4:45 PM - 5:00 PM
[G3-O-7] Plesiomorphic characteristics in phylloceratine and lytoceratine ammonites
Keywords:ammonites, growth curve, inversion
中生代に繁栄したアンモナイト類(Ammonitida)のうち,ジュラ紀以降に多様化した系統は,三畳紀に出現したフィロセラス類(Phylloceratina)からジュラ紀最初期に派生した.中でも最初期に他の系統と分岐して白亜紀末まで生存したリトセラス類(Lytoceratina)では,成長を通じて螺環断面形状があまり変化せず,中程度から広めの臍を有する種が多い.こうした特徴は,祖先であるフィロセラス類の多くが共有する特徴,すなわち成長とともに螺環が縦長になるとともに臍が狭くなるような個体発生変異とは大きく異なる.むしろフィロセラス類に類似した個体発生変異は,リトセラス類よりも派生的な(フィロセラス類とはより遠縁の)Ammonitinaの系統で頻出する.こうしたことから,ジュラ紀以降のアンモナイト類では,外形の個体発生変異や成体の形状は系統を反映しないホモプラシーと見做されがちである.しかし,一般に,視覚的に認識される殻形状の個体発生変異は,成長の速度やタイミングが部位ごとに異なるために結果的に生じる全体的なパターンに過ぎない.これらを部位ごとの成長曲線に還元して分析することができれば,成長特性に基づく比較形態学が可能になると期待される. そこで本研究では,成長ととともに殻形状が変わる正常巻きアンモナイトの殻成長について,部位ごとの成長曲線から構築される理論形態モデルで近似して,モデルパラメータを逆解析でベイズ推定し,外形的特徴が一見大きく異なるフィロセラス類とリトセラス類の間で成長曲線パラメータを比較した.各部位の成長曲線にはロジスティックモデルを適用し,初期値,内的成長率,および成長減速開始時期の三つのパラメータで成長曲線の特徴を表した.このモデルでは,螺旋動径の成長曲線を基準とし,これに対して螺環の高さと幅の成長の速度・タイミングを変えて個体発生変異を作り出す.螺環高と螺環幅のそれぞれについて成長曲線のパラメータを推定した結果,フィロセラス類とリトセラス類のアンモナイトは,螺環高と螺環幅のいずれにおいても,内的成長率と成長減速開始時期の間に負の相関がみられた.すなわち,内的成長率は大きいが成長が早く減速し始めてしまうものから,内的成長率は小さいかわりに成長期間が長いものまでの一連の変異系列上に各々の種が並ぶことが分かった.これに対して,より派生的なAmmonitinaに属するものでは,この変異系列からはずれて内的成長率が小さく成長減速開始も早い種が多く見られた.一方,螺環高と螺環幅の初期値を推定した結果,いずれもリトセラス類の方がフィロセラス類よりも小さい値を示す傾向が認められた. 以上の結果から,螺環高と螺環幅の成長の速度と終了時期に関しては,その変異傾向がフィロセラス類とリトセラス類で類似していたことがわかった.両者の成体形状や個体発生パターンの大きな違いは,おもに螺旋動径に対する相対的な螺環サイズの初期値の違いによるものだと考えられる.異時性モデルのアナロジーで言えば,リトセラス類はフィロセラス類に比べて,著しく後方置換(post-displacement)的な幼生形態成熟(paedomorphosis)のようなものである.前述したように,フィロセラス類とリトセラス類は,ジュラ紀以降のアンモナイトの系統の根付近に位置し,互いに側系統の関係にあるが,殻の外形は一見大きく異なる.成長の速度とタイミングに関して本研究で見いだされた両グループに共通する関係性は,ある意味でジュラ紀以降のアンモナイトの共有原始形質的な属性であるといえよう.一方,より派生的なAmmonitinaは,こうした関係性の束縛から脱して,より多様な螺環成長パターンを進化させたが,その一部の種は,一見フィロセラス類と類似した外形の個体発生変異をフィロセラス類とは異なる成長曲線特性の下で実現したと考えられる.ジュラ紀以降のアンモナイトでは,視覚的に認識される外形やその個体発生変異の特徴よりも,その背後にある成長曲線特性の方が系統を反映するようである.