[T7-P-7] (Entry) Composition of zircon melt inclusions and crystallization pressure estimation of Miocene Miuchi granitoid pluton
★「日本地質学会優秀ポスター賞」9/11受賞 ★
Keywords:melt inclusion, zircon, granite, crystallization pressure
はじめに 花崗岩質マグマの固結圧力は、造山帯の構造発達史や個々の花崗岩体のマグマ過程など、広い範囲の地質現象の理解に欠かせない基本情報である。花崗岩体の固結圧力を岩石学的に制約する方法として、角閃石Al地質圧力計が広く用いられているが、角閃石を含まない花崗岩類には適用できない問題がある。一方、流紋岩などの火山岩類ではガラス(メルト)組成とQz-Ab-Or系の相平衡関係からマグマ溜まりの深度が検討されている。従って、花崗岩類についてもメルト組成を得ることができれば、マグマの固結圧力を制約することができると考えられる。しかしながら、花崗岩類にはガラスが含まれないため、直接メルト組成を得ることは困難である。本研究では、新たに花崗岩類に普遍的に含まれる鉱物であるジルコンに着目し、そのメルト包有物の均質化実験と組成解析を試み、花崗岩質岩体の固結圧力の検討を行った。
実験試料 本研究では、西南日本外帯酸性岩体の1つである中新世御内岩体を対象にジルコンメルト包有物の解析を行った。御内岩体の花崗岩類は石英・斜長石・カリ長石・黒雲母から構成され、ジルコン・燐灰石・スフェーン・電気石を副成分鉱物として含む。鏡下観察からジルコンは自形を呈し、主成分鉱物の粒間に認められた。全岩化学組成分析を行った10試料のうち、比較的Zr含有量の高い試料からジルコンを抽出し、SEM-EDSによりジルコンの内部構造を観察したところ、微細な石英・長石類からなる不定形の多相包有物(メルト包有物)が認められた。
実験方法 ジルコンメルト包有物の均質化実験はピストン-シリンダー型高温高圧発生装置を用いて0.3GPaで行った。まずメルト包有物を十分に均質化させるために1000℃まで加熱して1時間保持し、その後、試料の全岩化学組成から見積もったジルコン飽和温度(Watson & Harrison 1983 CMP)より、840℃で24 時間保持した。実験後の試料は室温まで急冷させたのち回収し、SEM-EDSにより反射電子像観察、化学組成分析を行った。
結果 御内岩体のメルト包有物のSiO2含有量は75~80 wt%の範囲であり、SiO2含有量の増加に対してAl2O3、CaO、Na2O、K2O含有量は減少する。また、岩体の全岩化学組成とメルト包有物組成を比較すると、ハーカー図においてNa2OとK2Oについては両組成トレンドが斜交する。さらに、御内岩体の全岩化学組成はMgO含有量が2.0 ~ 0.1 wt%、FeO含有量が4.0 ~ 0.3 wt%であるのに対し、メルト包有物組成についてはMgOは検出されず、FeO含有量も1.2 wt%以下と低く、全岩化学組成とメルト包有物組成のトレンドは大きく異なる。
考察 メルト包有物の組成は岩体の全岩化学組成トレンドのSiO2含有量の高いところに位置する。従って、ジルコンは結晶成長時に鉱物粒間の分化したメルトを包有物として取り込んだものと考えられるが、このことは鏡下観察からジルコンが主成分鉱物粒間に認められることと調和的である。メルト包有物組成はSiO2の増加に対して、Na2OとK2O含有量が減少するトレンドを示す。この組成トレンドの解釈として、(1)マグマ固結過程で組成変化するメルトが示すトレンド、(2)ジルコンがメルトとともに微細結晶を取り込んだ包有物を、実験により均質化させたことによる混合トレンド、の2つが考えられる。(1)については、マグマ固結過程でのメルトの組成変化は、岩体の全岩化学組成変化と同様の傾向を持つことが予想されるが、ハーカー図上において、Na2O、K2O、FeO、MgOはメルト包有物の組成トレンドが全岩化学組成トレンドとは大きく斜交している。これに対し、ハーカー図上にアルカリ長石の組成をプロットしたところ、メルト包有物の組成はアルカリ長石(Or:Ab=3:2)との混合線上に並ぶ。このことから、メルト包有物のうち、SiO2含有量が低く、Na2OとK2O含有量が高いものについては、メルトとアルカリ長石の微細結晶が混合したものである可能性が高い。このことは、SiO2含有量の低いメルト包有物がFeOやMgOをほとんど含まないこととも調和的である。 次に、固結圧力検討のために、メルト包有物組成の中でも特に微細結晶を含んでいる割合が低いと考えられるデータをノルムQz-Ab-Or図(Blundy & Cashman 2001 CMP)に投影した。その結果、メルト包有物組成はおよそ180~50 MPaの圧力範囲にプロットされる。御内岩体の産状のうち、貫入母岩との境界部近傍に見られる発泡痕や、変成岩ゼノリス中に含まれる紅柱石は、比較的圧力の低い地殻浅部への貫入を示唆する。御内岩体のメルト包有物組成から得られた固結圧力は、これらの低圧を示唆する産状と調和的である。
実験試料 本研究では、西南日本外帯酸性岩体の1つである中新世御内岩体を対象にジルコンメルト包有物の解析を行った。御内岩体の花崗岩類は石英・斜長石・カリ長石・黒雲母から構成され、ジルコン・燐灰石・スフェーン・電気石を副成分鉱物として含む。鏡下観察からジルコンは自形を呈し、主成分鉱物の粒間に認められた。全岩化学組成分析を行った10試料のうち、比較的Zr含有量の高い試料からジルコンを抽出し、SEM-EDSによりジルコンの内部構造を観察したところ、微細な石英・長石類からなる不定形の多相包有物(メルト包有物)が認められた。
実験方法 ジルコンメルト包有物の均質化実験はピストン-シリンダー型高温高圧発生装置を用いて0.3GPaで行った。まずメルト包有物を十分に均質化させるために1000℃まで加熱して1時間保持し、その後、試料の全岩化学組成から見積もったジルコン飽和温度(Watson & Harrison 1983 CMP)より、840℃で24 時間保持した。実験後の試料は室温まで急冷させたのち回収し、SEM-EDSにより反射電子像観察、化学組成分析を行った。
結果 御内岩体のメルト包有物のSiO2含有量は75~80 wt%の範囲であり、SiO2含有量の増加に対してAl2O3、CaO、Na2O、K2O含有量は減少する。また、岩体の全岩化学組成とメルト包有物組成を比較すると、ハーカー図においてNa2OとK2Oについては両組成トレンドが斜交する。さらに、御内岩体の全岩化学組成はMgO含有量が2.0 ~ 0.1 wt%、FeO含有量が4.0 ~ 0.3 wt%であるのに対し、メルト包有物組成についてはMgOは検出されず、FeO含有量も1.2 wt%以下と低く、全岩化学組成とメルト包有物組成のトレンドは大きく異なる。
考察 メルト包有物の組成は岩体の全岩化学組成トレンドのSiO2含有量の高いところに位置する。従って、ジルコンは結晶成長時に鉱物粒間の分化したメルトを包有物として取り込んだものと考えられるが、このことは鏡下観察からジルコンが主成分鉱物粒間に認められることと調和的である。メルト包有物組成はSiO2の増加に対して、Na2OとK2O含有量が減少するトレンドを示す。この組成トレンドの解釈として、(1)マグマ固結過程で組成変化するメルトが示すトレンド、(2)ジルコンがメルトとともに微細結晶を取り込んだ包有物を、実験により均質化させたことによる混合トレンド、の2つが考えられる。(1)については、マグマ固結過程でのメルトの組成変化は、岩体の全岩化学組成変化と同様の傾向を持つことが予想されるが、ハーカー図上において、Na2O、K2O、FeO、MgOはメルト包有物の組成トレンドが全岩化学組成トレンドとは大きく斜交している。これに対し、ハーカー図上にアルカリ長石の組成をプロットしたところ、メルト包有物の組成はアルカリ長石(Or:Ab=3:2)との混合線上に並ぶ。このことから、メルト包有物のうち、SiO2含有量が低く、Na2OとK2O含有量が高いものについては、メルトとアルカリ長石の微細結晶が混合したものである可能性が高い。このことは、SiO2含有量の低いメルト包有物がFeOやMgOをほとんど含まないこととも調和的である。 次に、固結圧力検討のために、メルト包有物組成の中でも特に微細結晶を含んでいる割合が低いと考えられるデータをノルムQz-Ab-Or図(Blundy & Cashman 2001 CMP)に投影した。その結果、メルト包有物組成はおよそ180~50 MPaの圧力範囲にプロットされる。御内岩体の産状のうち、貫入母岩との境界部近傍に見られる発泡痕や、変成岩ゼノリス中に含まれる紅柱石は、比較的圧力の低い地殻浅部への貫入を示唆する。御内岩体のメルト包有物組成から得られた固結圧力は、これらの低圧を示唆する産状と調和的である。