4:45 PM - 5:00 PM
[T2-O-15] (entry) Decoding subduction zone fluids: Insights from phengite O–H isotope geochemistry along the N–S transect of the Sambagawa Belt, central Shikoku
★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
Keywords:Sambagawa Belt, oxygen isotope , hydrogen isotope , traverse, phengite
変成地帯において、その温度構造に直交する横断線(トラバース)に沿った地質学・岩石学・地球化学的情報の抽出は、変成条件の変化に伴った物理化学的応答を天然から読み解く効果的な手段である。高圧変成帯においては、プレート収束域における元素の挙動を明らかにするため、みかけの変成度上昇に伴う岩石の地球化学的特徴の変化が記載されてきた(例えば、Busigny et al., 2003; Stepanov, 2021など)。本講演では、四国中央部三波川帯の南北横断線に沿って採取された試料(トラバース試料)についてのフェンジャイトの酸素・水素安定同位体組成の意義を評価する。変成地帯における変化傾向の比較の他、PTloop (Vho et al., 2020) を用いた三波川帯の高圧変成岩に対する酸素同位体モデリングによる検討についても紹介する。
四国中央部三波川帯汗見川−銅山川ルートのフェンジャイト84試料(Itaya &Takasugi (1988) によりK–Ar年代測定が行われたもの)の酸素・水素同位体組成はみかけの変成度の上昇に伴った変化傾向をもつ(Asemigawa Meta-Pelite Phengite Line [AMPPL]: 辻森, 2022)。フェンジャイトのK含有量とH2O量に基づいて選別した泥質片岩50試料の酸素、水素同位体組成 (δ18O[‰ VSMOW]、δD[‰ VSMOW]) はそれぞれ+11.0 to +16.2‰、–82.8 to –45.2‰と幅広い同位体組成を示し、各鉱物帯の平均値は変成度の上昇に伴ってわずかに上昇してAMPPL上に乗る。また、フェンジャイトの微量元素組成の特徴とSr同位体比(87Sr/86Sr = 0.70955–0.71836: 年代補正なし)との間には相関は見られない。既存のフェンジャイト–水流体間の酸素同位体分別係数 (Zheng, 1993) を用いると、フェンジャイトと平衡であった水流体のδ18O値もみかけの変成度の上昇に伴って高くなると予想される。なお、北米西岸カタリナ島では変成度に関わらず高圧変成岩と平衡にあった水流体の同位体組成は一定であることが示されているが (Bebout, 1991)、それとは異なる傾向である。近年、Vho et al. (2020) は酸素同位体モデリング (PTloop)を用いて、沈み込みに伴う全岩及び構成鉱物のδ18O変化を推定した。Vho et al. (2020) によるモデリングは、外部由来流体との相互作用がない場合には変成堆積岩の全岩及び構成鉱物のδ18O値は大きく変化しないが、苦鉄質・超苦鉄質岩における脱水反応に由来する流体と相互作用を起こした場合には沈み込みの進行に伴って変成堆積岩の全岩及び各構成鉱物のδ18O値が大きく低下することを示した。汗見川−銅山川ルートに沿った泥質片岩のフェンジャイトは堆積物として妥当な高いδ18O値をもち、変成度上昇に伴ったδ18O値の顕著な低下も見られない。その一方で、同ルートの苦鉄質片岩のフェンジャイトの多くが泥質片岩と同程度のδ18O値を示した。後退変成作用時に苦鉄質片岩、泥質片岩の両者に堆積物起源の外部由来流体が相互作用した可能性は否定できないもののの、泥質片岩のフェンジャイトは原岩のδ18O値の特徴を保持し、苦鉄質片岩のフェンジャイトの値は泥質片岩の脱水反応によって生じた水流体との同位体交換を反映した可能性が高い。
引用文献
Bebout, 1991. Science 251, 413–416. https://doi.org/10.1126/science.251.4992.413
Busigny et al., 2003. Earth Planet. Sci. Lett. 215, 27–42. https://doi.org/10.1016/S0012-821X(03)00453-9
Itaya &Takasugi, 1988. Contrib. Mineral. Petrol. 100, 281–290. https://doi.org/10.1007/BF00379739
Stepanov, 2021. Chem. Geol. 568, 120080. https://doi.org/10.1016/j.chemgeo.2021.120080
辻森, 2022. 岩石鉱物科学 55, 220310. https://doi.org/10.2465/gkk.220310
Vho et al., 2020. https://doi.org/10.5194/se-11-307-2020
Zheng, 1993. https://doi.org/10.1016/0012-821X(93)90243-3
四国中央部三波川帯汗見川−銅山川ルートのフェンジャイト84試料(Itaya &Takasugi (1988) によりK–Ar年代測定が行われたもの)の酸素・水素同位体組成はみかけの変成度の上昇に伴った変化傾向をもつ(Asemigawa Meta-Pelite Phengite Line [AMPPL]: 辻森, 2022)。フェンジャイトのK含有量とH2O量に基づいて選別した泥質片岩50試料の酸素、水素同位体組成 (δ18O[‰ VSMOW]、δD[‰ VSMOW]) はそれぞれ+11.0 to +16.2‰、–82.8 to –45.2‰と幅広い同位体組成を示し、各鉱物帯の平均値は変成度の上昇に伴ってわずかに上昇してAMPPL上に乗る。また、フェンジャイトの微量元素組成の特徴とSr同位体比(87Sr/86Sr = 0.70955–0.71836: 年代補正なし)との間には相関は見られない。既存のフェンジャイト–水流体間の酸素同位体分別係数 (Zheng, 1993) を用いると、フェンジャイトと平衡であった水流体のδ18O値もみかけの変成度の上昇に伴って高くなると予想される。なお、北米西岸カタリナ島では変成度に関わらず高圧変成岩と平衡にあった水流体の同位体組成は一定であることが示されているが (Bebout, 1991)、それとは異なる傾向である。近年、Vho et al. (2020) は酸素同位体モデリング (PTloop)を用いて、沈み込みに伴う全岩及び構成鉱物のδ18O変化を推定した。Vho et al. (2020) によるモデリングは、外部由来流体との相互作用がない場合には変成堆積岩の全岩及び構成鉱物のδ18O値は大きく変化しないが、苦鉄質・超苦鉄質岩における脱水反応に由来する流体と相互作用を起こした場合には沈み込みの進行に伴って変成堆積岩の全岩及び各構成鉱物のδ18O値が大きく低下することを示した。汗見川−銅山川ルートに沿った泥質片岩のフェンジャイトは堆積物として妥当な高いδ18O値をもち、変成度上昇に伴ったδ18O値の顕著な低下も見られない。その一方で、同ルートの苦鉄質片岩のフェンジャイトの多くが泥質片岩と同程度のδ18O値を示した。後退変成作用時に苦鉄質片岩、泥質片岩の両者に堆積物起源の外部由来流体が相互作用した可能性は否定できないもののの、泥質片岩のフェンジャイトは原岩のδ18O値の特徴を保持し、苦鉄質片岩のフェンジャイトの値は泥質片岩の脱水反応によって生じた水流体との同位体交換を反映した可能性が高い。
引用文献
Bebout, 1991. Science 251, 413–416. https://doi.org/10.1126/science.251.4992.413
Busigny et al., 2003. Earth Planet. Sci. Lett. 215, 27–42. https://doi.org/10.1016/S0012-821X(03)00453-9
Itaya &Takasugi, 1988. Contrib. Mineral. Petrol. 100, 281–290. https://doi.org/10.1007/BF00379739
Stepanov, 2021. Chem. Geol. 568, 120080. https://doi.org/10.1016/j.chemgeo.2021.120080
辻森, 2022. 岩石鉱物科学 55, 220310. https://doi.org/10.2465/gkk.220310
Vho et al., 2020. https://doi.org/10.5194/se-11-307-2020
Zheng, 1993. https://doi.org/10.1016/0012-821X(93)90243-3