日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T2[トピック]変成岩とテクトニクス【EDI】

[2oral113-21] T2[トピック]変成岩とテクトニクス【EDI】

2023年9月18日(月) 15:00 〜 17:30 口頭第1会場 (4共11:吉田南4号館)

座長:田口 知樹(早稲田大学)、遠藤 俊祐(島根大学)

17:00 〜 17:15

[T2-O-16] 前弧域蛇紋岩のB同位体比傾向:グローバルリファレンス値提案のための取り組み

*辻森 樹1、小橋 知佳1、山田 千夏、常 青2 (1. 東北大学、2. 海洋研究開発機構)

キーワード:蛇紋岩、B同位体比、前弧域、マントルウェッジ

海洋プレート沈み込み帯において、スラブから放出される水流体(スラブ由来流体)は、化学平衡にあった母岩を構成する鉱物相との元素分配・同位体分別や流体が岩石中を移動する間の岩石−水流体相互作用によって、大きく化学組成と酸素雰囲気を変えうる。そのため、スラブ由来流体の化学的特徴を制約することは一般に容易ではない。しかしながら、前弧域の含水マントルウェッジに浸潤したスラブ由来流体については、前弧域の蛇紋岩に着目することで、より確からしい情報を解読できる可能性がある。著者らは、局所Li-B同位体比分析法(Kimura et al., 2016)の開発以降、前弧域の含水マントルウェッジを起源とする蛇紋岩、すなわち前弧域の蛇紋岩緩衝熱水系に着目し、沈殿交代岩脈及び蛇紋岩そのものを解析することで地球化学的プロパティーの推定を試みてきた。本講演では前弧域の蛇紋岩のB同位体比のリファレンス値(あるいはリファレンス幅)を決めるための取り組みについて紹介する。
 Bには質量数10と11が存在し、とくに11Bは選択的に液相に分別するため、理想的には沈み込むスラブから放出される流体のB同位体比は徐々に軽くなる(値が小さくなる)。したがって、スラブ由来流体の影響を直接被る含水マントルウェッジ蛇紋岩のB同位体比は、深部ほど低くなることが予想される。実際、Martin et al. (2016, 2020) や Yamada, Tsujimori et al. (2019a,b) が示したように、オロジェンに露出した蛇紋岩のB同位体比により、B濃度に関わらず、含水マントルウェッジの深部にあった蛇紋岩(あるいは沈み込んだ蛇紋岩)とそうでないものの識別がおおよそ可能である。ところが、Bの同位体分別は温度によっても大きく変わるほか、pHの違いによっても変わる可能性がある。微量元素濃度による評価も効果的であるが、微量元素濃度は蛇紋岩化する以前のマントルかんらん岩のそれにも依存しうる。著者らは前弧域の蛇紋岩のB同位体比の幅を見極めるため、北米西岸、西南日本内帯、北上山地南部などの顕生代の前弧域由来の蛇紋岩について420点に達するB同位体比データを得た。B同位体比は–12‰から+30‰(B濃度は8–930 µg/g)と非常に大きな幅をもつものの、地質学的・岩石学的な評価からスラブ由来流体が浸潤した前弧域の蛇紋岩が示しうるB同位体比と濃度の特徴を絞り込める可能性がある。講演では、我々の研究チーム以外が最近までに公表してきた世界の蛇紋岩のB同位体比の研究成果も評価しつつ予察的な前弧域蛇紋岩のリファレンス値(あるいはリファレンス幅)を提案したい。
《引用文献》
- Kimura, J.-I., Chang, Q., Ishikawa, T., Tsujimori, T. (2016) JAAS, https://doi.org/10.1039/C6JA00283
- Martin, C., Flores, K.E., Harlow, G.E. (2016) Geology, https://doi.org/10.1130/G38102.1
- Martin, C., Flores, K.E., Vitale-Brovarone, A., Angiboust, S., Harlow, G.E. (2016) Chem. Geol., https://doi.org/10.1016/j.chemgeo.2020.119637
- Yamada, C., Tsujimori, T., Chang, Q., Kimura, J.-I., 2019a, Lithos, https://doi.org/10.1016/j.lithos.2019.02.004
- Yamada, C., Tsujimori, T., Chang, Q., Kimura, J.-I., 2019b, JMPS, https://doi.org/10.2465/jmps.190726