3:30 PM - 3:45 PM
[T12-O-14] Secular change of atmospheric oxygen contents and biological evolution through the Proterozoic: Environmental change-driven Eukaryote evolution through phagocytosis
Keywords:Proterozoic, evolution of Eukaryote, atmospheric oxygen content, endosymbiosis and phagocytosis, Crisis biological evolution hypothesis
真核生物の起源と進化は、地球生命進化の重要な問題とされる。特に、真核生物の進化は、多細胞生物・多細胞動物の出現と進化の前提・必須条件となるため、高等生物の存在に特徴づけられる地球を形作る上で欠かすことのできない最重要事象である。 真核生物はヒューロニアン全球凍結とそれに続く大酸化イベント(GOE)・オーバーシュート後に出現したとされ、多細胞真核生物、すなわち藻類は、原生代中期に出現したとされる。 特に前者は、化石記録では19億年前、分子時計では21億年前頃とされ、後者は化石記録では16.5億年前、分子時計では17~16億年前頃とされる。真核生物は好気呼吸をするため、従来の考えでは大気酸素濃度(pO2)は、原生代を通じ、好気呼吸の閾値(パスツール点)よりも高かったと考えられてきた(例:Kasting 93; Lyons et al. 14)。 しかし最近、それは見直されつつあり (Lyons et al. 21)、黒色頁岩のCr同位体の経年変化 (Planavsky et al. 18)や湖沼堆積岩の3種酸素同位体値 (Planavsky et al. 20;c.f. Liu et al. 21)から、オーバーシュート後の原生代前期や中期の酸素濃度はパスツール点以下であったことも示唆されている。 さらに、後生動物でさえも、パスツール点以下の条件で生存できることが示され、パスツール点自体にも議論がある (Mills & Canfield 14)。 一方、原生代のpO2が、(いくつかの時代で)高かったことが、炭酸塩鉱物のヨウ素含有量(例:Lu et al. 18)、黄鉄鉱中のSe/Co 比(例:Large et al. 19)及び炭酸塩岩、黒色頁岩および縞状鉄鉱層のCr同位体値(Canfield et al. 18)から示唆されてもいる。 本研究では、従来の原生代の大気酸素濃度の推定結果を整理するとともに、大気酸素濃度変動が生命進化を駆動したとする新しい生命進化モデルを提案する。
原生代を通じた 海洋の酸化還元度(pO2の指標となる)を推定するために、黒色頁岩の酸化還元鋭敏元素 (RSE) 含有量、炭酸塩岩のヨウ素含有量および炭酸塩岩の Cr 同位体比の経年変化をまとめた。特に、黒色頁岩のRSE 含有量は先行研究に比べて大幅にデータ数を増やし、より詳細に変動を推定できるようにした。それらのデータは海洋の酸化還元度が原生代を通して、細かに変動したことを示しており、特に、 酸化度は22、15および8 億年前に高く、17 と 12 億年前頃に低かったことを示唆する。一方、上述のように分子時計や化石記録は、真核生物、多細胞真核生物(藻類)およびアルベオラータの出現がそれぞれ21~19億年前、17~16億年前および12 億年前頃であったことを示唆しており(Strassert et al. 21; Baludikay et al. 16; Javaux & Lepot 18)、真核生物の出現は大気酸素濃度の高かった時期、一方多細胞真核生物(藻類)やアルベオラータの出現は大気酸素濃度の低い時期と一致する。
近年では、生物と地球の共進化は広く議論されており (例: Williams & Da Silva 03)、地球生命進化史において多くの事例が挙げられている。その一つとして、原生代においてpO2 の増加が真核生物を進化させたとする仮説が提案されている(例: Condie & Sloan 98)。 しかし、本研究は、地球環境進化と生命進化において、従来とは大きく異なる二つの新たなことを明らかにした。一つは原生代の大気酸素濃度は低い状態が続いたわけでも、単調に増加したのでもなく、非常に大きくかつ細かに変動していたこと、もう一つは真核生物の出現は高い大気酸素濃度期に、一方藻類やアルベオラータの出現は低い大気酸素濃度期に起きたことである。一般に真核生物の出現は大気酸素濃度の増加と調和的とされるが、前駆生物の生息環境を考えると、生物進化と環境の間には矛盾があるように思われる。つまり、真核生物と藻類・アルベオラータの前駆生物はそれぞれ嫌気性古細菌と好気性真核生物であり、それぞれ無酸素環境と有酸素環境を必要とする。私たちはこのような矛盾(危機)が生物進化を駆動したと考えている。つまり、真核生物の出現がミトコンドリアの獲得によるならば(Hampl et al. 19)、嫌気的環境を嗜好した前駆生物(嫌気性古細菌)は酸素濃度増大期を、酸素を消費するミトコンドリアの獲得によって乗り越え、藻類の前駆生物である葉緑体を持たない真核生物は、低酸素期に酸素発生生物を獲得することで、その危機を乗り越えたと考えられる。本研究ではこのように危機が生物進化を駆動したとする新たな仮説「危機進化仮説」を提案する。
原生代を通じた 海洋の酸化還元度(pO2の指標となる)を推定するために、黒色頁岩の酸化還元鋭敏元素 (RSE) 含有量、炭酸塩岩のヨウ素含有量および炭酸塩岩の Cr 同位体比の経年変化をまとめた。特に、黒色頁岩のRSE 含有量は先行研究に比べて大幅にデータ数を増やし、より詳細に変動を推定できるようにした。それらのデータは海洋の酸化還元度が原生代を通して、細かに変動したことを示しており、特に、 酸化度は22、15および8 億年前に高く、17 と 12 億年前頃に低かったことを示唆する。一方、上述のように分子時計や化石記録は、真核生物、多細胞真核生物(藻類)およびアルベオラータの出現がそれぞれ21~19億年前、17~16億年前および12 億年前頃であったことを示唆しており(Strassert et al. 21; Baludikay et al. 16; Javaux & Lepot 18)、真核生物の出現は大気酸素濃度の高かった時期、一方多細胞真核生物(藻類)やアルベオラータの出現は大気酸素濃度の低い時期と一致する。
近年では、生物と地球の共進化は広く議論されており (例: Williams & Da Silva 03)、地球生命進化史において多くの事例が挙げられている。その一つとして、原生代においてpO2 の増加が真核生物を進化させたとする仮説が提案されている(例: Condie & Sloan 98)。 しかし、本研究は、地球環境進化と生命進化において、従来とは大きく異なる二つの新たなことを明らかにした。一つは原生代の大気酸素濃度は低い状態が続いたわけでも、単調に増加したのでもなく、非常に大きくかつ細かに変動していたこと、もう一つは真核生物の出現は高い大気酸素濃度期に、一方藻類やアルベオラータの出現は低い大気酸素濃度期に起きたことである。一般に真核生物の出現は大気酸素濃度の増加と調和的とされるが、前駆生物の生息環境を考えると、生物進化と環境の間には矛盾があるように思われる。つまり、真核生物と藻類・アルベオラータの前駆生物はそれぞれ嫌気性古細菌と好気性真核生物であり、それぞれ無酸素環境と有酸素環境を必要とする。私たちはこのような矛盾(危機)が生物進化を駆動したと考えている。つまり、真核生物の出現がミトコンドリアの獲得によるならば(Hampl et al. 19)、嫌気的環境を嗜好した前駆生物(嫌気性古細菌)は酸素濃度増大期を、酸素を消費するミトコンドリアの獲得によって乗り越え、藻類の前駆生物である葉緑体を持たない真核生物は、低酸素期に酸素発生生物を獲得することで、その危機を乗り越えたと考えられる。本研究ではこのように危機が生物進化を駆動したとする新たな仮説「危機進化仮説」を提案する。