4:30 PM - 7:00 PM
[R5-P-7] (entry) The origin of large chert blocks in the western part of the Matsumoto Basin, Nagano Prefecture: altered mineral and 10Be age
Keywords:Mass movement, Debris flow, Mino accretionary complex, 10Be age
長野県松本盆地西部の梓川沿いには, 長径数メートル以上の巨大岩塊が複数分布している. 特に, 松本盆地の中央, 松本市梓川倭には長径約7メートルのチャート岩塊が定置しており, これは火打岩として知られている(原山ほか, 2009). また, 松本市波田には三ツ岩と呼ばれる長径約8メートルのチャート岩塊が位置している. どちらも美濃帯付加コンプレックスのチャートとされる (原山ほか, 2009). これらの岩塊の起源について, 基盤岩の高まりであるのか, または運搬された転石であるのか議論が続いている. 梓川村誌編さん委員会(1993)では火打岩について, 推定される河川流量では運搬されないほどの岩体の規模であることから基盤岩の高まりであると結論付けた. しかし, 地震による斜面崩壊や, 現在推定される流量を上回る洪水などを考慮した場合, 運搬された転石である可能性についても否定はできない. また, 三ツ岩についても基盤岩の高まりであるとされている(松本市特別天然記念物指定内容より)が, 明確な根拠は挙げられていない. 以上より, 本研究ではこれら二つの岩塊について, 基盤岩の高まりと転石の可能性を踏まえ起源を推定するため, 二つの岩塊の薄片観察に加え, 岩塊との比較のため梓川上流で採取した転石試料の薄片観察, エネルギー分散型X線分析, さらに宇宙線生成核種である10Beを用いた露出年代の測定を用いて検討を行った.
チャート岩塊について薄片を作成し観察した結果, どちらもの岩塊も熱変成作用を受けていることがわかった. 火打岩では放散虫仮像の長径が大きく, 小型の放散虫仮像が消失していたが, 三ツ岩では大小さまざまな放散虫仮像が認められた. またEDS分析の結果, 火打岩の脈鉱物としてカリ長石が含まれていることがわかった. これらのことから火打岩は三ツ岩より高温の変質を受けたと考えられる.
チャート岩塊との比較のため, 梓川において礫サイズのチャートの転石を3地点で採取し, 薄片を作成した. 鏡下観察の結果, これらの転石には変成鉱物として黒雲母や方解石, チタン酸化物が認められた. よって, これらのチャートの転石はより強い熱変成作用を受けているといえる.
さらに, チャート岩塊が現在の地点に露出した年代を推定するため, 宇宙線生成核種による分析を行った. この測定は, 宇宙から降り注ぐ放射線が岩石や堆積物の表面と反応し作り出す宇宙線生成核種を測定するものである. 測定の結果, 火打岩では6.95±0.74(Ka), 三ツ岩では4.13±0.5(Ka)という年代が得られた.
周辺の地質を考慮すると, チャート岩体に熱変成作用を与えたのは梓川上流に位置する奈川花崗岩体であると考えられる. しかし三ツ岩は火打岩より花崗岩に近いにもかかわらず, 高温の変質鉱物が出現することは説明できない. このことから, 二つの岩塊は, どちらも異地性の岩塊, 一方が異地性の岩塊である可能性がある.
一方, 10Beが示す露出年代は4~7Kaと推定される. 青木(2000)は木曽山脈において最終氷期での地形形成を報告したが, これと比べても本研究での露出年代は有意に若いといえる. 基盤岩の高まりである場合, 最終氷期の下刻作用で露出しなかったこれらの岩塊が4~7Ka頃に, なんらかの浸食作用を受け露出したと考えられる. また異地性の岩塊である場合, 4~7Ka頃に長径数メートル以上の巨大岩塊を運搬するような大規模な斜面崩壊や重力流が生じたと考えられる.
引用文献
青木賢人, 2000, 10Be露出年代法を用いた氷成堆積物の形成年代の測定-木曽山脈北部, 千畳敷カール・濃ヶ池カールの事例-, 第四紀研究, 39(3) 189-198.
梓川村誌編さん委員会, 1993, 梓川村誌 自然・民族編, 第1章 地形・地質, 7-54.
原山 智・大塚 勉・酒井潤一・小坂共栄・駒澤正夫, 2009, 松本地域の地質 地域地質研究報告. 5万分の一地質図幅 金沢 (10) , 第46号NJ-53-6-3, 独立行政法人, 産業技術総合研究所, 地質調査総合センター.
チャート岩塊について薄片を作成し観察した結果, どちらもの岩塊も熱変成作用を受けていることがわかった. 火打岩では放散虫仮像の長径が大きく, 小型の放散虫仮像が消失していたが, 三ツ岩では大小さまざまな放散虫仮像が認められた. またEDS分析の結果, 火打岩の脈鉱物としてカリ長石が含まれていることがわかった. これらのことから火打岩は三ツ岩より高温の変質を受けたと考えられる.
チャート岩塊との比較のため, 梓川において礫サイズのチャートの転石を3地点で採取し, 薄片を作成した. 鏡下観察の結果, これらの転石には変成鉱物として黒雲母や方解石, チタン酸化物が認められた. よって, これらのチャートの転石はより強い熱変成作用を受けているといえる.
さらに, チャート岩塊が現在の地点に露出した年代を推定するため, 宇宙線生成核種による分析を行った. この測定は, 宇宙から降り注ぐ放射線が岩石や堆積物の表面と反応し作り出す宇宙線生成核種を測定するものである. 測定の結果, 火打岩では6.95±0.74(Ka), 三ツ岩では4.13±0.5(Ka)という年代が得られた.
周辺の地質を考慮すると, チャート岩体に熱変成作用を与えたのは梓川上流に位置する奈川花崗岩体であると考えられる. しかし三ツ岩は火打岩より花崗岩に近いにもかかわらず, 高温の変質鉱物が出現することは説明できない. このことから, 二つの岩塊は, どちらも異地性の岩塊, 一方が異地性の岩塊である可能性がある.
一方, 10Beが示す露出年代は4~7Kaと推定される. 青木(2000)は木曽山脈において最終氷期での地形形成を報告したが, これと比べても本研究での露出年代は有意に若いといえる. 基盤岩の高まりである場合, 最終氷期の下刻作用で露出しなかったこれらの岩塊が4~7Ka頃に, なんらかの浸食作用を受け露出したと考えられる. また異地性の岩塊である場合, 4~7Ka頃に長径数メートル以上の巨大岩塊を運搬するような大規模な斜面崩壊や重力流が生じたと考えられる.
引用文献
青木賢人, 2000, 10Be露出年代法を用いた氷成堆積物の形成年代の測定-木曽山脈北部, 千畳敷カール・濃ヶ池カールの事例-, 第四紀研究, 39(3) 189-198.
梓川村誌編さん委員会, 1993, 梓川村誌 自然・民族編, 第1章 地形・地質, 7-54.
原山 智・大塚 勉・酒井潤一・小坂共栄・駒澤正夫, 2009, 松本地域の地質 地域地質研究報告. 5万分の一地質図幅 金沢 (10) , 第46号NJ-53-6-3, 独立行政法人, 産業技術総合研究所, 地質調査総合センター.