4:30 PM - 7:00 PM
[R9-P-8] Bayesian estimation of uplift rate of Japan Islands based on bedrock river longitudinal profiles
Keywords:Quaternary, river geomorphology, inverse analysis
地殻の隆起速度の時間的・空間的な変化は,プレートテクトニクスに関連した様々な現象について基礎的な情報を提供する.山地の隆起速度履歴を復元することは,テクトニクスだけではなく,古気候変動の要因を探る上でも重要な課題である.
日本列島のような活動的縁辺域では,地殻変動速度履歴がとりわけ複雑であり,その復元は困難な研究課題である.これまで,日本列島の地殻の変形速度(隆起速度)を復元するため,様々な手法が適用されてきた.しかし,既存の研究手法には,隆起速度の分布を長期間にわたって面的に求めることができないという欠点がある.測地学的手法が解析できるのは観測が開始されて以降の数十年に限られており,そこから得られる値は他の地形学・地質学的手法で得られ得られる隆起速度の傾向と大きく異なることがある.これは,短期間で蓄積される地殻の歪は数百~数千年に一度の頻度で起こる巨大地震によって解放されており,地質学的時間スケールで蓄積されていく地殻の歪とは傾向が異なるためと解釈されている.もしこの解釈が正しければ,地質学的スケールで進行するテクトニックプロセスを探るためには,測地学的観測結果をそのまま参考にすることはできないことになる.一方,海岸段丘・前浜堆積物の標高など,地形学・堆積学的手法で求められる隆起速度についても,復元できる年代期間は主として12.5万年前までで,遡れたとしてもせいぜい30万年程度である.また,復元ができる領域も段丘が存在する地域に限られている.反射法地震探査や熱年代学的手法はより長期にわたる地殻隆起履歴を復元できる可能性があるが,やはり復元できる場は条件の整った限られた地域であり,長期間にわたる隆起速度履歴を長期間にわたって復元することは難しい.
そこで,近年になり,地質学的時間スケールで面的に地殻隆起速度履歴を復元することのできる手法がPritchard et al. (2009)によって提唱された.この手法は,まず岩盤河川の侵食作用を表すフォワードモデルを設定する.このフォワードモデルへの入力パラメーターは,地殻の隆起速度の履歴である.そして,実際に観測される複数の河川縦断形を最もよく再現するようにモデルパラメーターセットを探索することで,地殻の隆起速度履歴を広い範囲で面的に復元する.この手法は,一般にStream power modelと呼ばれる以下の仮定に基づいたフォワードモデルを使用している.Stream power modelでは,河床の基盤岩の侵食速度は河床勾配と河川の流量によって決定されるものと仮定する.
新たに提案された逆解析手法は主に安定大陸の隆起速度履歴の復元に用いられてきたが,活動的縁辺域への適用例はまれである.特に,日本列島のような火山性島弧では適用例は存在しない.これはいくつか原因が考えられるが,例えば島弧の河川は大陸に比べて短く,あまり長期間にわたって過去の隆起速度履歴を保存できないことが問題となる.また,地体構造が複雑なために基盤岩強度にばらつきがありうることや,短周期(4--10万年周期)の海水準変動が与える河床勾配への擾乱も,逆解析を難しくする要因である.これらの要因を考慮するためには,少なくとも,逆解析結果を推定の不確かさも含めて検討できる解析手法が必要となるだろう.
そこで,本研究は,河川縦断形逆解析法における最適化計算手法としてマルコフ連鎖モンテカルロ法(Markov Chain Monte Carlo method: MCMC)を採用し,日本列島の河川系に本手法を初めて適用した.既存の河川縦断形逆解析手法は最適化計算手法として準ニュートン法(共役勾配法やL-BFGS法など)を採用しているため,解析結果は点推定となり,推定値の不確定性に関する評価が十分ではなかった.また,計算が局所的最適解に陥る可能性も高く,最適化計算を開始するパラメーター初期値に計算結果が依存するという問題点が指摘されている.
本研究では,最適化計算手法としてMCMCを実装したモデルを西南日本外帯(紀伊半島および四国)の河川へ適用した.また,モデルが普遍性を持つことを確かめるため,テクトニックセッティングおよび基盤岩の岩質が異なる東北地方の河川にも手法を適用し,河川縦断形逆解析法の利点と今後の改善点を検討する.
Pritchard, D., Roberts, G. G., White, N. J., & Richardson, C. N. (2009). Uplift histories from river profiles. Geophysical Research Letters, 36(24).
日本列島のような活動的縁辺域では,地殻変動速度履歴がとりわけ複雑であり,その復元は困難な研究課題である.これまで,日本列島の地殻の変形速度(隆起速度)を復元するため,様々な手法が適用されてきた.しかし,既存の研究手法には,隆起速度の分布を長期間にわたって面的に求めることができないという欠点がある.測地学的手法が解析できるのは観測が開始されて以降の数十年に限られており,そこから得られる値は他の地形学・地質学的手法で得られ得られる隆起速度の傾向と大きく異なることがある.これは,短期間で蓄積される地殻の歪は数百~数千年に一度の頻度で起こる巨大地震によって解放されており,地質学的時間スケールで蓄積されていく地殻の歪とは傾向が異なるためと解釈されている.もしこの解釈が正しければ,地質学的スケールで進行するテクトニックプロセスを探るためには,測地学的観測結果をそのまま参考にすることはできないことになる.一方,海岸段丘・前浜堆積物の標高など,地形学・堆積学的手法で求められる隆起速度についても,復元できる年代期間は主として12.5万年前までで,遡れたとしてもせいぜい30万年程度である.また,復元ができる領域も段丘が存在する地域に限られている.反射法地震探査や熱年代学的手法はより長期にわたる地殻隆起履歴を復元できる可能性があるが,やはり復元できる場は条件の整った限られた地域であり,長期間にわたる隆起速度履歴を長期間にわたって復元することは難しい.
そこで,近年になり,地質学的時間スケールで面的に地殻隆起速度履歴を復元することのできる手法がPritchard et al. (2009)によって提唱された.この手法は,まず岩盤河川の侵食作用を表すフォワードモデルを設定する.このフォワードモデルへの入力パラメーターは,地殻の隆起速度の履歴である.そして,実際に観測される複数の河川縦断形を最もよく再現するようにモデルパラメーターセットを探索することで,地殻の隆起速度履歴を広い範囲で面的に復元する.この手法は,一般にStream power modelと呼ばれる以下の仮定に基づいたフォワードモデルを使用している.Stream power modelでは,河床の基盤岩の侵食速度は河床勾配と河川の流量によって決定されるものと仮定する.
新たに提案された逆解析手法は主に安定大陸の隆起速度履歴の復元に用いられてきたが,活動的縁辺域への適用例はまれである.特に,日本列島のような火山性島弧では適用例は存在しない.これはいくつか原因が考えられるが,例えば島弧の河川は大陸に比べて短く,あまり長期間にわたって過去の隆起速度履歴を保存できないことが問題となる.また,地体構造が複雑なために基盤岩強度にばらつきがありうることや,短周期(4--10万年周期)の海水準変動が与える河床勾配への擾乱も,逆解析を難しくする要因である.これらの要因を考慮するためには,少なくとも,逆解析結果を推定の不確かさも含めて検討できる解析手法が必要となるだろう.
そこで,本研究は,河川縦断形逆解析法における最適化計算手法としてマルコフ連鎖モンテカルロ法(Markov Chain Monte Carlo method: MCMC)を採用し,日本列島の河川系に本手法を初めて適用した.既存の河川縦断形逆解析手法は最適化計算手法として準ニュートン法(共役勾配法やL-BFGS法など)を採用しているため,解析結果は点推定となり,推定値の不確定性に関する評価が十分ではなかった.また,計算が局所的最適解に陥る可能性も高く,最適化計算を開始するパラメーター初期値に計算結果が依存するという問題点が指摘されている.
本研究では,最適化計算手法としてMCMCを実装したモデルを西南日本外帯(紀伊半島および四国)の河川へ適用した.また,モデルが普遍性を持つことを確かめるため,テクトニックセッティングおよび基盤岩の岩質が異なる東北地方の河川にも手法を適用し,河川縦断形逆解析法の利点と今後の改善点を検討する.
Pritchard, D., Roberts, G. G., White, N. J., & Richardson, C. N. (2009). Uplift histories from river profiles. Geophysical Research Letters, 36(24).