[T4-P-2] Continuity of rock distribution in the Cretaceous Paleo-Japan continental arc–trench system and regional stratigraphic correlation of forearc sedimentary basins
Keywords:Cretaceous, Japanese Islands, continental arc–trench system, forearc basin, regional stratigraphic correlation
白亜紀の堆積物は東アジアに広く分布しているが,その多くは陸成層である.しかし,日本列島の場合は,陸成から浅海成,そして沖合海成までの多様な岩相と生物相を記録しており,四万十帯北帯に代表される付加複合体も広く分布する.したがって,日本列島の白亜紀の地層は,東アジアや西太平洋縁辺部の古環境,気候,生態系に関する情報を含む豊富な地質学的情報を提供している.また,日本列島の白亜紀の古生態系を復元するためには,現実的なテクトニクスモデルに基づいた古地理学的復元も不可欠である.
そこで,白亜紀の日本列島の地質学的背景を理解するために,古日本陸弧−海溝系を構成していた岩石の分布や連続性の把握を試みた.白亜紀の深成岩,火山岩,堆積岩,付加体の時空間分布に関する最新の情報を整理・統合して,高橋・安藤 (2016) および安藤・高橋 (2017) に示した古地理図を基に白亜紀古日本陸弧–海溝系の復元を試みた.白亜紀の岩石分布は,西南日本弧と北東日本弧で大きく異なるが,大陸側から海洋側に1) 弧内・弧間・背弧堆積盆における非海成堆積岩類,2) 火成弧における花崗岩類と火山岩類,3) 前弧堆積盆における主に海成で河川成を伴う堆積岩類,4) 付加体におけるタービダイト相とメランジュ相の堆積岩類が帯状配列する.
そして,九州から北海道にかけての背弧,弧内・弧間,前弧堆積盆に分布する総計71地域(サハリン南部1地域,北海道東部 (千島弧) 2地域を含む)における白亜系について,地質年代や主要な堆積相に基づいて広域対比を行い,3枚の地質柱状対比図にまとめた.東北日本弧と西南日本弧の個々の地域における地層の時代範囲は短いことが多く,堆積相もそれぞれ異なることが少なくないが,全体で見ると白亜紀前期から末期まで広がっており,主要な堆積相とその分布傾向は概ね類似しており,大きな差異や広域不整合も認め難い.東北日本では白亜紀/古第三紀境界付近の地層は広域不整合で認められないが,上位の暁新統が断続的に確認できる (Ando, 2003; 安藤, 2005, 2006).化石相や古生物地理研究からは,東北日本,西南日本ともに同一の北西太平洋の温帯域生物相が分布すると解釈されている.したがって,白亜紀には前弧堆積盆が両弧全体に続いていたことが示唆される.
ただし,北海道の空知−エゾ帯中軸部に分布する前弧堆積物の蝦夷層群が整合に重なる,先アプチアン下部白亜系〜上部ジュラ系の空知層群は前弧堆積盆起源ではなく,オフィオライト起源の基盤岩であり,北海道における独特な地質背景を反映する.
東北日本の前弧の白亜系は北海道以北を除くと散点的にしか陸上露出していないが,東北地方の太平洋沖合 (三陸沖〜鹿島沖) 海底下には,幅数十km以上の範囲にわたって前弧堆積盆の厚い白亜系が南北に連続的に広がっていると推定されている (馬場, 2017). その層序範囲は下部白亜系におよび,一部はジュラ系に達しているかもしれない.一方,西南日本の前弧堆積物は,1) 外帯の秩父帯 (関東山地〜九州) に断続的に分布するものと,2) 紀伊半島〜四国の内帯南縁沿いに連続する和泉層群とその西方の九州中央部に分布する地層群,および和泉層群の東方延長とされる紀伊半島中部から関東に点在する地層群の2列をなしている.この顕著な帯状構造は,中新世の日本海拡大とそれに伴うテクトニズムによるものと考えられている.したがって,西南日本と東北日本の白亜系の顕著な分布や地質構造の違いは,新第三紀以降のテクトニクスの違いに起因している.そうすると,東北太平洋沖海底下の白亜系の構造の方が,初生的な白亜紀前弧堆積盆の状態をよく保存していると解釈できる.
こうした,地質学的背景から,サハリン南部まで含めれば,基本的には2,500 kmにおよぶ一連の白亜紀古日本陸弧−海溝系が連続していたものと復元される.
文 献:Ando, 2003, Journal of Asian Earth Science, 21, 919-933/安藤,2005,石油技術協会誌,70, 24-36/安藤, 2006, 地質学雑誌,112,84-97/高橋・安藤, 2016, 化石, 100, 45-59/安藤・高橋, 2017, 化石, 102, 43-62/馬場, 2017, 日本地方地質誌2 東北地方,427-478,朝倉書店
そこで,白亜紀の日本列島の地質学的背景を理解するために,古日本陸弧−海溝系を構成していた岩石の分布や連続性の把握を試みた.白亜紀の深成岩,火山岩,堆積岩,付加体の時空間分布に関する最新の情報を整理・統合して,高橋・安藤 (2016) および安藤・高橋 (2017) に示した古地理図を基に白亜紀古日本陸弧–海溝系の復元を試みた.白亜紀の岩石分布は,西南日本弧と北東日本弧で大きく異なるが,大陸側から海洋側に1) 弧内・弧間・背弧堆積盆における非海成堆積岩類,2) 火成弧における花崗岩類と火山岩類,3) 前弧堆積盆における主に海成で河川成を伴う堆積岩類,4) 付加体におけるタービダイト相とメランジュ相の堆積岩類が帯状配列する.
そして,九州から北海道にかけての背弧,弧内・弧間,前弧堆積盆に分布する総計71地域(サハリン南部1地域,北海道東部 (千島弧) 2地域を含む)における白亜系について,地質年代や主要な堆積相に基づいて広域対比を行い,3枚の地質柱状対比図にまとめた.東北日本弧と西南日本弧の個々の地域における地層の時代範囲は短いことが多く,堆積相もそれぞれ異なることが少なくないが,全体で見ると白亜紀前期から末期まで広がっており,主要な堆積相とその分布傾向は概ね類似しており,大きな差異や広域不整合も認め難い.東北日本では白亜紀/古第三紀境界付近の地層は広域不整合で認められないが,上位の暁新統が断続的に確認できる (Ando, 2003; 安藤, 2005, 2006).化石相や古生物地理研究からは,東北日本,西南日本ともに同一の北西太平洋の温帯域生物相が分布すると解釈されている.したがって,白亜紀には前弧堆積盆が両弧全体に続いていたことが示唆される.
ただし,北海道の空知−エゾ帯中軸部に分布する前弧堆積物の蝦夷層群が整合に重なる,先アプチアン下部白亜系〜上部ジュラ系の空知層群は前弧堆積盆起源ではなく,オフィオライト起源の基盤岩であり,北海道における独特な地質背景を反映する.
東北日本の前弧の白亜系は北海道以北を除くと散点的にしか陸上露出していないが,東北地方の太平洋沖合 (三陸沖〜鹿島沖) 海底下には,幅数十km以上の範囲にわたって前弧堆積盆の厚い白亜系が南北に連続的に広がっていると推定されている (馬場, 2017). その層序範囲は下部白亜系におよび,一部はジュラ系に達しているかもしれない.一方,西南日本の前弧堆積物は,1) 外帯の秩父帯 (関東山地〜九州) に断続的に分布するものと,2) 紀伊半島〜四国の内帯南縁沿いに連続する和泉層群とその西方の九州中央部に分布する地層群,および和泉層群の東方延長とされる紀伊半島中部から関東に点在する地層群の2列をなしている.この顕著な帯状構造は,中新世の日本海拡大とそれに伴うテクトニズムによるものと考えられている.したがって,西南日本と東北日本の白亜系の顕著な分布や地質構造の違いは,新第三紀以降のテクトニクスの違いに起因している.そうすると,東北太平洋沖海底下の白亜系の構造の方が,初生的な白亜紀前弧堆積盆の状態をよく保存していると解釈できる.
こうした,地質学的背景から,サハリン南部まで含めれば,基本的には2,500 kmにおよぶ一連の白亜紀古日本陸弧−海溝系が連続していたものと復元される.
文 献:Ando, 2003, Journal of Asian Earth Science, 21, 919-933/安藤,2005,石油技術協会誌,70, 24-36/安藤, 2006, 地質学雑誌,112,84-97/高橋・安藤, 2016, 化石, 100, 45-59/安藤・高橋, 2017, 化石, 102, 43-62/馬場, 2017, 日本地方地質誌2 東北地方,427-478,朝倉書店