128th JGS: 2021

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Oral

R8 [Regular Session]Marine geology

[3ch313-21] R8 [Regular Session]Marine geology

Mon. Sep 6, 2021 1:00 PM - 3:30 PM ch3 (ch3)

Chiar:Yoshiaki Suzuki, Yasuhiko Ohara

1:30 PM - 1:45 PM

[R8-O-3] Total organic carbon concentration and isotope composition changes over the last 66 ka in the southern part of the Japan Sea

*Naoto Ishida1, Koji Seto2, Fumio Akiba3, Ryo Matsumoto4 (1. Center for Advanced Marine Core Research, Kochi University, 2. Estuary Research Center, Shimane University, 3. Diatom Mini Lab., 4. Gas Hydrate Research Laboratory, Meiji University)

Keywords:Japan Sea, Late Quaternary, Total organic carbon concentration, Carbon isotope composition

日本海はユーラシア大陸と日本列島に挟まれ,4つの海峡によって外洋とつながる半閉鎖的な縁海である.現在,外洋水は対馬暖流として対馬海峡から日本海に流入し,津軽海峡および宗谷海峡から流出しているが,氷期の低海水準期には海水交換がほぼ停止し,鉛直混合も滞るなど,日本海は第四紀の気候変動に鋭敏に応答することが知られる.本研究では,日本海南部で採取されたコアに記録された全有機炭素(TOC)の濃度および同位体比を中心に,66 ka以降の変動を報告する.
本研究では,明治大学ガスハイドレート研究所が実施した航海によって対馬海盆(PC1601),隠岐トラフ南西部(PC1818),および隠岐トラフ中部(PC1606)で採取された3本のコアを使用した.各コア最下部の年代はPC1601が32 ka,PC1818が45 ka,そしてPC1606が66 kaである.試料はコアから1 cm間隔で分取し,塩酸処理によって炭酸塩成分を取り除いた後,島根大学エスチュアリー研究センターのCNS元素分析装置により全有機炭素(TOC),全窒素(TN),および全硫黄(TS)の3成分の濃度を測定した.また,PC1606については高知大学海洋コア総合研究センターの質量分析計を用い,有機炭素・窒素の同位体比を測定した.
いずれのコアもTNとTOCには良い相関が見られ,C/Nの値は6~10の範囲にほぼ収まっている.これはどのコアの有機炭素も主に海洋プランクトン起源であることを示す.最終氷期の海水準低下期にあたる25~66 kaには,1.0~3.2 %の範囲でTOC濃度が増減する20 kyr程度の周期的な変動が2回繰り返され,さらにTOC濃度にして1 %程度の短期的な増減が重なる.ATテフラ層準(30 ka)の直上では,どのコアにおいてもTOC濃度が0.5 %程度まで急激に落ち込み,その後1~3 kyr程度を要して1 %台まで徐々に回復する.TOC濃度の急減はU-Oki(10.2 ka)や61 ka付近のテフラにも見られ,南九州や日本海内部で発生した巨大噴火が基礎生産に大きな影響を与えたことが明瞭である.最終氷期最盛期(LGM)にあたる20 ka前後では,TOC濃度は1~1.5 %程度の低い値を取る.この時期は日本海の鉛直循環が停滞して深層水が貧酸素化しており,沈降した有機物が堆積物中に保存されやすい条件にあったが,TOC濃度が低下していることは,日本海南部の基礎生産そのものが低下していたと考えられる.16 kaを境にTOC濃度は上昇に転じ,11 ka前後に検討した範囲で最も高い3.5~4 %のピークに達する.全球的な温暖化に伴って日本海の循環が再開し,深層の栄養塩が表層にもたらされたことで,一時的に基礎生産が増大した可能性がある.その後TOC濃度は減少し,K-Ahテフラ(7.25 ka)から現在まで,各コア2.5 %前後の安定した値となっている.
PC1606のTOC同位体比は,コアの最下部,66 ka付近の層準で-22.7 ‰であり,MIS4の寒冷化ピークにあたる64 ka付近では-23.8 ‰まで負にシフトする.その上位の60〜32 kaの層準は-22〜23 ‰の範囲にある.32〜11.6 kaの層準には2 ‰以上の大きな負のシフトが見られ,LGM付近の21~19 kaに-24.6 ‰の最低値を取る.19 ka以降は11.6 kaまでに-22 ‰程度まで急激に回復する.11.6 ka以降は現在に向けて-22 ‰から-21 ‰まで緩やかに上昇する.
窒素同位体比は,炭素同位体比とほぼ同調した増減傾向が見られる.コアの最下部,66 ka付近で6.0 ‰であり,64 ka付近で5.8 ‰まで低下する.その上位60〜32 kaの層準は6.0〜6.8 ‰の範囲にある.32 ka〜11.6 kaの間には3 ‰以上の大きな負のシフトが見られ,LGM付近の19 kaに3.2 ‰の最も低い値となる.19 ka以降は11.6 kaまでに6.7 ‰まで急激に回復する.11.6 ka以降は6.7 ‰から5.7 ‰まで現在に向けて緩やかに減少しており,この点のみ炭素同位体比と異なる傾向を示す.
本研究の有機炭素・窒素同位体比測定の目的のひとつは,日本海内部におけるメタンハイドレート分解現象の検出である.メタンハイドレートに内包されるメタン分子は特徴的に軽い同位体比の炭素から構成され,過去のメタンハイドレート分解現象は炭素同位体比の負のシフトとして検出されてきた.本研究による結果は,全体として有機炭素・窒素同位体比が同調した変動を示しており,これらの主だった変動は生物活動に伴うものと考えられる.MIS4のピーク付近やLGM前後などの寒冷期には,炭素同位体比のみに記録された短期間かつ小規模な負のシフトが認められ,これらは海水準低下に応答したメタンハイドレート分解に伴う変動の可能性があるため,今後の検討を要する.