1:30 PM - 2:00 PM
[R14-O-3] [Invited]Cretaceous-Paleogene tectonics of the Akaishi mountains in Southern Nagano
Keywords:Median Tectonic Line, Ryoke metamorphic belt, Sanbagawa metamorphic belt, Cretaceous-Paleogene tectonics
世話人からのハイライト紹介:長野県南部の赤石山地(大鹿地域)の詳細な地質構造を検討した発表である.鹿塩マイロナイトの年代と変形温度条件,三波川帯~秩父帯~四万十帯の砕屑性ジルコンU-Pb年代から,60-50 Maに起きた大部分な変成岩上昇イベントで赤石山地の地質構造は完成したことを示した.伊豆弧衝突に伴うめくれ上がりというこれまでの通説に一石を投ずる成果である.参考:ハイライトについて
長野県南部に分布する赤石山地は,中央構造線を境界に領家花崗岩類と三波川帯―みかぶー秩父帯―四万十付帯が帯状に分布している.これらの基盤岩類は,中新世の伊豆―小笠原弧多重衝突に関連した回転変位によって現在の帯状分布が形成されたと考えられてきた(例えば狩野2002). 特に松島(1997)は大鹿地域の胴切り断層を境界に基盤岩が逆くの字型にめくれあがる大構造を提唱している.一方でこの構造が,四万十帯以外にも大きな影響を及ぼしたという年代的・変成岩岩石学的な証拠はない.そこで大鹿地域の詳細な地質構造を検討し,中央構造線及び伊豆弧衝突によって改変されたとされる赤石山地の広域テクトニクスを議論する.
[中央構造線と鹿塩マイロナイト] 大鹿地域には幅1km程度の中温型・低温型マイロナイトが中央構造線に沿って露出している.このマイロナイトのジルコンU-Pb年代測定を実施すると,最も明瞭な年代クラスターは70.9 ± 0.3 Maの火成岩起源の粒子からなり,他の放射年代と組み合わせた冷却カーブは~34℃/Maとなる.Opening angle thermometryと狭在する泥質マイロナイトのP-T条件の制約から中温型及び低温型マイロナイトの変形温度を,それぞれ350―400℃, 450―550℃と見積もった. またPseudosection modelingと地質温度計で見積もったマイロナイト形成時の温度圧力条件を考慮すると,領家変成作用を経験した岩石が,三波川変成帯緑泥石帯~ザクロ石帯相当相の温度圧力条件 (450-530℃/ 4-8 kbar)まで沈み込むことで形成したと明らかにした.以上の情報を集約すると,71 Ma頃の最末期火成活動が終了後,69―67 Maと66―64 Maに大規模な構造運動によって活動的島弧から沈み込み帯へ領家変成岩が沈み込む時に鹿塩マイロナイトが形成されたと示唆される.その後沈み込み境界面で深部から上昇してきた三波川帯と接合し,60―50 Maには脆性ー延性転移領域 (BDT)を超えて現在の基盤岩構造の骨格が形成された.
[大鹿地域の三波川帯~秩父帯~四万十帯] 大鹿地域には,低角度構造の弱変成秩父帯から四万十帯が広く分布すると報告されている(天竜川上流域地質図調査・編集委員会, 1984). しかし詳細な砕屑性ジルコンU-Pb年代測定を実施すると,小渋川流域及び塩川流域の弱変成秩父帯はすべて白亜紀前期の三波川帯 であることが明らかになった. 秩父帯が分布するのは,三峰川流域以北と仏像構造線付近の一部地域となり,大鹿地域ではみかぶ緑色岩の東側にも三波川帯がフェンスターとして露出する.一方でめくれ上がり構造の根拠となった小渋断層や他の胴切り断層は存在しておらず,すべて低角度な地質構造と南北系の実在断層で岩相分布を説明できる.
これらの調査結果を総括すると,大鹿地域では三波川帯―みかぶ緑色岩―四万十帯が低角度な地質構造で露出することで,より構造的上位の地質体 (戸台層・秩父帯)が欠損している.この低角度な構造は,めくれ上がり構造に期待される逆転をともなう垂直な地質構造では説明できず,基盤岩分布は伊豆弧衝突前の構造を保存していると示唆される.つまり60-50 Maに起きた大部分な変成岩上昇イベントで周囲の付加体構造の分布も完成したことを示唆している.中央構造線では60-50 Maに,引張応力場で多数の正断層が形成されたことが報告されている (例えばKanai and Takagi, 2016).この時期は,Izanagi-Pacific ridgeが沈み込むタイミングでもある.この時の海嶺が底付け付加することで楔を変形させ,楔の鋭角度が上限を超えると,楔上部で正断層が生じる (Platt 1986). このモデルは高圧変成岩の上昇モデルとして提唱されているが,中央構造線及び周囲の付加体の構造発達史を考える上でも重要な古第三紀テクトニクスといえる.今後同様の低角度構造が分布する紀伊半島や四国中央部との対比を行い,中央構造線の活動と関連した白亜紀ー古第三紀テクトニクスの比較が必要である.
[参考文献] 狩野 (2002), 地震研究所彙報, 77, 231-248. 松島信幸(1997), 飯田市美術博物館研究紀要,7,145-162. 天竜川上流域地質図調査・編集委員会 (1984), 中部建設協会, 414p. Kanai, T., & Takagi, H. (2016). Journal of Structural Geology, 85, 154–167. Platt, J. P. (1986). Geological Society of America Bulletin, 97, 1037–1053.
[中央構造線と鹿塩マイロナイト] 大鹿地域には幅1km程度の中温型・低温型マイロナイトが中央構造線に沿って露出している.このマイロナイトのジルコンU-Pb年代測定を実施すると,最も明瞭な年代クラスターは70.9 ± 0.3 Maの火成岩起源の粒子からなり,他の放射年代と組み合わせた冷却カーブは~34℃/Maとなる.Opening angle thermometryと狭在する泥質マイロナイトのP-T条件の制約から中温型及び低温型マイロナイトの変形温度を,それぞれ350―400℃, 450―550℃と見積もった. またPseudosection modelingと地質温度計で見積もったマイロナイト形成時の温度圧力条件を考慮すると,領家変成作用を経験した岩石が,三波川変成帯緑泥石帯~ザクロ石帯相当相の温度圧力条件 (450-530℃/ 4-8 kbar)まで沈み込むことで形成したと明らかにした.以上の情報を集約すると,71 Ma頃の最末期火成活動が終了後,69―67 Maと66―64 Maに大規模な構造運動によって活動的島弧から沈み込み帯へ領家変成岩が沈み込む時に鹿塩マイロナイトが形成されたと示唆される.その後沈み込み境界面で深部から上昇してきた三波川帯と接合し,60―50 Maには脆性ー延性転移領域 (BDT)を超えて現在の基盤岩構造の骨格が形成された.
[大鹿地域の三波川帯~秩父帯~四万十帯] 大鹿地域には,低角度構造の弱変成秩父帯から四万十帯が広く分布すると報告されている(天竜川上流域地質図調査・編集委員会, 1984). しかし詳細な砕屑性ジルコンU-Pb年代測定を実施すると,小渋川流域及び塩川流域の弱変成秩父帯はすべて白亜紀前期の三波川帯 であることが明らかになった. 秩父帯が分布するのは,三峰川流域以北と仏像構造線付近の一部地域となり,大鹿地域ではみかぶ緑色岩の東側にも三波川帯がフェンスターとして露出する.一方でめくれ上がり構造の根拠となった小渋断層や他の胴切り断層は存在しておらず,すべて低角度な地質構造と南北系の実在断層で岩相分布を説明できる.
これらの調査結果を総括すると,大鹿地域では三波川帯―みかぶ緑色岩―四万十帯が低角度な地質構造で露出することで,より構造的上位の地質体 (戸台層・秩父帯)が欠損している.この低角度な構造は,めくれ上がり構造に期待される逆転をともなう垂直な地質構造では説明できず,基盤岩分布は伊豆弧衝突前の構造を保存していると示唆される.つまり60-50 Maに起きた大部分な変成岩上昇イベントで周囲の付加体構造の分布も完成したことを示唆している.中央構造線では60-50 Maに,引張応力場で多数の正断層が形成されたことが報告されている (例えばKanai and Takagi, 2016).この時期は,Izanagi-Pacific ridgeが沈み込むタイミングでもある.この時の海嶺が底付け付加することで楔を変形させ,楔の鋭角度が上限を超えると,楔上部で正断層が生じる (Platt 1986). このモデルは高圧変成岩の上昇モデルとして提唱されているが,中央構造線及び周囲の付加体の構造発達史を考える上でも重要な古第三紀テクトニクスといえる.今後同様の低角度構造が分布する紀伊半島や四国中央部との対比を行い,中央構造線の活動と関連した白亜紀ー古第三紀テクトニクスの比較が必要である.
[参考文献] 狩野 (2002), 地震研究所彙報, 77, 231-248. 松島信幸(1997), 飯田市美術博物館研究紀要,7,145-162. 天竜川上流域地質図調査・編集委員会 (1984), 中部建設協会, 414p. Kanai, T., & Takagi, H. (2016). Journal of Structural Geology, 85, 154–167. Platt, J. P. (1986). Geological Society of America Bulletin, 97, 1037–1053.