日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

[2oral301-13] T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

2022年9月5日(月) 08:45 〜 12:00 口頭第3会場 (14号館102教室)

座長:遠藤 俊祐(島根大学)、平内 健一(静岡大学)

10:30 〜 10:45

[T1-O-12] 変成岩の体積変化推定に基づくフランシスカン沈み込み帯でのシリカと水の移動の定量的評価

*副島 祥吾1、ウォリス サイモン1 (1. 東京大学)

キーワード:体積変化、変形脈、スロー地震、物質移動、沈み込み帯

スロー地震の発生プロセスにおいて、沈み込み帯における水流体の存在が重要な役割を果たしていることはよく知られている。また、沈み込み環境で水流体中に溶解し、沈み込む堆積岩に最も多く含まれるシリカは、深部スロー地震の時間スケールを支配する重要な因子となり得るとして、近年注目されている。例えば,Audet & Burgmann(2014)は,沈み込み帯の上部プレートにおけるVp/Vs比が深部スロー地震の再来周期と正相関しているという観測から,シリカ付加過程を深部スロー地震の再来周期を決定する要因として提唱した。具体的には、スロー地震の周期は、断層すべり時の不連続構造の形成と石英の析出によるヒーリングの繰り返しによって決定されるという考えである。彼らは、このプロセスが進行する前弧地殻の下部領域で5–15vol.%のシリカが析出することが必要であると推定している。このようなシリカの移動は、シリカの供給源領域での体積減少と析出の起こる領域での体積増加に反映されるはずである。シリカは沈み込む岩石中に広く存在し、比較的溶解度が高いので、これらの地域の体積変化は移動したシリカの量とほぼ同程度である。したがって、深部スロー地震発生深度以深に沈み込んだ変成岩の体積変化の推定は、これらの領域におけるシリカの移動を定量的に検証するために用いることができる。 構造地質学分野において、これまで適用されてきた岩石の体積変化の推定方法は、絶対伸縮量の推定や岩石全体の化学組成の変化に基づくものであった。これらの手法には、特に変成堆積岩の解析において、検証不可能な仮定を必要としたり、それぞれの手法を同じ地域に適用した場合でも結果に大きなずれが生じたりする不確実性の問題があった。本研究では変形脈群法(Passchier, 1990; Wallis, 1992)という、変形した鉱脈の方向と変形タイプを利用して体積変化を推定する、ほとんど未開拓の方法を開発した。本手法は検証不可能な仮定を必要とせず、誤差範囲の推定も可能であるため、不確実性を含めた体積変化の定量的議論を可能にする。 Franciscan 帯の Del Puerto Canyon に分布する、 前弧地殻下部由来だと推定されるmetagreywacke に変形脈群法を適用した。その結果、同地域で大きな体積減少を示す従来の提案(Ring, 2008)と対照的に、変成同時性の体積変化は 7%以上であると制約された。Ring (2008)では,シリカの溶解沈殿プロセスで石英粒子の周囲に付着するover growthに着目し、その形態解析をもとに体積変化を推定した。彼らの手法では、粒界すべりと溶解移動による個々の結晶粒子の剛体回転を考慮できず、これが見かけの体積変化を著しく小さくする原因になった可能性がある。我々は、Ring (2008)で使用された手法にRf/Φ法による歪解析を組み合わせることで、粒子回転の影響を加味した体積変化推定を可能にし、体積変化が最大21%であると制約した。以上から最終的には、7–21vol.%の正の体積変化が推定され、岩石へのシリカの付加が示唆された。この結果は,Audet & Burgmann (2014) の推定値とよく一致している. また、推定された体積変化から、それを引き起こしたシリカ溶存水流体の時間積分フラックスの定量的評価が可能である。シリカの溶解度は、温度と圧力に依存し、一般的に温度が下がるほど低下する。したがって、本研究で明らかになった前弧地殻下部に沈殿した石英の体積は、沈み込み帯深部の高温領域から浅部の低温領域へと移動する水のリターンフローの時間積分フラックスと関連付けられる。本地域で水流体が垂直方向に浸透したと仮定した場合、先行研究の温度圧力推定の結果と本研究で得られた体積変化推定の結果から、時間積分流体フラックスは、1.0×106–1.9×107 (m3/m2)であると推定された。この結果は含水鉱物の安定性の議論に基づくモデリング研究(e.g. Peacock, 1990, van Keken et al., 2011) で推定されている流体フラックスの数十倍の値である。 【References】 Audet & Burgmann (2014), Nature, 510, 389–392. Passchier (1990), Tectonophysics, 180, 185–199. Wallis (1992), J. Struct. Geol., 14, 271–280. Ring (2008), GSA, Special Paper, 445 Peacock (1990), Science, 248 (4953), 329–337. van Keken et al. (2011), J. Geophys. Res., 116, B01401.