11:15 AM - 11:30 AM
[T2-O-6] (entry) Garnet amphibolite and trondhjemite from Wakasa, Tottori Prefecture: Evidence for Paleozoic slab melting?
★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
Keywords:Renge metamorphic rocks, garnet amphibolite, trondhjemite, partial melting
はじめに
ザクロ石角閃岩の部分融解は,造山帯の下部地殻や高い地温勾配下(20℃/km)で沈み込んだ海洋地殻に起こりうる重要なプロセスである.世界のいくつかの沈み込み型変成帯において,ザクロ石角閃岩とトーナル岩~トロニエム岩の組合せは,沈み込んだ海洋地殻の部分融解を示すものとして報告されている(例えば,Garcia-Casco et al., 2008).今回,鳥取県若桜地域の蛇紋岩中から,ザクロ石角閃岩とそれに伴うトロニエム岩を発見した.本発表では,これら岩石が高温沈み込み帯における部分融解を示している可能性について議論する.
地質背景と産状
鳥取県東部の若桜地域に分布する志谷層は,約300Maの変成年代を持つ蓮華変成岩(高P/T)である (Nishimura and Shibata, 1989).志谷層は泥質片岩と苦鉄質片岩から構成され,大江山オフィオライト相当の超苦鉄質岩類や変斑レイ岩を伴う.泥質片岩は緑泥石帯からザクロ石帯への累進変成作用を示し(Yamaguchi, 1990),一部の苦鉄質片岩には青色片岩相の鉱物組合せが認められる(Kabir and Takasu, 2021).超苦鉄質岩類は原岩(主にハルツバージャイト)の組織を残す塊状蛇紋岩から,面構造の強く発達した片状蛇紋岩まで変化する.そして,片状蛇紋岩により志谷層とは隔てられた高変成度(ザクロ石+黒雲母+オリゴクレースの組合せをもつ)な泥質片岩の分布を初めて確認した.この泥質片岩中にブーディン状にザクロ石角閃岩およびトロニエム岩を産する.
岩石記載
ザクロ石角閃岩は,優黒質なタイプと,優黒質部を切る不規則な優白質部を含むタイプに分類できる.優黒質部は主に自形のザクロ石,褐色角閃石(パーガス閃石~マグネシオホルンブレンド),チタナイトにより構成され,ザクロ石中には多量の斜長石,石英,ルチル,緑れん石が包有される.斜長石包有物は石英を伴い多角形の輪郭を示す.優白質部は斜長石,石英,白雲母,ゾイサイト,緑れん石,チタナイトにより構成され,トロニエム岩はより粗粒な岩石であるが同様の構成鉱物をもつ.ザクロ石に包有される斜長石はオリゴクレース(An27)であるが,優白質部およびトロニエム岩の斜長石は部分的にオリゴクレース(An12)が残存するものの,大部分はアルバイトと微細なゾイサイトに分解している.優黒質部のザクロ石は自形の斑状変晶で,昇温期の累帯構造(コアAlm61Grs26Prp7Sps6からリムAlm58Grs25Prp15Sps2)を保持している.一方,優白質部では,ザクロ石が自形の輪郭を残して斜長石+石英に置き換えられた「ゴースト」が多数観察される. 優黒質部のザクロ石中には,ジルコンや石英とともにルチルが包有されるため,Zr-in-Rutile温度計(Tomkins et al., 2007)を適用した結果,最高で約660℃(1 GPa)となった.また,基質の褐色角閃石にTi-in-Ca角閃石温度計(Liao et al., 2021)を適用すると最高で約700℃と推定された.
議論
ピーク温度を660-700℃とすると,玄武岩系の含水ソリダスを越えるため,ザクロ石角閃岩が部分融解を経験した可能性がある.また,ザクロ石中の斜長石+石英包有物はメルト包有物が結晶化したものかもしれない.優白質部は,優黒質部の構造を切っており,「ゴースト」ザクロ石の存在とあわせて,ピーク以降に形成されたことを示す.ザクロ石角閃岩の優白質部とトロニエム岩は同様な岩石学的特徴をもつ.ザクロ石角閃岩の優黒質部はレスタイト,トロニエム岩はメルトと考えられるが,地球化学的検討が必要である.また,ザクロ石が昇温累帯構造をもつことは,下部地殻の融解よりも,沈み込んだ海洋地殻の融解を支持するように思われるが決定的ではない.スラブ融解として考える場合,青色片岩を形成するような志谷層の変成作用(Kabir and Takasu, 2021)とは異なる高温沈み込みが起きたテクトニクスを説明する必要があり,部分融解イベントの年代決定も必要である.
文献:Garcia-Casco et al. (2008) J. Petrol. 49, 129-161; Kabir and Takasu (2021) Earth Sci. 75, 19-32; Liao et al. (2021) Am. Min. 106, 180-191; Nishimura and Shibata (1989) Mem. Geol. Soc. Japan, 33, 343-357; Tomkins et al. (2007) J. Metamor. Geol. 25, 703-713; Yamaguchi (1990) Geol. Rept. Shimane Univ. 9, 29-36
ザクロ石角閃岩の部分融解は,造山帯の下部地殻や高い地温勾配下(20℃/km)で沈み込んだ海洋地殻に起こりうる重要なプロセスである.世界のいくつかの沈み込み型変成帯において,ザクロ石角閃岩とトーナル岩~トロニエム岩の組合せは,沈み込んだ海洋地殻の部分融解を示すものとして報告されている(例えば,Garcia-Casco et al., 2008).今回,鳥取県若桜地域の蛇紋岩中から,ザクロ石角閃岩とそれに伴うトロニエム岩を発見した.本発表では,これら岩石が高温沈み込み帯における部分融解を示している可能性について議論する.
地質背景と産状
鳥取県東部の若桜地域に分布する志谷層は,約300Maの変成年代を持つ蓮華変成岩(高P/T)である (Nishimura and Shibata, 1989).志谷層は泥質片岩と苦鉄質片岩から構成され,大江山オフィオライト相当の超苦鉄質岩類や変斑レイ岩を伴う.泥質片岩は緑泥石帯からザクロ石帯への累進変成作用を示し(Yamaguchi, 1990),一部の苦鉄質片岩には青色片岩相の鉱物組合せが認められる(Kabir and Takasu, 2021).超苦鉄質岩類は原岩(主にハルツバージャイト)の組織を残す塊状蛇紋岩から,面構造の強く発達した片状蛇紋岩まで変化する.そして,片状蛇紋岩により志谷層とは隔てられた高変成度(ザクロ石+黒雲母+オリゴクレースの組合せをもつ)な泥質片岩の分布を初めて確認した.この泥質片岩中にブーディン状にザクロ石角閃岩およびトロニエム岩を産する.
岩石記載
ザクロ石角閃岩は,優黒質なタイプと,優黒質部を切る不規則な優白質部を含むタイプに分類できる.優黒質部は主に自形のザクロ石,褐色角閃石(パーガス閃石~マグネシオホルンブレンド),チタナイトにより構成され,ザクロ石中には多量の斜長石,石英,ルチル,緑れん石が包有される.斜長石包有物は石英を伴い多角形の輪郭を示す.優白質部は斜長石,石英,白雲母,ゾイサイト,緑れん石,チタナイトにより構成され,トロニエム岩はより粗粒な岩石であるが同様の構成鉱物をもつ.ザクロ石に包有される斜長石はオリゴクレース(An27)であるが,優白質部およびトロニエム岩の斜長石は部分的にオリゴクレース(An12)が残存するものの,大部分はアルバイトと微細なゾイサイトに分解している.優黒質部のザクロ石は自形の斑状変晶で,昇温期の累帯構造(コアAlm61Grs26Prp7Sps6からリムAlm58Grs25Prp15Sps2)を保持している.一方,優白質部では,ザクロ石が自形の輪郭を残して斜長石+石英に置き換えられた「ゴースト」が多数観察される. 優黒質部のザクロ石中には,ジルコンや石英とともにルチルが包有されるため,Zr-in-Rutile温度計(Tomkins et al., 2007)を適用した結果,最高で約660℃(1 GPa)となった.また,基質の褐色角閃石にTi-in-Ca角閃石温度計(Liao et al., 2021)を適用すると最高で約700℃と推定された.
議論
ピーク温度を660-700℃とすると,玄武岩系の含水ソリダスを越えるため,ザクロ石角閃岩が部分融解を経験した可能性がある.また,ザクロ石中の斜長石+石英包有物はメルト包有物が結晶化したものかもしれない.優白質部は,優黒質部の構造を切っており,「ゴースト」ザクロ石の存在とあわせて,ピーク以降に形成されたことを示す.ザクロ石角閃岩の優白質部とトロニエム岩は同様な岩石学的特徴をもつ.ザクロ石角閃岩の優黒質部はレスタイト,トロニエム岩はメルトと考えられるが,地球化学的検討が必要である.また,ザクロ石が昇温累帯構造をもつことは,下部地殻の融解よりも,沈み込んだ海洋地殻の融解を支持するように思われるが決定的ではない.スラブ融解として考える場合,青色片岩を形成するような志谷層の変成作用(Kabir and Takasu, 2021)とは異なる高温沈み込みが起きたテクトニクスを説明する必要があり,部分融解イベントの年代決定も必要である.
文献:Garcia-Casco et al. (2008) J. Petrol. 49, 129-161; Kabir and Takasu (2021) Earth Sci. 75, 19-32; Liao et al. (2021) Am. Min. 106, 180-191; Nishimura and Shibata (1989) Mem. Geol. Soc. Japan, 33, 343-357; Tomkins et al. (2007) J. Metamor. Geol. 25, 703-713; Yamaguchi (1990) Geol. Rept. Shimane Univ. 9, 29-36