129th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Poster

T11.[Topic Session]Latest Studies in Sedimentary Geology

[7poster12-18] T11.[Topic Session]Latest Studies in Sedimentary Geology

Sat. Sep 10, 2022 9:00 AM - 12:30 PM poster (poster)


フラッシュトーク有り 9:00-10:00頃 ポスターコアタイム 10:30-12:30

[T11-P-3] (Entry) Detection and source estimation of "Invisible" tsunami deposits based on mineralogical methods

【ハイライト講演】
★「日本地質学会優秀ポスター賞」9/10受賞★

*Ryo Nakanishi1, Juichiro Ashi1, Masataka Aizawa2, Hajime Naruse3, Yuichi Okuma1, Takeru Kochi1 (1. The University of Tokyo, 2. University of The Ryukyu, 3. Kyoto University)

【zoomによるフラッシュトーク有り】9/10(土)9:25-9:30

世話人よりハイライトの紹介:2011年の津波以降,一般的に報告されるような砂質津波堆積物の分布は津波の浸水範囲よりも狭いということが広く知られるようになった.このようなギャップは,将来発生する津波の規模を津波堆積物から推定する上で問題となる.このギャップを最小限にするため,この研究ではCT撮影やXRF分析,SEM-EPMA分析など多様な分析手法を用いて,肉眼では気づくことが困難なInvisible津波堆積物を追跡することに成功した.※ハイライトとは

Keywords:Tsunami deposits, Hokkaido, EPMA, X-ray CT, Detrital minerals

津波堆積物は観測記録のない時代において津波の遡上範囲を確認する数少ない手段の一つであり,各地の津波堆積物分布を再現する津波の数値シミュレーションによって古地震の破壊領域が推定されてきた.一方,2011年津波の現地調査によって,砂質・泥質堆積物の分布と浸水範囲が比較された(Abe et al., 2012, Sediment. Geol.).その結果,傾斜のなだらかな仙台平野では層厚5mm以上の砂層は浸水範囲の60–80 %の領域に分布しているのに対し,厚さ数mmの砂泥質堆積物は浸水範囲の90%以上の範囲に分布していることが明らかになった.しかしながら,層厚が数mmの砂・泥層は堆積後の擾乱や風化によって保存されない可能性が高い.そのため,地質記録として見出される砂層の分布は実際の津波浸水範囲とは乖離している可能性が高く,古津波・地震の規模を過小評価してしまう危険性がある.そこで,本研究では化学トレーサーに比べて保存ポテンシャルが高いとされる鉱物粒子の存在に基づき,砂層検出限界より内陸側において “Invisible津波堆積物”(肉眼では観察できない津波痕跡)を検出し,真の津波浸水範囲の復元を試みた.
 北海道太平洋沿岸は古津波堆積物の研究が盛んに行われている地域である.先行研究によって,千島海溝では数百年間隔で~M9の地震が発生していることが示唆されている(Sawai, 2020, Earth-Sci. Rev.).調査地としたえりも地域においては過去4000年間の津波履歴が明らかにされており,特に17世紀(S1層)と12世紀の砂質津波堆積物(S2層)の分布が報告されている(Nakanishi et al., 2022, ESSOAr).S2層はS1層と10世紀の火山灰層(B-Tm)に挟まれているため,識別が容易であり,保存状態も良い.そこで,本研究はこのS2層を研究対象とした.
 野外調査では,S2層がせん滅する海岸から1000mから1150mの範囲を5–10m間隔でジオスライサーによってサンプリングを行った.採取したサンプルに対して高知大学海洋コア総合研究センターにおいてX線CT撮影を行い,さらにXRFコアスキャナーによってコア表面の化学組成プロファイルを得た.その結果,肉眼で確認できる砂層は高いCT値を示すのに対し,泥炭層は水と有機物で構成されていることから低いCT値を示した.しかしながら, S2層に対比される層準では,泥炭層中にCT値やTi, K, Caといった元素でわずかなピークがみられた.
 そこで, S2層が存在すると推定されるS1層とB-Tm層間の泥炭層について研磨片を作成し,SEM-EPMA分析によって元素マッピングと砂粒子の点分析を行った.その結果, S2層準には他の泥炭層には含まれていない砕屑物粒子が存在することが確認された.その鉱物組成は石英・長石(83–93%),次いで火山ガラス・岩片(6–12%)で構成されており,少量の輝石・緑簾石(3%以下)を含んでいた.S2層準の砕屑粒子の鉱物組成はS2砂層の本体や海浜砂とおおむね一致しており,斜長石のAn値や火山ガラスの特徴(B-Tmの再堆積物)の点でもよく類似していた.Invisible S2層は砂層本体に比べ比重の大きな有色鉱物の割合が低く,内陸へ向かうほど減少していく傾向がみられた.これは比重の大きな鉱物粒子が選択的に砂層として堆積し,軽鉱物がより内陸まで運搬されたと解釈される.
 マッピングデータの砂粒子像に対してImageJを用いた楕円近似を施し,短軸で代表した粒度組成を算出した.その結果,砂層がせん滅した地点から40mほどの地点までは0.08–0.12mmの粒子が確認されたものの,80m前後の地点では砂粒子がほとんど検出されなかった.この極細粒砂は海浜砂やS2砂層の最も細粒な成分にあたることから,運ばれ得る砂粒子としての末端の堆積物であることを示唆している.
 その鉱物組成の類似性や粒度組成の特徴を総合すると,EPMAマッピングによってS2層準の泥炭層中から得られた粒子はS2層に対比されると考えられる.そこで,Invisible砂層が確認された地点まで津波浸水があったかを判定するため,津波堆積物逆解析モデルFITTNUSS(Mitra et al., 2020, JGR-ES)を用いて,砂層の粒度・層厚分布から古津波の水理条件を復元した.その結果、浸水範囲は砂層のせん滅地点から50–70m程度と推定され,Invisible S2層の分布範囲を網羅していた.本研究の結果は,肉眼では確認できないがCT値・鉱物組成から識別可能なInvisible砂層がより現実的な浸水範囲の推定に有益な指標であることを示している.今後,Invisible 砂層の分布は津波浸水の数値シミュレーションの制約条件として活用できるだろう.