11:00 AM - 11:15 AM
[T13-O-10] About the utilization status of ground information in the Kansai area
Keywords:geological structure, borehole database , subsurface geology, geologikal risk
関西地域においては,過去30年以上にわたり地盤情報の蓄積がなされており,土質工学会関西支部(現地盤工学会関西支部)の研究委員会を発端に“関西陸域”と“大阪湾海域”の地盤情報データベースベースの構築と地盤研究が始まった。この活動は2つの組織〔関西地盤情報活用協議会(1995~2003),大阪湾地盤情報の研究協議会(1998~2003)〕に継承され,2003年に1つの組織〔関西圏地盤情報の活用協議会(2003~2005)〕に一体化された。この1つの組織に一体化された時点で2つの地盤情報データベースが統合され,現在の“関西圏地盤情報データベース”へと引き継がれている。その後,2005年からは,「関西圏地盤情報ネットワーク(KG-NET)」を形成し,“関西圏地盤情報データベース”を“関西圏の財産”と位置付けて活動を行っている。
地盤情報データベースは公共事業などで実施されたボーリングデータの柱状図や各種土質試験情報などをデジタル化しており,基本的には工学的な土質試験情報と土層(粒度の異なる堆積物を区分した情報)が示されている。この情報に同地域で実施された地質学的な調査ボーリングデータを加えることで,地質層序の情報明らかになり,側方対比や地層の同定を行うことが可能になる。 KG-NETの中には,これらのデータの利活用事例を示すことを目的に,地域ごとにスポットを当て検討を行った。その成果は書籍として新関西地盤シリーズとして,大阪平野,京都盆地,奈良盆地,近江盆地,和歌山平野などの地域が取りまとめられた。各地域での取りまとめでは,地域の代表的な表層地盤の断面図や地質学的な層序,堆積物の特徴,地質構造との関係などがとりまとめてあり,さらに工学的な特徴などもまとめてあるので該当地域での地質調査業務などの概要説明や調査時の対象地層の確認,調査計画などに利用されている。また,大阪平野など港湾部を含む地域は,基本的に海水準変動に伴った海成粘土層が特徴的に分布することから,地層の対比は比較的にスムーズであり,これに伴って中間砂層(Dg層)の特徴や分布は工学的基盤の分布状況を示すことが可能であり,杭基礎の深度の推定などの建設施工時の情報としても有効である。一方で,内陸地域では河川堆積物の特徴や基盤岩露出地域の岩石の特徴を反映した後背地の特徴などが明らかになり,地域ごとの地盤特性の取りまとめなどが可能となった。
ボーリングデータベースを用いた地層分布や堆積状況を把握することで,工事トラブルのリスクの高い地質がどのような堆積状況の場所に分布するのかが明らかになり,留意点も明らかになってきた。一例を挙げると,完新統の海成堆積物の中で陸地付近やある程度の流れのある地域で堆積する「砂」層は,注意が必要である。砂洲や砂堆の堆積物は中砂程度の粒径で分布し,スポット状に分布する事が多い。一方,湾奥の流れの少ない海岸付近では細粒砂が部分的に散見される。いずれも淘汰が良く,地下水位が比較的高い地域では液状化などのリスクが高いことが一般にも知られている。しかし,工事トラブルと合わせて検討すると,シールド工事などの地下掘削時にも掘削の振動に伴って流動化するなどの危険性がある事が判ってきている(地盤工学会関西支部(2013),北田・三村(2021),北田(2022))。さらに,河川デルタ地域で発見された旧河道部での地層の削り込みや断層変形に伴う撓曲構造の抽出などがボーリングデータを用いて広域的な地層分布を把握することによって解明することが可能となり,一般の工事などに伴う局所的な施工時ボーリングでは十分に把握しきれない地質・地盤リスクを抽出することが可能である。2018年からは木津川~淀川上流域における河川と周辺流域の特徴について検討を行っており,破堤にともなう堤内の堆積物の特徴などが明らかになりつつある。
以上のように,ボーリングデータベースなどを用いた理学的な検討と社会的なインフラ整備に関するリスク検討を組み合わせることが可能になれば,都市域における地質学的な検討を社会活動に活かせるのではないかと考える。
引用文献:
地盤工学会関西支部:地下建設工事においてトラブルが発生しやすい地盤の特性とその対策技術に関する研究委員会 報告書,99p., 2013.
北田奈緒子・三村 衛:大阪平野を例とした地質地盤リスクの高い堆積構造の分布と特徴, 第56回地盤工学研究発表会講演集, CD-ROM, DS-3-11, 2021.
北田奈緒子:地盤情報の活用による地質地盤リスク評価,地盤工学会誌,70(5),p10-13,2022.
地盤情報データベースは公共事業などで実施されたボーリングデータの柱状図や各種土質試験情報などをデジタル化しており,基本的には工学的な土質試験情報と土層(粒度の異なる堆積物を区分した情報)が示されている。この情報に同地域で実施された地質学的な調査ボーリングデータを加えることで,地質層序の情報明らかになり,側方対比や地層の同定を行うことが可能になる。 KG-NETの中には,これらのデータの利活用事例を示すことを目的に,地域ごとにスポットを当て検討を行った。その成果は書籍として新関西地盤シリーズとして,大阪平野,京都盆地,奈良盆地,近江盆地,和歌山平野などの地域が取りまとめられた。各地域での取りまとめでは,地域の代表的な表層地盤の断面図や地質学的な層序,堆積物の特徴,地質構造との関係などがとりまとめてあり,さらに工学的な特徴などもまとめてあるので該当地域での地質調査業務などの概要説明や調査時の対象地層の確認,調査計画などに利用されている。また,大阪平野など港湾部を含む地域は,基本的に海水準変動に伴った海成粘土層が特徴的に分布することから,地層の対比は比較的にスムーズであり,これに伴って中間砂層(Dg層)の特徴や分布は工学的基盤の分布状況を示すことが可能であり,杭基礎の深度の推定などの建設施工時の情報としても有効である。一方で,内陸地域では河川堆積物の特徴や基盤岩露出地域の岩石の特徴を反映した後背地の特徴などが明らかになり,地域ごとの地盤特性の取りまとめなどが可能となった。
ボーリングデータベースを用いた地層分布や堆積状況を把握することで,工事トラブルのリスクの高い地質がどのような堆積状況の場所に分布するのかが明らかになり,留意点も明らかになってきた。一例を挙げると,完新統の海成堆積物の中で陸地付近やある程度の流れのある地域で堆積する「砂」層は,注意が必要である。砂洲や砂堆の堆積物は中砂程度の粒径で分布し,スポット状に分布する事が多い。一方,湾奥の流れの少ない海岸付近では細粒砂が部分的に散見される。いずれも淘汰が良く,地下水位が比較的高い地域では液状化などのリスクが高いことが一般にも知られている。しかし,工事トラブルと合わせて検討すると,シールド工事などの地下掘削時にも掘削の振動に伴って流動化するなどの危険性がある事が判ってきている(地盤工学会関西支部(2013),北田・三村(2021),北田(2022))。さらに,河川デルタ地域で発見された旧河道部での地層の削り込みや断層変形に伴う撓曲構造の抽出などがボーリングデータを用いて広域的な地層分布を把握することによって解明することが可能となり,一般の工事などに伴う局所的な施工時ボーリングでは十分に把握しきれない地質・地盤リスクを抽出することが可能である。2018年からは木津川~淀川上流域における河川と周辺流域の特徴について検討を行っており,破堤にともなう堤内の堆積物の特徴などが明らかになりつつある。
以上のように,ボーリングデータベースなどを用いた理学的な検討と社会的なインフラ整備に関するリスク検討を組み合わせることが可能になれば,都市域における地質学的な検討を社会活動に活かせるのではないかと考える。
引用文献:
地盤工学会関西支部:地下建設工事においてトラブルが発生しやすい地盤の特性とその対策技術に関する研究委員会 報告書,99p., 2013.
北田奈緒子・三村 衛:大阪平野を例とした地質地盤リスクの高い堆積構造の分布と特徴, 第56回地盤工学研究発表会講演集, CD-ROM, DS-3-11, 2021.
北田奈緒子:地盤情報の活用による地質地盤リスク評価,地盤工学会誌,70(5),p10-13,2022.