8:30 AM - 8:45 AM
[R22-O-3] Marine osmium isotope record during the Carnian “pluvial episode” in the pelagic Panthalassa Ocean
Keywords:Osmium isotopes, Chert, Carnian Pluvial Episode, Wrangellia Flood Basalt, Mino Belt
三畳紀は全体を通じて高温で乾燥気候であったことが知られているが,約2億3200万年前の後期三畳紀カーニアン階では,降水量が突如激増し,200万年にわたって汎世界的な湿潤化が起こったことが知られている.このカーニアン多雨事象(CPE;Carnian Pluvial Episode)は前期カーニアン(ジュリアン)の最後期から後期カーニアン(チュバリアン)の初頭にかけて発生し,堆積層の明確な変化や海生・陸上生物の絶滅と進化的進化が起こっていたことが知られている(Simms and Ruffell, 1989). CPE時には複数回の特徴的な有機炭素同位体比の負異常が報告されており,これらを引き起こした要因として,北米西部に分布するランゲリア洪水玄武岩の噴出が提案されてきた.しかしランゲリア洪水玄武岩の年代測定の不確実性の幅は100万年以上に上ることから,ランゲリアの火山活動と気候変動が同時期に起こったと示すことが難しいと指摘されてきた.そこで本研究では,CPEの原因として提案されている火山活動と気候変動の関連性について明らかにすることを目的として,岐阜県東部坂祝町に分布する美濃帯上部三畳系層状チャート(セクションN-O)を対象に,詳細な微化石層序と有機炭素同位体層序による高精度な年代決定を行い,XRFによる主要元素濃度分析,ICP-QMSによる微量元素濃度分析,MC-ICP-MSによるオスミウム同位体比の分析を行った.
研究の結果,高分解能の微化石層序およびオスミウム同位体比分析により,以下のような特徴的なオスミウム同位比(187Os/188Osi)の変動が認められた.まず(1)前期ジュリアンにおいて緩やかに同位体比が減少し(1.02から0.356),(2)後期ジュリアンを通じて低い同位体比(0.231から0.474)を示す期間が継続し,(3)ジュリアンの最後期では急激な同位体比の増加(0.282から0.627)が認められた.さらに微量元素濃度分析の結果,ジュリアン末のオスミウム同位体火が最も低下する層準(NCL1)付近において,酸化還元環境に鋭敏な元素であるバナジウムとウランの異常濃集が認められた.
後期ジュリアンにわたって低い同位体比を示す期間が続いたことは,大規模な火山活動に由来する低い同位体比を持つオスミウムが海洋に供給されたことを反映していると考えられる.ジュリアンでは,パンサラサ海におけるランゲリア洪水玄武岩の大規模な噴出や,西南日本のジュラ紀付加体である三宝山帯,ロシアのタウハ帯を構成する海洋島玄武岩の噴出が知られている.これら同一年代にパンサラサ海で噴出した玄武岩は,ランゲリア火成岩岩石区(LIP)を形成していた可能性があり,ジュリアンのパンサラサ海におけるオスミウム同位体比の長期間の低下をもたらしたと考えられる.またコノドント生層序と有機炭素同位体層序を用いた年代決定により,後期ジュリアンの期間においてCPEに特徴的な有機炭素同位体比の負異常が複数認められたことから,ランゲリアLIPの火山活動が活発な時期とCPEの期間が一致することが明らかとなった.さらに微量元素濃度分析の結果,ジュリアン末において酸化還元環境に鋭敏な元素であるバナジウムとウランの異常濃集が認められており,ジュリアン最後期の火山活動が最も活発な時期に,パンサラサ海海洋底にて貧酸素〜無酸素化が発達した可能性が示された.ジュリアン末ではコノドントやアンモナイトなどの海生生物の絶滅が知られており,パンサラサ海における還元的海洋環境への変化の原因や絶滅との関連性について,詳細な検討を進める必要がある.
引用文献
Simms, M.J., Ruffell, A.H., 1989, Synchroneity of climatic change and extinctions in the Late Triassic. Geology 17, 265–268.
研究の結果,高分解能の微化石層序およびオスミウム同位体比分析により,以下のような特徴的なオスミウム同位比(187Os/188Osi)の変動が認められた.まず(1)前期ジュリアンにおいて緩やかに同位体比が減少し(1.02から0.356),(2)後期ジュリアンを通じて低い同位体比(0.231から0.474)を示す期間が継続し,(3)ジュリアンの最後期では急激な同位体比の増加(0.282から0.627)が認められた.さらに微量元素濃度分析の結果,ジュリアン末のオスミウム同位体火が最も低下する層準(NCL1)付近において,酸化還元環境に鋭敏な元素であるバナジウムとウランの異常濃集が認められた.
後期ジュリアンにわたって低い同位体比を示す期間が続いたことは,大規模な火山活動に由来する低い同位体比を持つオスミウムが海洋に供給されたことを反映していると考えられる.ジュリアンでは,パンサラサ海におけるランゲリア洪水玄武岩の大規模な噴出や,西南日本のジュラ紀付加体である三宝山帯,ロシアのタウハ帯を構成する海洋島玄武岩の噴出が知られている.これら同一年代にパンサラサ海で噴出した玄武岩は,ランゲリア火成岩岩石区(LIP)を形成していた可能性があり,ジュリアンのパンサラサ海におけるオスミウム同位体比の長期間の低下をもたらしたと考えられる.またコノドント生層序と有機炭素同位体層序を用いた年代決定により,後期ジュリアンの期間においてCPEに特徴的な有機炭素同位体比の負異常が複数認められたことから,ランゲリアLIPの火山活動が活発な時期とCPEの期間が一致することが明らかとなった.さらに微量元素濃度分析の結果,ジュリアン末において酸化還元環境に鋭敏な元素であるバナジウムとウランの異常濃集が認められており,ジュリアン最後期の火山活動が最も活発な時期に,パンサラサ海海洋底にて貧酸素〜無酸素化が発達した可能性が示された.ジュリアン末ではコノドントやアンモナイトなどの海生生物の絶滅が知られており,パンサラサ海における還元的海洋環境への変化の原因や絶滅との関連性について,詳細な検討を進める必要がある.
引用文献
Simms, M.J., Ruffell, A.H., 1989, Synchroneity of climatic change and extinctions in the Late Triassic. Geology 17, 265–268.