11:30 AM - 11:45 AM
[T13-O-12] Changes of the earthquake-induced landslides risk by artificial landform transformation: a case in the Tama New Town, west Tokyo
【ハイライト講演】
世話人よりハイライトの紹介:ローム層は強い地震動発生時に流動的地すべりが生じ,大規模な斜面災害を発生させてきた.本発表では,大規模な地形改変がなされた多摩丘陵を対象に人工改変前後の2時期のローム層厚分布図を作成し,人工改変によりローム層の流動性地すべりリスクがどの様に変化したかを検討した結果を紹介いただく.盛土部だけでなく,切土部でもローム層が残存する場所には斜面災害リスクがあること示す,貴重な研究成果である.※ハイライトとは
Keywords:earthquake-induced landslide, artificial landform transformation, Tama Hills, tephric loess, Tama New Town
はじめに:日本列島各地にはローム層と呼ばれる降下テフラや火山灰土(鈴木,1995)からなる未固結な風成堆積物が分布する.これらは台地や丘陵などを被覆し不安定な斜面を構成する.このため,強い地震動発生時に流動性地すべりが生じ,場合により大規模な斜面災害が発生する.2018年北海道胆振東部地震,2016年熊本地震,2011年東北地方太平洋沖地震の際には各地域においてこのような流動性地すべりが発生し,被害が生じた.ローム層が分布する湿潤変動火山帯特有な斜面災害といえる.ところでローム層分布域の中には人工改変によりローム層が除去される場合がある.台地や丘陵を被覆するローム層の層厚は火山からの距離や方位,台地や丘陵の原面をなす地形面の形成年代により大きく変化する.ローム層がどの程度除去されるかは改変規模によると考えられるが,ローム層が完全に除去された斜面ではローム層崩壊の流動性地すべりは発生しない.人工改変地においてローム層の地震時流動性地すべりのリスクを検討する上で人工改変,すなわち切土によるローム層の除去の実態を把握する必要がある.このような観点にたち,ローム層への人工改変が進んだ東京西部の多摩ニュータウン(多摩丘陵)を事例に,人工改変前後の2時期を対象にローム層層厚分布図を作成し,人工改変によりローム層の流動性地すべりリスクがどのように変化したかを検討し,また切土のみならず盛土分布とその層厚をマップ化した(鈴木ほか,2021).以下,その概要を述べるとともに今後の課題を記す.
手法:人工改変前の地形復元には1950 年代に刊行された 3,000 分の 1 地形図「御殿峠」「唐木田」(東京都,1958)の等高線よりDEMを作成した.改変後の地形は航空レーザーデータ(2 m メッシュ)と国土地理院基盤地図情報の数値標高モデル(5 m メッシュ)より復元した.ローム層分布は宇野沢ほか(1972・1989)による10,000 分の1「多摩丘陵北西部関東ローム地質図」を参照した.ローム層の残存層厚を求めるため,地形改変後標高からローム層基底(御殿峠礫層堆積面) 高度を差し引いた数値が正であればローム層が残存しており,負であればローム層は除去されたと解釈した.
結果:御殿峠礫層堆積面上のローム層について人工改変前後の層厚を把握するため,御殿峠礫層分布域のデータポイントでの改変前後でローム層層厚出現頻度の変化を検討した.改変前の御殿峠地域ではローム層層厚が30〜20 mの地点がわずかに存在するのに対し,20 mから0 mにかけての地点数は0 mにむけて一方的に増加する.これに対して改変後では30〜20 mの地点数には変化はあまり見られず,20〜10 mにかけての地点数は多少の減少を示し,5〜0 mにかけての地点数は大幅に減少する.これを補うようにローム層基底からさらに15 m程度切土された地点が目立つ.すなわち全体的にはローム層は切土のため除去された傾向にあり,ローム層が引き起こす地震時流動性地すべりリスクは低下したと考えられる.地点数の減少が認めにくいローム層層厚30〜20 mの地点については,元々大規模な谷の分水界上の高まりに相当し,おそらく土地改変を進めながらも自然斜面を残存させるために意図的に地形改変がなされなかった地域と考えられる.その近傍には宅地も多くあり,地震時流動性地すべりのリスクは残されている.改変前の唐木田地域では,ローム層層厚が27 mの地点数から0 mの地点数にかけてほぼ一方的に増加する.これに対し改変後の層厚出現頻度は,全体的に層厚が減少傾向にあり,その分ローム層基底以上に切土された地点の増大を予想していた.実際にローム層基底よりも切土された地点数は広範囲に認められる.しかしそれ以外で明確に減少したのは5〜0 mにかけての地点であり,それ以外の範囲では10 m強と20 m付近で明らかに増大のピークが認められ,その前後もやや増大傾向にあり予想外の結果であった.増大傾向が見られた理由として「多摩丘陵北西部関東ローム地質図」で示された御殿峠礫層分布域の正確性に起因するものである.単純に新旧の地形の変化のみから切土・盛土を議論するのではなく,地質を加味する場合,参照とする地質図での描かれ方に細心の注意を払う必要が示唆される.
引用文献:鈴木(1995)火山,40,167-176.鈴木ほか(2021)京大防災研年報, 64B, 115-130.東京都建設局(1958):3,000分の1地形図.宇野沢ほか(1972・1989)多摩丘陵北西部関東ローム地質図,地質調査所.
手法:人工改変前の地形復元には1950 年代に刊行された 3,000 分の 1 地形図「御殿峠」「唐木田」(東京都,1958)の等高線よりDEMを作成した.改変後の地形は航空レーザーデータ(2 m メッシュ)と国土地理院基盤地図情報の数値標高モデル(5 m メッシュ)より復元した.ローム層分布は宇野沢ほか(1972・1989)による10,000 分の1「多摩丘陵北西部関東ローム地質図」を参照した.ローム層の残存層厚を求めるため,地形改変後標高からローム層基底(御殿峠礫層堆積面) 高度を差し引いた数値が正であればローム層が残存しており,負であればローム層は除去されたと解釈した.
結果:御殿峠礫層堆積面上のローム層について人工改変前後の層厚を把握するため,御殿峠礫層分布域のデータポイントでの改変前後でローム層層厚出現頻度の変化を検討した.改変前の御殿峠地域ではローム層層厚が30〜20 mの地点がわずかに存在するのに対し,20 mから0 mにかけての地点数は0 mにむけて一方的に増加する.これに対して改変後では30〜20 mの地点数には変化はあまり見られず,20〜10 mにかけての地点数は多少の減少を示し,5〜0 mにかけての地点数は大幅に減少する.これを補うようにローム層基底からさらに15 m程度切土された地点が目立つ.すなわち全体的にはローム層は切土のため除去された傾向にあり,ローム層が引き起こす地震時流動性地すべりリスクは低下したと考えられる.地点数の減少が認めにくいローム層層厚30〜20 mの地点については,元々大規模な谷の分水界上の高まりに相当し,おそらく土地改変を進めながらも自然斜面を残存させるために意図的に地形改変がなされなかった地域と考えられる.その近傍には宅地も多くあり,地震時流動性地すべりのリスクは残されている.改変前の唐木田地域では,ローム層層厚が27 mの地点数から0 mの地点数にかけてほぼ一方的に増加する.これに対し改変後の層厚出現頻度は,全体的に層厚が減少傾向にあり,その分ローム層基底以上に切土された地点の増大を予想していた.実際にローム層基底よりも切土された地点数は広範囲に認められる.しかしそれ以外で明確に減少したのは5〜0 mにかけての地点であり,それ以外の範囲では10 m強と20 m付近で明らかに増大のピークが認められ,その前後もやや増大傾向にあり予想外の結果であった.増大傾向が見られた理由として「多摩丘陵北西部関東ローム地質図」で示された御殿峠礫層分布域の正確性に起因するものである.単純に新旧の地形の変化のみから切土・盛土を議論するのではなく,地質を加味する場合,参照とする地質図での描かれ方に細心の注意を払う必要が示唆される.
引用文献:鈴木(1995)火山,40,167-176.鈴木ほか(2021)京大防災研年報, 64B, 115-130.東京都建設局(1958):3,000分の1地形図.宇野沢ほか(1972・1989)多摩丘陵北西部関東ローム地質図,地質調査所.