日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

[2oral301-13] T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

2022年9月5日(月) 08:45 〜 12:00 口頭第3会場 (14号館102教室)

座長:遠藤 俊祐(島根大学)、平内 健一(静岡大学)

09:45 〜 10:00

[T1-O-9] スラブ起源物質によるマントルウェッジの多様な交代作用
:北海道神居古潭帯の蛇紋岩からの検討

*高見澤 駿1、市山 祐司1、山崎 秀策2、田村 明弘3、森下 知晃3 (1. 千葉大学、2. 国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所、3. 金沢大学理工研究域地球社会基盤学系)

キーワード:沈み込み帯、マントルウェッジ、スラブ起源物質、交代作用、神居古潭帯

沈み込み帯は水を始めとする地球表層の物質をマントルへ供給する主要な経路である.スラブ中の間隙水や含水鉱物を起源とするスラブ脱水流体には流体移動元素が含まれ,マントルウェッジに様々な交代作用を引き起こす.造山帯に定置した高圧変成岩を伴うマントル岩は過去の沈み込み帯のスラブ-マントルウェッジ境界に由来し,浅部マントルにおける交代作用の諸過程を検討する上で格好の研究対象であると考えられる.本研究は北海道神居古潭帯の高圧変成岩類を伴う蛇紋岩体(鷹泊・岩内岳・糠平)を対象に野外調査,岩石記載,鉱物主要/微量元素組成分析を行い,スラブ起源物質によるマントル交代作用の詳細に関して議論する.神居古潭帯は,前期白亜紀から古第三紀にかけて形成された低温高圧型の変成岩類と大量の超苦鉄質岩類から構成される.対象とする鷹泊岩体,岩内岳岩体,糠平岩体はボニナイトのような高Mg安山岩の生成に関わったとされており,中~高程度に枯渇する特徴を示す(田村ほか,1999,地質学論集).隣接する変成岩類は鷹泊岩体付近で青色片岩,岩内岳岩体・糠平岩体付近であられ石を含む低度の変成岩である(Sakakibara and Ota,1994,J. Geophys. Res.).アンチゴライト蛇紋岩の形成は隣接する変成岩類の変成度に関連し鷹泊岩体では形成量が多く,岩内岳岩体・糠平岩体ではほとんど見られない.初生/二次鉱物の主要・微量元素組成分析によって,神居古潭帯の超苦鉄質岩類は多様な交代作用を経験していることが示唆される. 最初の交代作用はSiに富むスラブ起源メルトによるもので,二次的にかんらん石を置換した直方輝石,単斜輝石,微小なスピネルの出現で特徴づけられる.溶け残り相に比べて,二次直方輝石は低CaO,低Cr#,低Mg#,二次単斜輝石は低Na2O,高Mg#,スピネルは低いCr#(=0.2-0.4)という特徴が見られる.Secchiari et al.(2019,Geosci. Front.)はニューカレドニアの高枯渇度かんらん岩体から同様の交代作用を報告し,全岩Sr-Nd-Pb同位体比等の証拠から堆積物由来のメルトを原因物質とした.神居古潭帯においても堆積物メルトが関与した可能性がある.スラブメルトによる交代作用の後,スラブ起源H2O流体によって初生鉱物を置き換える含水/二次鉱物(Ca角閃石,金雲母,タルク,緑泥石,アンチゴライト,リザーダイト/クリソタイル)が形成される.Ca角閃石は輝石を交代する産状を示し,トレモライトからマグネシオホルンブレンドの組成を示す.これらはNa量によって異なる2つのタイプ(Na-richとNa-poor)に区分され,鷹泊・岩内岳の両岩体で共通して見られる.角閃石地質温度計(Putirka,2016,Am. Mineral.)及び圧力計(Mandler and Grove,2016,Contrib. Mineral. Petrol.)を適用し,加重平均をとった結果,Na-richタイプで鷹泊が836 ℃/1.16 GPa,岩内岳が820 ℃/1.08 GPa,Na-poorタイプで鷹泊が835 ℃/0.71 GPa,岩内岳が865 ℃/0.85 GPaを示した.これらの結果は,Ca角閃石の形成が主に2段階あることを示唆している.微量元素組成は,流体移動元素(Cs,Rb,Ba,Sr,Pb)に濃集が見られる.鷹泊岩体のアンチゴライトは高Al,低Mg#のAtgⅠと低Al,高Mg#のAtgⅡの2タイプに分類される.AtgⅠはリヒター閃石,Feに富む変成かんらん石,変成単斜輝石と共存する.リヒター閃石,Feに富む変成かんらん石,変成単斜輝石は初生直方輝石を置き換える産状を示す.これらは550 ℃以下で初生かんらん石,直方輝石と流体の相互作用によって形成されたと考えられる.また,リヒター閃石や変成単斜輝石は流体移動元素に富み,多量のNaやCa,流体移動元素がスラブ流体によって供給されていたことを示唆する.AtgⅡはMgに富む変成かんらん石,磁鉄鉱,ブルーサイトと共存し,かんらん石の仮像を成す.AtgⅡは,450 ℃以下で初生かんらん石の加水分解によって形成され,その後の昇温によってMgに富む変成かんらん石が形成されたと考えられる.岩内岳岩体や糠平岩体では,スラブ起源メルトによる交代作用の証拠を示すものの,アンチゴライトはほとんど形成されておらず,その他の含水鉱物にも乏しい.また,随伴する高圧変成岩類の変成度も低いことから定置以前,この2つの岩体は鷹泊岩体よりも前弧側に位置していた可能性がある.本研究によってスラブ起源の物質流入による多様なマントル交代作用の証拠が明らかとなった.それぞれの段階でどのような流体の関与が支配的であったのか,流体移動元素の特徴に着目しながら検討する必要がある.