128th JGS: 2021

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Oral

R22 [Regular Session]History of the Earth

[3ch201-10] R22 [Regular Session]History of the Earth

Mon. Sep 6, 2021 8:00 AM - 11:30 AM ch2 (ch2)

Chiar:Kento 1 Motomura, Yuki Tomimatsu, Anju Sakuma

8:45 AM - 9:00 AM

[R22-O-4] Enhanced continental weathering in the NW Tethys during the end-Triassic mass extinction

*Tetsuji Onoue1, Jozef Michalík2, Hideko Shirozu3, Katsuyuki Yamashita4, Misa Yamashita4, Kohei Kawakami4, Soichiro Kusaka5, Katsuhito Soda6 (1. Kyushu Univ., 2. Slovak Acad. Sci., 3. Fukuoka City Museum, 4. Okayama Univ., 5. Tokai Univ., 6. Kochi Univ.)

Keywords:Triassic, Mass extinction, Slovakia, Tethys Ocean

今からおよそ2億140万年前に起こった三畳紀末大量絶滅は,中央大西洋火成岩岩石区(CAMP)における大規模な火山活動が引き金になって発生したと考えられている(Marzoli et al., 1999; Davies et al., 2017).三畳紀末大量絶滅は,低〜中緯度の浅海・底生生物において特に高い絶滅率を持つことが知られており(Kiessling et al., 2007),その原因のひとつとして海洋無酸素事変や有害元素の海洋流出などが提案されている.テチス海北西部の浅海性堆積物に含まれる花粉化石や煤の研究からは,絶滅期間に大規模な森林火災と土壌流出が起こった可能性が指摘されており,土壌流出と海洋無酸素事変との関連性が議論されている(van de Schootbrugge et al., 2020).しかし土壌流出を示す花粉化石の記録は,現時点ではデンマークとドイツの堆積盆堆積物に限られており,この時期の環境変動や大量絶滅との関係については不明な点が多い.そこで本研究では,後期三畳紀レーティアンから前期ジュラ紀ヘッタンギアンまでの連続した層序が観察されるスロバキアKardolínaセクション(Michalík et al., 2007)の炭酸塩岩-砕屑岩層について,ストロンチウム・ネオジム・炭素同位体比分析および主要・微量元素分析を行い,テチス海北西部における当時の環境変動を明らかにすることを目的として研究を行った. Kardolínaセクションは,スロバキア北部,Tatra山地の西側斜面に位置し,主にレーティアンFatra層の炭酸塩岩-砕屑岩層と,ヘッタンギアンKopieniec層の砕屑岩層から構成される.セクションの全層厚は約100mである.Fatra層の有孔虫化石群集から,当時の堆積環境は浅海域と考えられている.本研究の薄片観察の結果からも,Fatra層は浅海性生物遺骸やウーイドを含むwackestoneからgrainstoneにより構成され,浅海性の堆積物であることが明らかになっている. 炭酸塩岩の炭素同位体比分析の結果,Fatra層最上部で2度の炭素同位体比の負の変動(NCIE)が確認された.先行研究による花粉化石の検討から,これらの負の変動は,レーティアン最末期のRicciisporitesPolydiisporites花粉化石帯で起こったことが明らかになっている.そのため,これら2度のNCIEは,テチス海北西部で報告されている"precursor"および"initial" NCIEイベントに比較されると考えられる.淡水続成作用やドロマイト化作用の影響を受けていない炭酸塩岩についてストロンチウム(Sr)同位体比分析を行ったところ,precursorイベントより上位層準において,Sr同位体比の急激な上昇が認められた.Fatra層のネオジム同位体比分析の結果からは,テチス海北西部のボヘミア地塊がFatra層の陸源砕屑物の供給源である可能性が示唆された.そのため,precursorイベントより上位にみられるSr同位体比の上昇は,ボヘミア地塊の大陸風化が,レーティアン最末期に急激に増加したことを示していると考えられる.本研究では,炭酸塩岩の主要元素濃度に対する多変量解析からも,大陸の化学風化がprecursorイベント以降に促進された結果が得られており,上記のSr同位体比分析の結果を支持している.また本研究からは,このprecursorイベント以降の大陸風化の増加にともなって,特徴的に鉄質ウーイドが形成される堆積環境に移行したことが明らかになった.炭酸塩岩中に含まれる酸化還元に鋭敏なバナジウムやクロム濃度は,鉄質ウーイドが還元的海洋環境下において形成されたことを示唆している.以上の結果から,テチス北西部においては,レーティアン最末期の大陸風化の増加に伴い浅海域が貧酸素〜無酸素環境に変化した可能性があり,このような海洋環境の変化が三畳紀末大量絶滅の要因のひとつとなったと考えられる.

引用文献 Davies et al., 2017, Nat Commun, 8, 15596; Kiessling et al,. 2007, Palaeogr Palaeoclimat Palaeoecol, 244, 71-88; Marzoli et al., 1999, Science, 284, 616-618; Michalík et al,. 2007, Palaeogr Palaeoclimat Palaeoecol, 244, 71-88; van de Schootbrugge et al., 2000, Earth-Sci Rev, 210, 103332.