8:45 AM - 9:00 AM
[R1-O-4] Temporal changes of source mantle compositions for Late Cenozoic volcanic rocks in Oki islands, SW Japan
Keywords:Oki islands, Alkaline series rocks, Japan Sea, Mantle, Lower crust
はじめに
隠岐諸島には,漸新世~更新世の火山岩類と堆積岩類が分布する。隠岐諸島の後期新生代の火山活動は,中期中新世以前は非アルカリ岩の活動が中心で,後期中新世以降はアルカリ岩の活動が中心となる[1]。
本研究では,隠岐諸島に分布する後期漸新世以降の火山岩類について岩石学的検討を行い,日本海拡大の直前に活動していた火山岩の起源マントル,日本海拡大を引き起こしたアセノスフェアマントル,および日本海拡大後のアルカリ岩類の起源マントルの地球化学的組成の時間変化について考察した。
全岩化学組成
時張山[ときばりやま]層(26.0~18.1 Ma)は安山岩質の火砕岩と溶岩,郡[こおり]層(19.2~13.7 Ma)は玄武岩質の溶岩と火砕岩からなる。これらの火山岩はいずれも島後に分布し,非アルカリ岩とアルカリ岩の境界付近の組成を有する。不適合元素パターンは,E-MORBに類似したやや肥沃的な組成で,Nb-Taに負異常を持ち,高いLILE/HFSEを示す沈み込み帯火山岩の特徴を示す。Sr-Nd-Pb-Hf同位体組成は,第四紀の東北日本弧火山フロントの最も南部の火山グループ[2]の組成と一致する。
重栖[おもす]層と葛尾[つづらお]層(5.7~5.0 Ma)は島後に広く分布し,主に粗面岩~アルカリ流紋岩の溶岩からなり,島後の西部ではショショナイト(5.5~5.1 Ma)がシート状に郡層中に貫入している。また,島前火山の外輪山上部溶岩(5.8~5.6 Ma)は,島前に広く分布し,主に粗面安山岩~粗面岩の溶岩からなる。これらの酸性岩類はいずれも,OIBに類似した肥沃な不適合元素組成を示し,ショショナイトを除き,Ba,Sr,Euに顕著な負異常がみられる。ショショナイトは,Nb-Ta,Zr-HfおよびSrに弱い負異常が認められる。これらのアルカリ酸性岩類の同位体組成は,下部地殻起源と考えられる隠岐島後の苦鉄質捕獲岩[3]の組成に近い。
同時期の島前には,アルカリ玄武岩質の外輪山下部溶岩(6.3~5.8 Ma)が分布する。また,島前の宇受賀[うずか]玄武岩(2.9 Ma)は,スピネルレルゾライトを捕獲する島後のアルカリ玄武岩(4.7~0.42 Ma)と同時期のアルカリ玄武岩の活動である。これらのアルカリ玄武岩はいずれも,OIBに類似した極めて肥沃的な組成で滑らかな不適合元素パターンを示し,大和海盆の玄武岩とEM-Iの中間的な同位体組成を示す。なお,スピネルレルゾライトの捕獲岩は,日本海の海底玄武岩の同位体組成[4など]と類似する。
(年代値は浦郷図幅[5],西郷図幅[1]より引用)
考察
アルカリ玄武岩は,一部に未分化玄武岩を含み,数%以下のかんらん石の逆分別により,初生メルト組成を求めることができる。初生メルトの温度とマグマ分離深度は1290-1380℃,1.8-2.6 GPaと見積もられ,スピネルレルゾライトの高圧側のリキダス温度に近い。
隠岐島後のレルゾライト捕獲岩の同位体組成は,時張山層・郡層火山岩の組成とは明らかに異なる。つまりこれらのかんらん岩は,阿部ら[6]の主張する日本海拡大期に噴出した玄武岩の残存固相である可能性がある。このレルゾライトはスピネル相の安定領域を示すことから,日本海拡大を引き起こしたアセノスフェアマントルは,アルカリ玄武岩の起源マントル(EM-I)の直上に分布していると推定される。
隠岐諸島の火山活動は,7-5 Ma頃にアルカリ岩系列の玄武岩と酸性岩のバイモーダルな火山活動が生じている。この時期のアルカリ酸性岩類は,玄武岩質マグマによる下部地殻の部分融解,あるいは混染作用により生成されたと考えられており[7など],本研究による微量元素・同位体組成の特徴もこの見解を支持する。
以上を総合的に解釈すると,隠岐諸島の周辺では少なくとも18 Ma頃までは古い大陸下リソスフェアマントルに由来する沈み込み帯マグマが生成され,15 Ma頃までに日本海拡大を引き起こしたアセノスフェアマントルが流入し,7 Ma頃には,さらにその下位から肥沃的なマントル(EM-I)が流入してきたと考えられる。
※本研究は,2019年度,2020年度隠岐ジオパーク研究助成を受けた。
引用文献
[1]鈴木ほか, 2009, 5万分の1西郷図幅,[2]Kimura and Yoshida, 2006, J.Petrol.,[3]Moriyama, 2006, 岡山大博論,[4]Hirahara et al., 2015, G3,[5]千葉ほか, 2000, 5万分の1浦郷図幅,[6]Abe et al., 2003, Island Arc,[7]小林ほか, 2002, 岩鉱
隠岐諸島には,漸新世~更新世の火山岩類と堆積岩類が分布する。隠岐諸島の後期新生代の火山活動は,中期中新世以前は非アルカリ岩の活動が中心で,後期中新世以降はアルカリ岩の活動が中心となる[1]。
本研究では,隠岐諸島に分布する後期漸新世以降の火山岩類について岩石学的検討を行い,日本海拡大の直前に活動していた火山岩の起源マントル,日本海拡大を引き起こしたアセノスフェアマントル,および日本海拡大後のアルカリ岩類の起源マントルの地球化学的組成の時間変化について考察した。
全岩化学組成
時張山[ときばりやま]層(26.0~18.1 Ma)は安山岩質の火砕岩と溶岩,郡[こおり]層(19.2~13.7 Ma)は玄武岩質の溶岩と火砕岩からなる。これらの火山岩はいずれも島後に分布し,非アルカリ岩とアルカリ岩の境界付近の組成を有する。不適合元素パターンは,E-MORBに類似したやや肥沃的な組成で,Nb-Taに負異常を持ち,高いLILE/HFSEを示す沈み込み帯火山岩の特徴を示す。Sr-Nd-Pb-Hf同位体組成は,第四紀の東北日本弧火山フロントの最も南部の火山グループ[2]の組成と一致する。
重栖[おもす]層と葛尾[つづらお]層(5.7~5.0 Ma)は島後に広く分布し,主に粗面岩~アルカリ流紋岩の溶岩からなり,島後の西部ではショショナイト(5.5~5.1 Ma)がシート状に郡層中に貫入している。また,島前火山の外輪山上部溶岩(5.8~5.6 Ma)は,島前に広く分布し,主に粗面安山岩~粗面岩の溶岩からなる。これらの酸性岩類はいずれも,OIBに類似した肥沃な不適合元素組成を示し,ショショナイトを除き,Ba,Sr,Euに顕著な負異常がみられる。ショショナイトは,Nb-Ta,Zr-HfおよびSrに弱い負異常が認められる。これらのアルカリ酸性岩類の同位体組成は,下部地殻起源と考えられる隠岐島後の苦鉄質捕獲岩[3]の組成に近い。
同時期の島前には,アルカリ玄武岩質の外輪山下部溶岩(6.3~5.8 Ma)が分布する。また,島前の宇受賀[うずか]玄武岩(2.9 Ma)は,スピネルレルゾライトを捕獲する島後のアルカリ玄武岩(4.7~0.42 Ma)と同時期のアルカリ玄武岩の活動である。これらのアルカリ玄武岩はいずれも,OIBに類似した極めて肥沃的な組成で滑らかな不適合元素パターンを示し,大和海盆の玄武岩とEM-Iの中間的な同位体組成を示す。なお,スピネルレルゾライトの捕獲岩は,日本海の海底玄武岩の同位体組成[4など]と類似する。
(年代値は浦郷図幅[5],西郷図幅[1]より引用)
考察
アルカリ玄武岩は,一部に未分化玄武岩を含み,数%以下のかんらん石の逆分別により,初生メルト組成を求めることができる。初生メルトの温度とマグマ分離深度は1290-1380℃,1.8-2.6 GPaと見積もられ,スピネルレルゾライトの高圧側のリキダス温度に近い。
隠岐島後のレルゾライト捕獲岩の同位体組成は,時張山層・郡層火山岩の組成とは明らかに異なる。つまりこれらのかんらん岩は,阿部ら[6]の主張する日本海拡大期に噴出した玄武岩の残存固相である可能性がある。このレルゾライトはスピネル相の安定領域を示すことから,日本海拡大を引き起こしたアセノスフェアマントルは,アルカリ玄武岩の起源マントル(EM-I)の直上に分布していると推定される。
隠岐諸島の火山活動は,7-5 Ma頃にアルカリ岩系列の玄武岩と酸性岩のバイモーダルな火山活動が生じている。この時期のアルカリ酸性岩類は,玄武岩質マグマによる下部地殻の部分融解,あるいは混染作用により生成されたと考えられており[7など],本研究による微量元素・同位体組成の特徴もこの見解を支持する。
以上を総合的に解釈すると,隠岐諸島の周辺では少なくとも18 Ma頃までは古い大陸下リソスフェアマントルに由来する沈み込み帯マグマが生成され,15 Ma頃までに日本海拡大を引き起こしたアセノスフェアマントルが流入し,7 Ma頃には,さらにその下位から肥沃的なマントル(EM-I)が流入してきたと考えられる。
※本研究は,2019年度,2020年度隠岐ジオパーク研究助成を受けた。
引用文献
[1]鈴木ほか, 2009, 5万分の1西郷図幅,[2]Kimura and Yoshida, 2006, J.Petrol.,[3]Moriyama, 2006, 岡山大博論,[4]Hirahara et al., 2015, G3,[5]千葉ほか, 2000, 5万分の1浦郷図幅,[6]Abe et al., 2003, Island Arc,[7]小林ほか, 2002, 岩鉱