17:00 〜 17:15
[S2-O-14] 第四紀更新世における地質年代境界決定の現状
キーワード:第四紀、更新世、GSSP、チバニアン、ジェラシアン
GSSPは,陸上地質においてグローバルな地層の対比を行うための基準となることから,示準化石(多くは海洋プランクトン化石)を豊富に含む必要がある.すなわち,陸上で見られる海成層であることが条件だ.そこではグローバルな変動を捉えている必要があるので,地磁気の極性や海洋酸素同位体比もしくはそれに類似するグルーバルな変動記録を保持することが必須となる.チバニアンGSSPの批准で話題となった下部-中部更新統境界では, 最後の地磁気逆転である松山-ブルン境界(MBB)が基底層位の目安とされた.そして実際のGSSPは千葉セクションにおいてほぼ唯一の視認可能な層である白尾火山灰層(Byk-E)の下面に設置された(Suganuma et al., 2021).Byk-E層は質の高い古地磁気記録で示されるMBB層位より約1.1m下位に挟在しており,基底層位の目安であるMBBとの関係性も明確である.海洋微化石記録および詳細な酸素同位体変動記録も得られており,グローバル対比の基準としての責を十分に果たしうる.さらにByk-E層の堆積年代は,放射年代測定および酸素同位体変動記録を用いた天文年代較正という2つの独立した手法から求められており,信頼性の高い境界年代も提供した.
一方,第四系(更新統)の基底層位は,その目安がガウス-松山地磁気逆転境界 (GMB)とされており,シチリア島モンテ・サン・ニコラセクションのジェラシアンGSSPによって定義されている (Rio et al., 1998).実際のGSSPは,ニコラ層と呼ばれる腐泥層と直上を覆うマール層との境界面に設置された.地中海周辺域では,北半球高緯度夏の日射量が最大となるタイミングでモンスーン強度が上昇し,降水量が増えることで地中海の密度成層が強化され海底に腐泥層が堆積したとされている.このため,露頭面で観察される腐泥層を数えるだけで歳差運動周期のカウントが可能になる上,ある程度の同時性も保証される.このため腐泥層は地中海周辺域において噴火周期が決まっている広域テフラ層の役割を担ってきた.ところが,モンテ・サン・ニコラセクションでは古地磁気記録の報告が少なく,ニコラ層とGMBとの関係性も層厚にして数mの範囲の誤差を含むなど明瞭ではない.さらに浮遊性有孔虫の産出はあるものの,酸素同位体記録が未だに得られていない.現状では他地域で得られた酸素同位体記録と腐泥層との関係を用いて,ニコラ層はMIS(海洋同位体ステージ)104に,直上のマール層はMIS103に対比されている状態であり,第四紀開始年代も含めジェラシアンGSSPによる定義は,極めて間接的な情報をもとになされたといえる.この他,更新統にはかつて更新統の基底を定義したカラブリアンGSSPがある.GSSPは南イタリア・ヴリカセクションの腐泥層である “e”層上面に設置され,現地で得られた酸素同位体記録よりMIS63/64境界に対比されている (Cita et al., 2012).しかしGSSP層位の8m上位で見られるオルドバイ正磁極亜帯上限境界の古地磁気記録は,続成作用の影響を大きく受け境界位置の特定が困難とされる (Roberts et al., 2010).
上記で述べたように地中海周辺域における腐泥層序は地域内対比を行う上で大変有用である一方,古地磁気記録や酸素同位体記録などといったグローバル層序対比に必須な情報が欠如しがちである問題を抱えている.さらに腐泥層堆積のタイミングを日射量ピークと合致させるという年代較正手法についても,その仮定が少しでも崩れると,同様の手法で年代決定された新第三系における多くのGSSPの年代値が影響を受けることになる.こうした問題を回避し地質年代の信頼性を向上させる上で,微化石・古地磁気・酸素同位体など各種のグローバル層序対比に必要な記録を保持した地層の解析が極めて有用といえる.チバニアンGSSPを擁する上総層群を始め,房総半島にはこれらの記録を保持した鮮新統〜更新統の地層群が広く分布しており,地質年代研究への貢献が期待される.
参考文献:
Cita et al. 2012, Episodes 35, 388-397
Roberts et al. 2010, EPSL 292, 98-111
Suganuma et al. 2021, Episodes 44, 317-347
Rio et al. 1998, Episodes 21, 82-87
一方,第四系(更新統)の基底層位は,その目安がガウス-松山地磁気逆転境界 (GMB)とされており,シチリア島モンテ・サン・ニコラセクションのジェラシアンGSSPによって定義されている (Rio et al., 1998).実際のGSSPは,ニコラ層と呼ばれる腐泥層と直上を覆うマール層との境界面に設置された.地中海周辺域では,北半球高緯度夏の日射量が最大となるタイミングでモンスーン強度が上昇し,降水量が増えることで地中海の密度成層が強化され海底に腐泥層が堆積したとされている.このため,露頭面で観察される腐泥層を数えるだけで歳差運動周期のカウントが可能になる上,ある程度の同時性も保証される.このため腐泥層は地中海周辺域において噴火周期が決まっている広域テフラ層の役割を担ってきた.ところが,モンテ・サン・ニコラセクションでは古地磁気記録の報告が少なく,ニコラ層とGMBとの関係性も層厚にして数mの範囲の誤差を含むなど明瞭ではない.さらに浮遊性有孔虫の産出はあるものの,酸素同位体記録が未だに得られていない.現状では他地域で得られた酸素同位体記録と腐泥層との関係を用いて,ニコラ層はMIS(海洋同位体ステージ)104に,直上のマール層はMIS103に対比されている状態であり,第四紀開始年代も含めジェラシアンGSSPによる定義は,極めて間接的な情報をもとになされたといえる.この他,更新統にはかつて更新統の基底を定義したカラブリアンGSSPがある.GSSPは南イタリア・ヴリカセクションの腐泥層である “e”層上面に設置され,現地で得られた酸素同位体記録よりMIS63/64境界に対比されている (Cita et al., 2012).しかしGSSP層位の8m上位で見られるオルドバイ正磁極亜帯上限境界の古地磁気記録は,続成作用の影響を大きく受け境界位置の特定が困難とされる (Roberts et al., 2010).
上記で述べたように地中海周辺域における腐泥層序は地域内対比を行う上で大変有用である一方,古地磁気記録や酸素同位体記録などといったグローバル層序対比に必須な情報が欠如しがちである問題を抱えている.さらに腐泥層堆積のタイミングを日射量ピークと合致させるという年代較正手法についても,その仮定が少しでも崩れると,同様の手法で年代決定された新第三系における多くのGSSPの年代値が影響を受けることになる.こうした問題を回避し地質年代の信頼性を向上させる上で,微化石・古地磁気・酸素同位体など各種のグローバル層序対比に必要な記録を保持した地層の解析が極めて有用といえる.チバニアンGSSPを擁する上総層群を始め,房総半島にはこれらの記録を保持した鮮新統〜更新統の地層群が広く分布しており,地質年代研究への貢献が期待される.
参考文献:
Cita et al. 2012, Episodes 35, 388-397
Roberts et al. 2010, EPSL 292, 98-111
Suganuma et al. 2021, Episodes 44, 317-347
Rio et al. 1998, Episodes 21, 82-87