130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

Presentation information

Session Poster

T2[Topic Session]Metamorphic rocks and tectonics【EDI】

[2poster01-25] T2[Topic Session]Metamorphic rocks and tectonics

Mon. Sep 18, 2023 1:30 PM - 3:00 PM T2_poster (Yoshida-South Campus Academic Center Bldg.)

[T2-P-15] (entry) Prograde metamorphic history of the Pohorje Mountains (Slovenia) inferred from inclusion petrography of the garnet porphyroblast

【ハイライト講演】

*【ECS】Harui Nishi1, Tomoki Taguchi1, Tomoyuki Kobayashi2 (1. Waseda University, 2. Nagoya Gakuin University)

世話人よりハイライトの紹介:スロベニア・ポホリェ山地では超高圧変成岩が産出し,そのピーク変成条件の復元に焦点が当てられてきたが,詳細な変成進化過程は不鮮明であった.講演者らは,当地域の藍晶石エクロジャイトのざくろ石から,ラマン分光学及び熱力学的アプローチに基づく包有物岩石学的解析を駆使してプログレード変成履歴の解読に成功した.ポホリェ山地における,地殻物質が超高圧条件に至る一連の変成過程の解明に貢献することが期待される.※ハイライトとは

Keywords:Ultra-high pressure metamorphic rock, Prograde metamorphic history, Pohorje Mountains, Inclusion

ポホリェ山地は東アルプス・スロベニア北東部に位置し、超高圧変成作用を経験した泥質片麻岩やエクロジャイト等が広く産出する(Vrabec et al., 2012 Lithos; Janák et al., 2015 JMG)。当地域は、ざくろ石中のマイクロダイヤモンド及びコース石仮像の存在や熱力学的解析により、ピーク変成作用時に超高圧条件(> 3 GPa)を経験したと考えられている。これまで先行研究の多くは、当地域におけるピーク変成条件の復元に焦点が当てられてきた。しかし近年、超高圧変成岩体の産出は限定的であるという指摘(Li et al., 2021 JMG)もあり、ポホリェ地域における詳細な変成進化過程の解明が求められている。プレート沈み込みから衝突に至る一連の変成史を理解する上で、変成岩に記録されるプログレード期の情報抽出は不可欠である。本研究は、ポホリェ山地に産する藍晶石エクロジャイトを対象に、ラマン分光学及び熱力学的アプローチに基づく包有物岩石学の視点からプログレード変成履歴を検証した。
 本試料は沈積岩由来の全岩化学組成を有し、その基質部ではエクロジャイト相の鉱物共生が認められる:ざくろ石+オンファス輝石(XJd = 0.24–0.33)+藍晶石+石英+ルチル±普通角閃石±灰簾石±白雲母。ざくろ石は半自形の斑状変晶(数mm–3 cm)として産する。我々は本試料のざくろ石組成情報を報告済みであり(西ほか,2022 地質学会講演要旨)、その特徴はグロシュラー成分が結晶中心部から最外縁部へ僅かな単調減少を示すが、パイロープ成分は中心部から外縁部に向かい減少した後、再び最外縁部で増加することにある。ざくろ石の組成累帯構造と包有物共生の変化には対応関係が認められ、本研究ではコア部・マントル部・インナーリム部・アウターリム部と定義した。ざくろ石コア部では藍晶石+灰簾石の包有鉱物が広く認められ、これらは原岩の斜長石に由来する分解生成物と解釈できる。マントル部の鉱物共生は、藍晶石+灰簾石+角閃石+緑泥石+Mg十字石(XMg = 0.56–0.64)により特徴付けられる。Mg十字石はその化学組成傾向から生成時の環境場を推定できる(中村,2004 岩石鉱物科学)。そこで今回、中村(2004 岩石鉱物科学)のデータセットに加え、世界各地の変成岩で報告されたMg十字石の組成データを新たにまとめ、本試料との比較検証を行った。その結果、ざくろ石マントル部にのみ観察される十字石は、高圧かつSiO2不飽和環境で形成されたことが示された。ざくろ石インナーリム部では、藍晶石+角閃石+白雲母+石英+オンファス輝石+赤鉄鉱+ルチル±灰簾石が観察される。一方、ざくろ石アウターリム部は清澄であり、藍晶石包有物のみが認められる。
 石英の安定領域変化を検討するため、MnNCKFMASHTO系に関するシュードセクション図を作成した。その結果、石英初出線が高圧側に位置し、プログレード期全体で普遍的に産出しないことが示された。実際、石英包有物の分布がざくろ石インナーリム部に限定されること、及びMg十字石がマントル部にのみ産し石英と共存しない事実と矛盾しない。また、石英ラマン圧力計(Kouketsu et al., 2014 AM)をざくろ石インナーリム部の石英に適用した結果、P/T= 約2.3–2.4 GPa/ 740–770 °Cの変成条件が見積もられた(変成温度値はざくろ石―単斜輝石温度計に基づく)。先行研究で報告されたMg十字石の安定領域(Gil-Ibarguchi et al., 1991 AM; Simon et al., 1997 Lithos)、及びシュードセクション図に基づくオンファス輝石と石英の安定領域を考慮すると、ポホリェ地域の藍晶石エクロジャイトは高dP/dTのプログレード変成経路を経験したことが示唆される。ざくろ石アウターリム部の変成条件を推定できる包有物共生は現状認められないが、結晶最外縁部のパイロープ成分が増加する特徴から、ピーク超高圧変成条件(P/T = 3.0–3.7 GPa/710–940 °C: Vrabec et al., 2012 Lithos)に相当する可能性が高い。本研究成果は、藍晶石エクロジャイト中のざくろ石がプログレード期の岩石学的情報をよく記録し、ポホリェ山地の変成履歴解明に貢献すると考えられる。