10:15 AM - 10:30 AM
[T1-O-11] The significance of CASH-CO2 metasomatism for tectonic slicing of subducting oceanic crust: an example from the Sanbagawa belt
白亜紀沈み込み境界で形成された四万十付加体と三波川変成岩とを比較すると,ともに海洋地殻(MORB)起源の苦鉄質岩が付加しているが,深部相である三波川帯の苦鉄質片岩は側方連続性の極めて良い層をなし,岩体規模が明らかに大きい.これら苦鉄質片岩の地質構造は,沈み込み期の延性変形(単純剪断)により高アスペクト比のシート状岩体となった後,上昇期に同斜状褶曲による折り畳みと東西伸長を伴う延性薄化を受けた結果とみなされる.しかし,それ以前に沈み込む海洋地殻から力学的に分離(構造スライス化)し,沈み込みチャネルへ取り込まれるプロセスに関しての地質学的証拠はこれまで知られていなかった.それは四万十付加体に観察されるduplexの形成よりも大規模な海洋地殻の破壊を伴うはずである.本発表は,愛媛県東温市滑川地域の三波川帯から見出した「石灰珪質片岩」の野外地質・岩石学的解析・炭質物ラマン分析の結果をもとにこのプロセスを議論する.この岩石名はCa-Al珪酸塩に富むことによるもので石灰岩起源という意味を含まない.石灰珪質片岩は緑泥石帯の厚い苦鉄質片岩層の下底(泥質片岩との岩相境界)に沿って薄く(厚さ数m以内)存在しており,側方に500 m以上追跡できる.苦鉄質片岩との境界は漸移的で,その産状と残留クロムスピネル組成から原岩はMORBに関係している.さらに石灰珪質片岩は,炭質物を含む灰色クラストと淡緑色基質からなる不均質組織をもつタイプAと,炭質物を含まず微量~主成分鉱物として方解石を含みCASH-CO2系に近い全岩組成を持つタイプBに分類できる.タイプAのクラストは緑れん石やアルバイトに富み,基質は緑泥石やアクチノ閃石に富む.タイプBの一部は四国西部で「変成斑れい岩」として記載された原岩不明の岩石(仲田ほか2019)と同様の組織(白色クラストを含むL-Sテクトナイト)をもつ.タイプBの現在の主要Ca-Al珪酸塩は緑れん石およびゾイサイトであるが,微細組織観察と岩石学的解析から,もとはローソン石+パンペリー石を主とする高含水量CASH-CO2交代岩として形成されたと解釈できる.このようなCASH交代作用は,冷たい沈み込み帯の深部(50-80 km:Vitale Brovarone and Beyssac, 2014)や温かい沈み込み帯の浅部(~10 km:Endo and Wallis, 2017)で起こり,より深部への効率的な水輸送に重要な役割を果たしていることが近年指摘されている.温かい沈み込み帯浅部の苦鉄質・泥質岩相境界におけるCASH-CO2交代岩の形成は流体を消費してプレート境界の固着を強めると考えられるが,プレート境界地震発生帯の末端付近(~300℃,0.5 GPa)まで沈み込むと,一転して大量のH2O流体を発生し,緑れん石およびゾイサイトを主とする岩石へと変化する.この反応をタイプBの全岩組成でモデル計算すると,5.26%の固相体積減少,4.74%の流体を含む系の体積増加となる.従って,この脱水反応は流体圧上昇を伴い,大規模な海洋地殻の破壊に関与した可能性が高い.実際に石灰珪質片岩の不均質組織は,後の延性変形の重複により不明瞭になっているものの,沈み込む海洋地殻の構造スライス化に直接関連した断層岩(カタクレーサイト)であったことを示すと考えられる.炭質物ラマン温度計により,石灰珪質片岩の周囲のピーク変成温度は約400℃と見積られるが,タイプAに含まれる炭質物は変成温度から期待されるよりも著しく結晶化度が高い(見かけ温度は530-540℃).この炭質物は断層運動の剪断熱により生じた高温流体から晶出した可能性がある.
引用文献:Endo and Wallis (2017) J. Metam. Geol. 35, 695–716. 仲田ほか(2019)地質雑125, 447-452.Vitale Brovarone and Beyssac (2014) Earth Planet. Sci. Lett. 393, 275–284.
引用文献:Endo and Wallis (2017) J. Metam. Geol. 35, 695–716. 仲田ほか(2019)地質雑125, 447-452.Vitale Brovarone and Beyssac (2014) Earth Planet. Sci. Lett. 393, 275–284.