リキダス温度が約1090 ºC,ソリダス温度が約720ºCを示し,フィッティング結果と整合的である.この整合性は,戸台層から四万十帯にかけての温度構造が甲斐駒ヶ岳花崗岩体の貫入熱影響により説明可能であるとともに,変成温度解析に基づく中部地方・西南日本外帯の広域的な議論においても貫入熱影響の考慮が必要であることを示唆する.

引用文献】 Aoya et al., 2010, J. Metamorph. Geol., 28, 895-914; Gualda & Ghiorso, 2015, Geochem., Geophys., Geosyst., 16, 315–324; Hyodo & Niitsuma., 1986, J. Geomag. Geoelectr., 38, 335–348; Kouketsu et al., 2014, Island Arc, 23, 33–50; 松島, 1997, 飯田市美術博物館研究紀要, 7, 145–162; 森ほか, 2021, 地学雑誌, 130, 85–98; 佐藤・柴田, 2017, 21, 19–28, 群馬県立自然史博物館研究報告; Watanabe et al., 2020, J. Mineral. Petrol. Sci., 115, 276–285.