10:00 〜 10:15
[T1-O-10] スラブーマントル境界における交代作用と物質移動:四国中央部三波川帯富郷地域の蛇紋岩岩体からの知見
キーワード:蛇紋岩、交代作用
<はじめに>
沈み込み帯では地殻やマントル由来の岩石が混在している。地殻岩石とマントル岩石の境界近傍では、交代作用による大規模な脱水反応や元素移動が起き、沈み込み帯における物質循環プロセス(特に水や炭素)やスロー地震の発生に影響を与えている1–3。近年の高温高圧条件下の流体の物性理論の進展により,変成流体の化学的特徴(イオンの濃度やpH)を定量的に予測できるようになり,沈み込み帯における元素循環の理解が進みつつある4,5。一方で、岩石の交代作用やそれに伴う元素移動プロセスは、全岩化学組成に基づく熱力学的アプローチから理解することは不可能である。三波川帯には多数の小規模の蛇紋岩体が存在している。蛇紋岩体の多くはざくろ石帯よりも高変成度に存在し、マントルウェッジ由来と考えられている6 。泥質片岩と蛇紋岩の境界では、交代作用の痕跡である反応帯がしばしば観察される。本研究では、三波川変成帯の富郷地区に産する蛇紋岩岩体を研究対象とし、岩石学的解析とマスバランス計算から交代作用に伴う反応帯の形成と元素移動メカニズムの制約を試みた。
富郷地区の蛇紋岩岩体は20メートルほどのサイズのBlock-in-matrix構造を示すアンチゴライトからなっている7。カンラン石は残っておらず、輝石やその仮晶は観察されない。また、蛇紋岩岩体は北側と南側で泥質片岩(ざくろ石帯)に接している。泥質片岩の鉱物組み合わせはQz+Pl+Ms+Ep+Chl+Grt+Amp+Rt+Ttn+Ap+Turであり、黒雲母は観察されなかった。泥質片岩に地質温度圧力計を適用した結果、変成条件は 530 - 560˚C・1.1 – 1.4 GPaと推定された。
南側の蛇紋岩体と泥質片岩の境界周辺では、次のような系統的な反応帯が観察された。
泥質片岩/曹長石岩/白雲母岩/緑泥石岩/透閃石片岩/滑石片岩/滑石+蛇紋石岩/蛇紋岩
チタン石は曹長石岩から緑泥石岩にかけて観察されるが、透閃石片岩から蛇紋岩にかけては観察されない。また、スピネルは透閃石片岩から蛇紋岩にかけて観察されるが、曹長石岩から緑泥石岩にかけては観察されない。泥質片岩中のざくろ石は典型的な Mnベル型累帯構造を示した一方で、白雲母岩中のざくろ石は グロッシュラー成分に富む特徴的なリムを持っていた。
<議論>
周囲の泥質片岩から推定された変成条件は典型的なざくろ石帯の変成条件8より高いが、富郷地域の塩基性岩から推定された変成条件9と整合的である。反応帯内におけるチタン石やスピネルの出現・消滅は、泥質片岩と蛇紋岩の本来の境界が現在の緑泥石岩と透閃石片岩の境界部であることを示している。岩石学的記載を総合すると,本蛇紋岩岩体はマントルウェッジのかんらん岩が比較的均質に蛇紋岩化したのち泥質片岩に取り込まれ、交代作用を受けたものであると考えられる。泥質片岩と白雲母岩中のざくろ石の組成累帯構造の比較から、蛇紋岩体と泥質片岩の交代作用がピーク変成条件付近で始まったことが示唆される。講演では、反応帯の全岩化学組成に基づいたマスバランス計算などを用いて、沈み込むスラブとマントルウェッジの境界で起きる岩石や流体の化学組成の変化について考察する。
参考文献
[1] Marschall, H. R. & Schumacher, J. C. Nat. Geosci. (2012).
[2] Tarling, M. S., Smith, S. A. F. & Scott, J. M. Nat. Geosci. (2019).
[3] Okamoto, A. et al. Commun. Earth Environ. (2021).
[4] Sverjensky, D. A., Harrison, B. & Azzolini, D. Geochim. Cosmochim. Acta (2014).
[5] Galvez, M. E., Connolly, J. A. D. & Manning, C. E. Nature (2016).
[6] Aoya, M., Endo, S., Mizukami, T. & Wallis, S. R. Geology (2013).
[7] Hirauchi, K. et al. Earth Planet. Sci. Lett. (2021).
[8] Enami, M. J. Metamorph. Geol. (1998).
[9] Okamoto, A. & Toriumi, M. J. Metamorph. Geol. (2005).
沈み込み帯では地殻やマントル由来の岩石が混在している。地殻岩石とマントル岩石の境界近傍では、交代作用による大規模な脱水反応や元素移動が起き、沈み込み帯における物質循環プロセス(特に水や炭素)やスロー地震の発生に影響を与えている1–3。近年の高温高圧条件下の流体の物性理論の進展により,変成流体の化学的特徴(イオンの濃度やpH)を定量的に予測できるようになり,沈み込み帯における元素循環の理解が進みつつある4,5。一方で、岩石の交代作用やそれに伴う元素移動プロセスは、全岩化学組成に基づく熱力学的アプローチから理解することは不可能である。三波川帯には多数の小規模の蛇紋岩体が存在している。蛇紋岩体の多くはざくろ石帯よりも高変成度に存在し、マントルウェッジ由来と考えられている6 。泥質片岩と蛇紋岩の境界では、交代作用の痕跡である反応帯がしばしば観察される。本研究では、三波川変成帯の富郷地区に産する蛇紋岩岩体を研究対象とし、岩石学的解析とマスバランス計算から交代作用に伴う反応帯の形成と元素移動メカニズムの制約を試みた。
富郷地区の蛇紋岩岩体は20メートルほどのサイズのBlock-in-matrix構造を示すアンチゴライトからなっている7。カンラン石は残っておらず、輝石やその仮晶は観察されない。また、蛇紋岩岩体は北側と南側で泥質片岩(ざくろ石帯)に接している。泥質片岩の鉱物組み合わせはQz+Pl+Ms+Ep+Chl+Grt+Amp+Rt+Ttn+Ap+Turであり、黒雲母は観察されなかった。泥質片岩に地質温度圧力計を適用した結果、変成条件は 530 - 560˚C・1.1 – 1.4 GPaと推定された。
南側の蛇紋岩体と泥質片岩の境界周辺では、次のような系統的な反応帯が観察された。
泥質片岩/曹長石岩/白雲母岩/緑泥石岩/透閃石片岩/滑石片岩/滑石+蛇紋石岩/蛇紋岩
チタン石は曹長石岩から緑泥石岩にかけて観察されるが、透閃石片岩から蛇紋岩にかけては観察されない。また、スピネルは透閃石片岩から蛇紋岩にかけて観察されるが、曹長石岩から緑泥石岩にかけては観察されない。泥質片岩中のざくろ石は典型的な Mnベル型累帯構造を示した一方で、白雲母岩中のざくろ石は グロッシュラー成分に富む特徴的なリムを持っていた。
<議論>
周囲の泥質片岩から推定された変成条件は典型的なざくろ石帯の変成条件8より高いが、富郷地域の塩基性岩から推定された変成条件9と整合的である。反応帯内におけるチタン石やスピネルの出現・消滅は、泥質片岩と蛇紋岩の本来の境界が現在の緑泥石岩と透閃石片岩の境界部であることを示している。岩石学的記載を総合すると,本蛇紋岩岩体はマントルウェッジのかんらん岩が比較的均質に蛇紋岩化したのち泥質片岩に取り込まれ、交代作用を受けたものであると考えられる。泥質片岩と白雲母岩中のざくろ石の組成累帯構造の比較から、蛇紋岩体と泥質片岩の交代作用がピーク変成条件付近で始まったことが示唆される。講演では、反応帯の全岩化学組成に基づいたマスバランス計算などを用いて、沈み込むスラブとマントルウェッジの境界で起きる岩石や流体の化学組成の変化について考察する。
参考文献
[1] Marschall, H. R. & Schumacher, J. C. Nat. Geosci. (2012).
[2] Tarling, M. S., Smith, S. A. F. & Scott, J. M. Nat. Geosci. (2019).
[3] Okamoto, A. et al. Commun. Earth Environ. (2021).
[4] Sverjensky, D. A., Harrison, B. & Azzolini, D. Geochim. Cosmochim. Acta (2014).
[5] Galvez, M. E., Connolly, J. A. D. & Manning, C. E. Nature (2016).
[6] Aoya, M., Endo, S., Mizukami, T. & Wallis, S. R. Geology (2013).
[7] Hirauchi, K. et al. Earth Planet. Sci. Lett. (2021).
[8] Enami, M. J. Metamorph. Geol. (1998).
[9] Okamoto, A. & Toriumi, M. J. Metamorph. Geol. (2005).