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[T2-O-17] Horokanai Area in the Kamuikotan Belt as the type locality of triple point blueschist.
Keywords:Triple point blueschist, Lawsonite blueschist, Pumpellyite blueschist, Epidote blueschist, Horokanai area
青色片岩(BS)は沈み込み帯浅部の流体活動を理解する際の重要な研究素材である。例えば、ローソン石(Lws), 緑簾石(Ep), パンペリー石(Pmp)の消長は、沈み込むスラブがH2Oの貯蔵庫となるか供給源になるかを左右する。ACF-3成分系のモデル計算では、Lws, Ep, Pmpを伴うBSはPT図上の1点で安定であるという提案がなされており (e.g., Katzil et al. 2000;JMG,18,699-718), このようなBSをTriple point BSと呼ぶことにする。 神居古潭変成帯・幌加内地域のBSには、柴草(1974;地質雑, 80, 341-353)により3種類のCaAl含水ケイ酸塩の出現が報告されており、Triple point BSに該当する。我々は当該地域の岩石の鉱物共生を検討した結果、Triple point BSの三重点を定義する反応を同定したので、以下に報告する。 旭川市江丹別町からその北西の幌加内町には神居古潭変成岩が分布している。幌加内峠~江丹別峠~冬路山~シラッケ山を結ぶ稜線より南方は、弱変形岩が卓越し、概ね、柴草(1974)のZone I (Lws-Pmp帯)、或いは、榊原ほか(2007;地質雑,113Suppl., 103-118)の美瑛ユニットに相当する。それに対して、稜線より北方は、柴草(1974)のZone II/III(Ep帯)、或いは、榊原ほか(2007)の幌加内ユニットに相当し、片岩が卓越する。Ep-BSの出現はこの地域に限られる。我々は江丹別峠周辺で、以下のような鉱物組合せ変化を確認した。なお、緑泥石(Chl)、白雲母、石英、アルバイト(Ab)はほぼすべての変成岩に含まれている。江丹別峠の頂上付近とその南麓では、Lws+アルカリ輝石(Napx)+/-Pmp組合せが卓越する。江丹別峠北麓の道道沿いの標高360~345m付近の露頭では片理が顕著になり、Lws-Namp組合せ、即ちLws-BSが出現する。さらに、標高345m付近より北方では、Ep-Namp組合せ、即ち、Ep-BSが出現する。榊原ほか(2007)はシラッケ山付近とその南方ではLws+Napx組合せが卓越し、その北方ではLws+Ep+Namp共生に変化することを報告している。以上のことから、柴草(1974)のZone IはPmp-ディオプサイド相、Zone II/IIIは青色片岩相と定義できる。上記の鉱物組み合わせ変化は、Al-Ca-(Fe+Mg)-Fe3+の仮想4成分系で以下の様になる: ・Lws-BS形成反応:Napx + Pmp + Chl + H2O = Lws + Namp (1) ・Ep-BS形成反応:Napx + Pmp + Chl = Ep + Namp + H2 O (2) これら2つの反応の関係性を推定するために、上記6相にアクチノ閃石(Tr)とヘマタイト(Hem)加えた4成分8相系でpetrogenetic grid を作成した。幾何学的に可能な複数のgridのうち、幌加内地域で確認したNapx-Chl-Ep共生が見られるNapxとChlがEpと共存するgridを選んだ。得られたgridでは、緩やかな負の勾配を示す反応(1)と正の大きな勾配を示す反応(2)はTrとHemを欠く不変点[Tr, Hem]から、それぞれ、低温側と低圧側に射出すること、また、この不変点はPmp-BS領域のほぼ中央部に存在し、この不変点より高圧側にはLws-BS、高温側にはEp-BSの安定領域が広がっていることが判った。弱変形岩を代表するLws-Napx-Pmp組合せは、反応(1)の低圧側か、反応(2)の低温側で安定となり、昇圧・昇温によりLws/Ep-BSに変化したと解釈できる。Epを含む組合せは、不変点[Tr, Hem]から正の急勾配で低圧側に射出する反応, Pmp + Lws + Napx = Ep + Chl + H2O (3), 或いは、正の勾配で高圧側に射出する反応, Namp + Lws + Napx = Ep + Chl + H2O (4), の近傍で安定であることが分かった。 当該地域の変成温度は炭質物Raman温度計から、280-300℃とされている(苗村ほか, 2022;日本鉱物科学会年会要旨)。圧力はAb・霰石の存在から0.6-0.8GPa程度である。この温度域は、石英の塑性-脆性遷移領域に当たり、幌加内地域では、Lws/Ep-BSの出現ととともに、片理の発達が顕著になることと相補的である。また、(2)~(4)の反応で放出される脱水流体は、片理を切って成長するLwsの粗粒化やその脈状の産状に寄与している可能性が高い。日本列島では三波川帯、蓮華帯、周防帯、長崎変成帯、黒瀬川帯などで青色片岩の産地が知られているが、広域的にTriple Point BSが産出するのは幌加内地域のみであり、貴重な地質資源と言える。